オタク司令塔と六人の帰還英雄~日本を救う最終迎撃作戦~

K2画家・唯

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第9章:黒幕決戦

第42話「戦略的撤退」

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白影の魔均衡術によって攻撃が完全に相殺された瞬間、宅男は冷静に判断を下した。この状況で無理を重ねれば、仲間たちを危険に晒すだけだ。撤退する。それが今できる最良の選択だった。

「後退だ」

宅男の短い指示が聖堂に響いた。

「カット」

全員が復唱する。

「右後方」

秩序ある撤退の開始だった。最小プロトコルが、混乱を防ぐ唯一の支えになっている。

氷川結は瞬時に氷階梯の構造を変更した。攻撃用の足場から後退用の橋へと張り替え、チーム全体の撤退路を確保する。光のゆらぎが激しくなる中で、氷の道筋が確実に仲間たちを誘導していく。

斎藤勇は不可視剣を防御に使い、崩れかけた瓦礫や幻光を斬り払った。魔均衡術の余波で空間が不安定になり、天井から破片が落下し始めている。勇の剣が見えない盾となって、チームの安全を守っていた。

小林作良は過負荷で悲鳴を上げる装置を抱えながら後退していた。攻勢同調装置は限界を超えた負荷で警告音を発し続けているが、完全に停止させるわけにはいかない。後退しながらの応急補修が続いていた。

赤城龍一はシルフと共に風壁を展開し、炎と塵を押し返していた。聖堂の空気が不安定になり、熱波と冷気が交互に押し寄せてくる。龍一の風がそれらを制御し、退路を確保していた。

根黒凪は影渡りで白影の幻像を撹乱し、追撃を防いでいた。魔均衡術の影響で幻像が多数発生しているが、凪の影がそれらを封じ込めている。真の脅威と偽の幻影を見分ける彼女の能力が、チームを守っていた。

箱根秋奈は負傷兵や重要な資材をアイテムボックスに収納し、撤退速度を上げていた。作良の装置の一部部品や、応急処置が必要な隊員たちを次々と収納していく。彼女の能力が、撤退の効率を大幅に向上させていた。

米田美咲は特殊作戦群を率いて後衛に張り付き、三語命令でチーム全体を支えていた。

「線守れ」

「下がれ」

「急げ」

短い命令が部隊を律し、秩序ある撤退を維持している。

早川修一は撤退を政治判断としても承認していた。

「後退も作戦の一部だ」

早川の確認が、撤退への正当性を与えている。

森下優斗は撤退の一部始終を記録し続けていた。声を抑えながらも、生き延びた姿を歴史に残そうとしている。この撤退もまた、重要な記録になるだろう。

しかし、白影は追撃することなく、幻声だけを響かせていた。

「逃げよ、そして絶望の中で均されよ」

冷徹な声が空間を覆い、撤退する者たちを嘲る。

「均衡は必ず代償を求める。逃げても破局は来る」

宅男は白影の言葉を無視し、仲間たちの安全確保に集中していた。恐慌を起こさせるための心理戦だと理解している。

結界が破れかけ、聖堂の構造そのものが不安定になってきた。勇が身を張って崩落部分を切り開き、退路を確保する。不可視剣が物理的な障害を除去し、チーム全体の脱出を可能にしていた。

凪が影で幻像を封じ、龍一が風で熱波を押し戻す。二人の連携が、白影の妨害を最小限に抑えていた。

ギリギリで全員が地上回廊に抜けることができた。聖堂の入口が崩れ落ち、一時的に白影との距離を置くことに成功した。

地上に出ると、清涼な空気が肺を満たした。聖堂の異様な雰囲気から解放され、チーム全体がほっとした表情を見せる。

米田の部隊が安全回廊を維持し、避難済みの民間ラインとの合流を確保していた。後方支援体制は完璧で、撤退作戦は成功していた。

宅男は仲間たちを見回しながら、撤退の意義を明確にした。

「勝つための退却だ」

宅男の断言に、全員が頷いた。

「白影の能力は理解できた。魔均衡術は確かに強力だが、必ず弱点がある」

作良が装置の損傷状況を確認しながら報告した。

「過負荷は深刻だが、修復は可能。次の戦いまでには間に合わせる」

結が氷階梯を解除しながら、魔均衡術の分析を始めていた。

「相手の力を反転させる術には、必ず条件がある。それを見つければ」

勇が不可視剣を収めながら、新たな戦術の可能性を考えていた。

「一斉攻撃が駄目なら、別の方法がある」

龍一がシルフと息を合わせながら、空間制御の可能性を探っていた。

「風の流れを読めば、反転攻撃の予兆が分かるかもしれない」

凪が影の感触を確かめながら、幻像対策を検討していた。

「本体と幻影の区別は可能。次は騙されない」

秋奈がアイテムボックスから資材を取り出しながら、補給計画を立て直していた。

「長期戦に備えた準備が必要。予備装備を増やそう」

米田が部隊の配置を確認しながら、次の作戦への協力を約束していた。

「特殊部隊の支援は継続する。新たな戦術に対応できる」

早川が政府との連絡を取りながら、作戦継続の承認を確保していた。

「撤退は敗北ではない。分析と準備の時間を得た」

森下が記録を整理しながら、撤退の意義を確認していた。

「この記録が次の勝利に繋がる」

宅男は小さなノートを開き、新たな戦術の構想を練り始めていた。

「非対称。位相ずらし。段付き投入」

魔均衡術を破る鍵がここにある。同調を崩し、一斉攻撃を避ける。時間差を利用した攻撃パターンの構築。それが次の戦いの核心になるだろう。

「一人ずつ、順番に、時間をずらして」

宅男が戦術の概要を説明し始めた。

「魔均衡術は合力を反転させる。ならば、合力を作らなければいい」

仲間たちが宅男の説明に耳を傾けている。新たな可能性への希望が、疲労を吹き飛ばしていた。

「個別攻撃の連続。それぞれが独立した力として白影に向かう」

結が理解を示した。

「結界も段階的に展開すれば、反転されにくくなる」

勇が同意した。

「剣も一撃ではなく、連続した小さな斬撃で」

龍一が風の可能性を語った。

「風も層を作って、段階的に押し出せば」

凪が影の戦術を提案した。

「影も一度に全てではなく、少しずつ忍び寄らせる」

作良が技術的な裏付けを提供した。

「装置も出力を分散すれば、過負荷を避けられる」

秋奈が資材面での支援を約束した。

「補給も段階的に行えば、安定した戦闘が可能」

チーム全体が新たな戦術への合意を形成していた。撤退によって得られた時間と分析結果が、次の勝利への道筋を示している。

米田の部隊は警戒を続けながら、新たな作戦への準備を始めていた。早川は政府への報告と次段階の承認取得に動いている。森下は撤退の記録を整理し、次の戦いの記録準備を進めていた。

白影の幻声はもう聞こえない。地下聖堂は静寂に包まれ、次の対決を待っている状態だった。

宅男は仲間たちの顔を見回しながら、決意を新たにしていた。

「今度こそ、勝つ」

短い言葉だったが、強い意志が込められていた。

「誰も切り捨てない。全員で勝利を掴む」

撤退は敗北ではない。分析と準備のための戦略的後退だった。魔均衡術の原理を理解し、対策を練り上げた今、チームは新たな段階に進む準備ができている。

白影の能力は確かに強力だった。しかし、宅男たちには新たな希望がある。非対称攻撃による魔均衡術の無力化。それが次の戦いの鍵になるだろう。

夜明けの光が地平線に見え始めていた。長い夜が終わり、新たな一日が始まろうとしている。チームは息を整え、次なる逆襲プランの構築に向けて動き出していた。

撤退によって失ったものもあるが、得たものの方が大きい。白影の能力の分析、新戦術の着想、チーム結束の深化。すべてが次の勝利への礎になっている。

宅男は小さなノートに最後の一行を書き加えた。

「段階的攻撃。時間差連続。合力回避」

これが、魔均衡術を破る戦術の核心だった。次の戦いで、この理論を実戦に移す時が来る。

仲間たちは皆、疲労の中にも希望を宿していた。撤退の苦さよりも、次への可能性の方が大きい。それが、彼らの強さだった。

早川が最終確認を行った。

「次の作戦承認まで、準備時間は十分ある」

米田が部隊の状況を報告した。

「隊の士気は高い。新戦術への対応も可能」

森下が記録の整理を完了した。

「撤退の記録も含めて、すべてが歴史になる」

宅男は立ち上がり、仲間たちに向かって最後の言葉をかけた。

「休息を取ろう。次は必ず勝つ」

チーム全体が頷き、一時的な休息に入る準備を始めた。戦略的撤退は完了し、次の逆襲プランの構築が始まろうとしていた。

第42話 終わり
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