オタク司令塔と六人の帰還英雄~日本を救う最終迎撃作戦~

K2画家・唯

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第8章:黒幕の影

第37話「刺客との対決」

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紅蓮の火文が完成した瞬間、都心の空気が一変した。円環から立ち上がる炎の壁は高さ十メートルを超え、宅男たちの退路を完全に断っていた。焦げ臭い匂いと熱風が周囲を包み、アスファルトが溶け始める音が不気味に響いている。

避難民たちが悲鳴を上げながら炎壁から逃げ惑う中、森下優斗はカメラを肩に担ぎ直した。生中継の準備は完了している。彼の判断は迅速だった。この瞬間を、全国に伝えなければならない。

「こちら森下です。都心で異常事態が発生しています」

森下の声がカメラ越しに響く。

「日本を守る戦いが、今ここで行われています」

彼の実況が電波に乗ると同時に、SNSでも拡散が始まった。モニター越しに見つめる人々の心に、緊張と期待が走る。

米田美咲は特殊作戦群の隊員たちに手信号を送っていた。炎壁が避難路を断った今、市民の安全確保が最優先だった。

「カット」

「退避」

「分散」

三語指示が飛び交う。隊員たちは散水装置と遮熱盾を配置し、炎壁の影響を最小限に抑えようとしていた。しかし、紅蓮の炎は通常の火災とは次元が違う。装備の限界が見え始めていた。

宅男は炎の轟音の中でも、冷静に状況を整理していた。紅蓮は炎壁の中央に立ち、感情を欠いた瞳で宅男を見つめている。彼女の狙いは明確だった。結界ノードの破壊と、指揮系統である宅男への攻撃。

「勇、前面」

宅男の短い指示が響いた。

斎藤勇は消耗で膝を震わせながらも、立ち上がった。不可視剣を握る手に力を込める。炎を断つ。それが今の自分にできる、唯一の貢献だった。

「龍一、風」

次の指示が飛ぶ。

赤城龍一はシルフと共に風の壁を展開し始めた。炎の舌を押し返し、市民が逃げられる通路を作らなければならない。シルフの鳴き声が、熱風の中でも力強く響いた。

「凪、抑え」

最後の指示。

根黒凪は影渡りで紅蓮に接近していく。直接的な攻撃は困難だが、動きを乱すことはできる。影の面を展開し、紅蓮の足元を狙った。

紅蓮は三人の動きを無表情に見つめていた。感情は希薄だが、戦術眼は鋭い。勇の不可視剣、龍一の風、凪の影。それぞれの能力を瞬時に分析し、対策を講じる。

「無駄な足掻きだ」

紅蓮が初めて感情らしきものを声に込めた。任務への執着。それが彼女の唯一の生きる理由だった。

炎の剣を振り上げると、炎壁がさらに勢いを増す。勇の不可視剣が炎を断とうとするが、紅蓮の炎は斬られても瞬時に再生してしまう。龍一の風が炎の舌を押し返そうとするが、火勢は衰えない。凪の影が足元を絡めようとするが、高熱で影そのものが歪んでしまう。

しかし、三人の連携は無駄ではなかった。わずかな隙間が生まれ、避難民の一部が炎壁の外へ逃げることができた。米田の隊員たちが即座にその隙間を広げ、安全回廊を確保する。

「いいぞ、頑張れ」

避難民の中から声援が上がった。森下のカメラがその様子を捉える。

「帰還者たちが市民を守っています。彼らは本当に戦っています」

森下の実況に熱が入る。カメラ越しに見つめる人々の心に、帰還者たちへの支持が芽生え始めていた。

氷川結は遠隔結界の制御に集中していた。炎壁の一角を局所的に冷却し、突破口を作ろうとしている。しかし、消耗の激しさから、指先の震えが止まらない。

「氷精よ」

結が小さく呟いた。氷の妖精たちが彼女の周りを舞い、結界の蜂巣構造を細かく調整していく。一格ずつ、丁寧に冷却を施していく。炎壁の一部に、わずかな温度差が生まれた。

小林作良は装置の守護に全力を注いでいた。火熱による損傷を最小限に抑え、結界ノードの機能を維持する。彼女の工房技術が、この瞬間にも生きていた。

「同調、維持」

作良の声は疲労で掠れているが、手の動きは確実だった。

箱根秋奈は避難ルートの再構築に奔走していた。炎壁で断たれた搬送列を、別のルートで安全地帯へ逃がさなければならない。彼女の交渉術と物流知識が、ここでも威力を発揮する。

「裏口から地下駐車場、そこから幹線道路へ」

秋奈の指示で、搬送車列が新たなルートを進んでいく。

しかし、紅蓮は彼らの努力を冷ややかに見つめていた。炎壁をさらに拡大し、避難ルートを再び封鎖する。そして、炎の剣を構え直すと、宅男へ向かって一直線に突撃を開始した。

炎壁が爆ぜ、火の粉が舞い散る。紅蓮の速度は人間の限界を超えていた。

「宅男」

結の悲鳴に近い声が響く。

しかし、勇が立ちはだかった。不可視剣を横に振り、紅蓮の炎刃を受け止める。金属がぶつかり合う音が響き、火花が散った。

「俺が、受ける」

勇の声に、かつての挫折はもうない。誰かのために剣を振るう。それが、彼の新たな生きる意味だった。

龍一がシルフと共に風の壁を展開し、紅蓮の炎を押し戻す。シルフが真竜形態に変化し、全長五メートルの威厳ある姿で炎に立ち向かった。

「シルフ、今だ」

龍一とシルフの絆が、この瞬間に輝いている。

凪が影渡りで紅蓮の背後に回り込み、足元を影で絡めた。紅蓮の動きが一瞬止まる。その隙を、三人が見逃すはずはなかった。

勇の不可視剣が紅蓮の炎刃を弾き、龍一の風が炎を散らし、凪の影が動きを封じる。三重の防御が、宅男を守っていた。

「チームワーク、だな」

宅男が小さく呟いた。力のない自分を、力ある者たちが支えている。それが、彼らの戦い方だった。

紅蓮は三人の連携に阻まれ、攻撃を続けることができなくなった。無表情な顔に、わずかな苛立ちが浮かぶ。

「この程度で」

彼女が炎の剣を振り上げた時、結の氷精たちが炎壁の一部を崩した。局所冷却の効果が、ついに現れたのだった。炎壁に大きな穴が開き、避難民たちが次々と脱出していく。

森下のカメラが、その瞬間を捉えていた。

「やりました。炎壁が崩れました。市民が避難しています」

森下の興奮した声が電波に乗る。SNSでは既に数万回の拡散が始まり、「帰還者チーム支持」のコメントが溢れていた。

紅蓮は状況の変化を冷静に分析した。炎壁の崩壊、市民の脱出、報道による世論の変化。任務の継続は困難と判断する。

「撤退する」

彼女は感情を欠いた声で呟いた。

「だが、次は容赦しない」

炎の剣を地面に突き立てると、周囲に火の粉が舞い散った。そして、煙に紛れて姿を消していく。

炎壁が完全に崩れ落ちると、市街に静寂が戻った。しかし、焦げ臭い匂いと溶けたアスファルトが、激しい戦いの痕跡を物語っている。

避難民たちから拍手が起こった。涙を流しながら、帰還者たちに感謝の言葉を投げかける人々もいた。

「ありがとう」

「本当にありがとう」

「あなたたちが日本を守ってくれた」

森下のカメラが、その感動的な場面を全国に伝えていた。

「これが現実です。帰還者たちは本当に日本を守っています」

森下の声に、深い感動が込められていた。

早川修一は政府情報官として、現場の判断を支持した。帰還者チームの能力と意志を、政府として正式に認める時が来ていた。

宅男は胸を押さえながら、仲間たちを見回した。勇は消耗で膝をついているが、満足そうな表情を浮かべている。龍一はシルフと共に、疲れ切った様子で座り込んでいた。凪は影の中で、いつものように皮肉な笑みを浮かべている。結は遠隔結界の制御を解除し、ほっとした表情を見せていた。作良は装置の最終チェックを続け、秋奈は避難ルートの最終確認を行っていた。

「みんな、お疲れ様」

宅男が小さく声をかけた。

しかし、彼の心には不安が残っていた。紅蓮の最後の言葉。「次は容赦しない」。あの冷徹な瞳に宿った殺意は、まだ消えていない。

「次は総力戦だ」

宅男が呟いた時、空の向こうに二つの影がちらりと見えた。エルフの優雅なシルエットと、獣人の力強い影。エリスとガルドが、遠くから戦いの様子を見守っていたのだった。彼らの参戦も、そう遠くないかもしれない。

森下の中継は続いていた。SNSでの拡散も止まらず、世論は確実に帰還者チーム支持に傾いている。政府も、もはや彼らの存在を無視することはできなくなった。

米田の部隊は現場の安全確認を続けていた。炎による被害は最小限に抑えられ、負傷者もいない。奇跡的な結果だった。

しかし、紅蓮という脅威は去っていない。彼女の任務は完遂されていない以上、必ず再び現れるだろう。その時こそが、本当の総力戦になる。

宅男は最小プロトコルを確認しながら、次の戦いに向けて準備を始めていた。合図、実施、復唱、停止。この四拍子が、彼らを勝利に導いた。次もきっと、この基本を守り抜けば道は開ける。

避難民たちは完全に安全地帯へ避難し、搬送車列も無事に目的地へ到着した。作良の装置は損傷を受けながらも機能を維持し、結の結界ノードも健在だった。

「今日は、勝った」

勇が小さく呟いた。

「でも、戦争はまだ終わっていない」

凪が現実的な指摘をする。

「だからこそ、今日の勝利を大切にしよう」

龍一が前向きに言った。

宅男は仲間たちの言葉を聞きながら、改めて決意を固めていた。力のない自分が、力ある者たちを導いて日本を救う。その使命は、まだ終わっていない。

紅蓮の影が完全に消えた今、市街は平穏を取り戻していた。しかし、その平穏がいつまで続くかは誰にもわからない。黒幕の白影は、まだ動いていないのだから。

森下のカメラが、最後に宅男たちの疲れ切った姿を映し出した。それでも、彼らの瞳には諦めの色はない。日本を守るという意志が、まだ燃え続けている。

「これで終わりではありません」

森下が最後の実況を入れた。

「彼らの戦いは、まだ続きます」

中継が終わると、宅男は静かに空を見上げた。白い雲が流れ、青空がのぞいている。平和な日常風景。それを守るために、彼らは戦い続けるのだった。

第37話 終わり
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