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第1章 死神の選択。そして堕ちた世界。
1-5 主者
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吸い込まれるようにアールズの目から逸らせないでいると。あの男が割って入って来た。
「旦那様。ついでと言っては何ですが、その奴隷もお買い求め頂いては?」
「そうだな。歳はいくつだ?」
アールズが男に振り向いているけど、男は答えを口に出来ない。当たり前の話だ。
「おい! お前。歳はいくつだ!」
男の大きな怒鳴り声が耳を引き裂く。
「……十八歳です」
小さく答えると、何故かアールズの口元が少し綻んだように見えた。
「十八か。良い歳だ。名前は何と言う?」
「颯斗です」
「人生か。良い名前だな。俺の名前はアールズだ。人生に欲望は付き物だ」
意味が分からなかった。颯斗と言う名前が人生を意味し。アールズと言う名前が欲望を意味する事は分かったけど、アールズの意図は見えない。だけどその答えをアールズはいとも簡単に披露した。
「ついて来い。今から俺がお前の主だ」
「へぇー。へー。旦那様。ありがとうございます」
こうして俺はアールズに買われた。堕とされた奴隷市を抜け出る時があっさりと来たのだ。頭陀袋で目隠しをされ連れて来られた奴隷市。俺はまだ堕とされたこの世界を見ていない。
「……お前達二人は先に馬車に乗っていなさい。アールズ様が支払いを済ませ次第、屋敷へ帰るが、それまでは大人しく待つように。分かったね」
カフヤに促され、イッキと二人で馬車に乗り込む。馬車を運転する者の目もあるし、奴隷市の門番達の目もある。逃げ出そうなんて気にはなれないけど、カフヤが念を押したと言う事は、逃げ出す奴も多くいるんだろう。
「……お前も買ってもらえたんだな。やっぱり俺が見込んだだけあって、あの男は羽振りがいいんじゃないか」
イッキの機嫌はすこぶる良いようだった。希望通りの、地位が高くて金持ちで若い格好いい男。イッキの目にはアールズがそんな男に映っているらしい。
「……なあ、イッキ。アールズって欲望って言う意味なのか?」
「そうだけど。それがどうした」
「俺達を買った男。あの男の名前が欲望だって。そして俺の名前を人生だって言ったんだ」
「ああ、ハヤットか。お前の名前はハヤトじゃなくてハヤットなんだな。そして旦那様はアールズ様か。俺の名前なんて二番目に生まれたから単純に数字の二って付けられたんだ。つまんねぇだろ?」
イッキが笑う。奴隷なんて位置でこの世界に堕とされたけど、イッキと同じ男に買われた事で何とかやって行けそうな気にもなれている。友達や仲間だとは言えないけど、この世界でまともに関わったのはまだイッキだけだ。
「……待たせたな。さあ、これからアールズ様の屋敷へと向かうぞ」
カフヤが馬車に乗り込んできた。アールズは前の馬車に乗ったようで姿は見せない。
「……二人に先に言っておく。お前達は奴隷だ。奴隷としてアールズ様に買われたのだ。お前達の主はアールズ様だ。……アールズ様のお言葉は絶対だ。分かっているな」
「ああ、もちろん」
先に答えたのはイッキだった。自ら望んだアールズの奴隷と言う道だ。イッキにとっては当然の事なんだろう。
「ハヤットも分かっておるな」
「はい」
小さな声で答える。まだイッキのように全てを受け入れる覚悟は出来ていない。——性奴隷。頭を離れない言葉に心が萎んでいく。
「……屋敷に着いたら、イッキ。お前は私と来るように。そしてハヤット。お前はアールズ様と行きなさい」
「え? それってどう言う事だよ! 俺はアールズ様の相手をする為に買われたんじゃないのか?」
イッキが大きな声を挙げた。
「何を言っておる。屋敷での雑用のために使える奴隷が欲しいと、私がアールズ様に所望したんだ。何も難しい事はさせない。もちろん肉体労働ではあるが、頭を使う事はない。お前は私の指示に従ってただ働いとおればいいのだ!」
カフヤがイッキに厳しい目を向ける。その鋭さにイッキはそれ以上何も言わなかった。
「あの、すいません。カフヤさん。俺は? 俺もカフヤさんの指示に従えばいいんですか?」
アールズと行けとは言われたけど、指示はアールズに仰げと言う事だろうか。
「ハヤットの事を私は聞いてはいないんだ。ハヤットを所望されたのはアールズ様ご自身。とりあえず粗相のないようにアールズ様に仕えなさい。私が言ってやれる事はそれだけだ。……さあ、屋敷に着いた。二人共馬車を降りなさい」
カフヤの声に一瞬体が固まった。アールズは何を求めるんだろう。不安で震え出しそうな背中を、「さあ」と、カフヤが押す。……何が待ち構えていたとしても、もう戻る道はないんだ。
乗り越えろ。アズライルの最後の言葉を思い出しながら、ゆっくり馬車からの一歩を下ろす。
「旦那様。ついでと言っては何ですが、その奴隷もお買い求め頂いては?」
「そうだな。歳はいくつだ?」
アールズが男に振り向いているけど、男は答えを口に出来ない。当たり前の話だ。
「おい! お前。歳はいくつだ!」
男の大きな怒鳴り声が耳を引き裂く。
「……十八歳です」
小さく答えると、何故かアールズの口元が少し綻んだように見えた。
「十八か。良い歳だ。名前は何と言う?」
「颯斗です」
「人生か。良い名前だな。俺の名前はアールズだ。人生に欲望は付き物だ」
意味が分からなかった。颯斗と言う名前が人生を意味し。アールズと言う名前が欲望を意味する事は分かったけど、アールズの意図は見えない。だけどその答えをアールズはいとも簡単に披露した。
「ついて来い。今から俺がお前の主だ」
「へぇー。へー。旦那様。ありがとうございます」
こうして俺はアールズに買われた。堕とされた奴隷市を抜け出る時があっさりと来たのだ。頭陀袋で目隠しをされ連れて来られた奴隷市。俺はまだ堕とされたこの世界を見ていない。
「……お前達二人は先に馬車に乗っていなさい。アールズ様が支払いを済ませ次第、屋敷へ帰るが、それまでは大人しく待つように。分かったね」
カフヤに促され、イッキと二人で馬車に乗り込む。馬車を運転する者の目もあるし、奴隷市の門番達の目もある。逃げ出そうなんて気にはなれないけど、カフヤが念を押したと言う事は、逃げ出す奴も多くいるんだろう。
「……お前も買ってもらえたんだな。やっぱり俺が見込んだだけあって、あの男は羽振りがいいんじゃないか」
イッキの機嫌はすこぶる良いようだった。希望通りの、地位が高くて金持ちで若い格好いい男。イッキの目にはアールズがそんな男に映っているらしい。
「……なあ、イッキ。アールズって欲望って言う意味なのか?」
「そうだけど。それがどうした」
「俺達を買った男。あの男の名前が欲望だって。そして俺の名前を人生だって言ったんだ」
「ああ、ハヤットか。お前の名前はハヤトじゃなくてハヤットなんだな。そして旦那様はアールズ様か。俺の名前なんて二番目に生まれたから単純に数字の二って付けられたんだ。つまんねぇだろ?」
イッキが笑う。奴隷なんて位置でこの世界に堕とされたけど、イッキと同じ男に買われた事で何とかやって行けそうな気にもなれている。友達や仲間だとは言えないけど、この世界でまともに関わったのはまだイッキだけだ。
「……待たせたな。さあ、これからアールズ様の屋敷へと向かうぞ」
カフヤが馬車に乗り込んできた。アールズは前の馬車に乗ったようで姿は見せない。
「……二人に先に言っておく。お前達は奴隷だ。奴隷としてアールズ様に買われたのだ。お前達の主はアールズ様だ。……アールズ様のお言葉は絶対だ。分かっているな」
「ああ、もちろん」
先に答えたのはイッキだった。自ら望んだアールズの奴隷と言う道だ。イッキにとっては当然の事なんだろう。
「ハヤットも分かっておるな」
「はい」
小さな声で答える。まだイッキのように全てを受け入れる覚悟は出来ていない。——性奴隷。頭を離れない言葉に心が萎んでいく。
「……屋敷に着いたら、イッキ。お前は私と来るように。そしてハヤット。お前はアールズ様と行きなさい」
「え? それってどう言う事だよ! 俺はアールズ様の相手をする為に買われたんじゃないのか?」
イッキが大きな声を挙げた。
「何を言っておる。屋敷での雑用のために使える奴隷が欲しいと、私がアールズ様に所望したんだ。何も難しい事はさせない。もちろん肉体労働ではあるが、頭を使う事はない。お前は私の指示に従ってただ働いとおればいいのだ!」
カフヤがイッキに厳しい目を向ける。その鋭さにイッキはそれ以上何も言わなかった。
「あの、すいません。カフヤさん。俺は? 俺もカフヤさんの指示に従えばいいんですか?」
アールズと行けとは言われたけど、指示はアールズに仰げと言う事だろうか。
「ハヤットの事を私は聞いてはいないんだ。ハヤットを所望されたのはアールズ様ご自身。とりあえず粗相のないようにアールズ様に仕えなさい。私が言ってやれる事はそれだけだ。……さあ、屋敷に着いた。二人共馬車を降りなさい」
カフヤの声に一瞬体が固まった。アールズは何を求めるんだろう。不安で震え出しそうな背中を、「さあ」と、カフヤが押す。……何が待ち構えていたとしても、もう戻る道はないんだ。
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