オタク司令塔と六人の帰還英雄~日本を救う最終迎撃作戦~

K2画家・唯

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第9章:黒幕決戦

第45話「勝利の代償」

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地下聖堂の壁が震え続けていた。赤い逆共振陣は暴走し、明滅のリズムが人の呼吸を乱し、空間そのものが歪んでいるようだった。間二屋宅男は汗を拭いながら、仲間たちの動きを見渡した。段打ち作戦が効いている。白影の均衡術に初めて綻びが見えた瞬間だった。

「戻る前に崩せ、段を踏め!」

宅男の声が響く。もう迷う時間はなかった。

氷川結は膝をついていたが、まだ立ち上がった。蜂巣構造の結界は既に三分の一が破損していたが、残った部分で必死に守りを固めていた。氷精たちが小さな身体を震わせながら、編み目を締め直している。結の息は荒く、魔力の枯渇が近づいていることは明らかだった。

「まだ、私たちが守らなきゃ」

結の呟きは小さかったが、決意に満ちていた。弱さを守る強さ。それが彼女の答えだった。

斎藤勇は不可視剣を構え直した。これまでの迷いは消えていた。勇者に選ばれなかった傷も、自分を責める気持ちも、今はどうでもよかった。目の前には守りたい仲間がいる。それで十分だった。

「今度は俺が守るために斬る」

勇の声に迷いはなかった。不可視剣が空間を歪ませ、光と影の層を纏った白影に向かって放たれる。剣は見えないが、その軌跡には確かな意志があった。

赤城龍一は相棒のシルフと共に空中にいた。竜は既に真の姿を現し、全長五メートルの翼を広げて突撃の準備を整えていた。龍一の目は燃えていた。

「シルフ、行くぞ!風の道を作れ!」

竜の咆哮が聖堂に響き、風の面が形成された。乱流を均す技術で、仲間たちの攻撃軌道を安定させる。龍一とシルフの突撃が白影の防壁に風穴を開けていく。

根黒凪は影の中から死者の幻を呼び出していた。記録データに残された戦死兵たちの声が、システムを通じて響く。彼らの記憶、戦闘知識、そして意志が白影の精神を揺さぶった。

「お前の均衡なんて、死者の願いの前では無力だ」

凪の影が床を這い、白影の足元に巻きついていく。死者たちは白影に問いかけていた。何のための戦いなのか、何のための犠牲なのかと。

小林作良は工房から持参した装置を限界まで稼働させていた。位相ずらし装置の数値が警告音と共に跳ね上がっている。それでも作良は手を止めなかった。

「みんなの段打ちを、繋ぎとめる」

装置が火花を散らし始めた。作良の手に電流が走り、彼女は小さく呻いた。それでも装置を止めない。均衡崩壊の瞬間を掴むため、彼女は自分の身体を賭けていた。

箱根秋奈は最後の触媒を手にしていた。高純度の魔鉄片と、アイテムボックスに残された全ての資材。これを使えば確実に一財産を失う。それでも彼女は躊躇しなかった。

「損でいい。今は通す」

秋奈の言葉は静かだったが、覚悟に満ちていた。高野彩乃の顔が頭に浮かぶ。利益を超えたもの。それが今の彼女を動かしていた。

エリス・レインフォールとガルド・ストームブリンガーは異世界の力を解放していた。エリスの魔法が空間に星座のような軌道を描き、ガルドの剣が物理法則を無視した軌道で白影の術式を裂いていく。

「星が隠れても道は消えない」

エリスの声が響く。異世界で培った経験と技術、そして仲間への想いが彼女の魔法に力を与えていた。

白影は光と影の層を激しく揺らめかせていた。均衡術を極限まで発動し、攻撃の合力を等価反力に変えようとしている。だが段打ちの攻撃は同調していない。位相がずれ、タイミングが微妙に違う。均衡術の計算が追いつかない。

「不可能だ、均衡は絶対の理だ」

白影の声に初めて動揺が混じった。仮面の奥の空洞から光が漏れ始める。

宅男は状況を見極めていた。全員の攻撃が重なる瞬間、それが勝負の分かれ目だった。計算ではなく、直感で分かった。今だ。

「いま、全員!」

宅男の号令と共に、七人と二人の異世界の仲間、そして政府・軍の協力者たちの意志が一つになった。それは同調ではない。むしろ、それぞれが異なるリズムで、異なるタイミングで、しかし同じ目標に向かって力を注ぐことだった。

結の結界が白影の反撃を受け止め、勇の不可視剣がその隙を突いて白影の本体に到達した。龍一とシルフの突撃が防壁を粉砕し、凪の影と死者の幻が白影の精神を乱した。作良の装置が均衡の崩壊を決定づけ、秋奈の触媒が魔力の流れを安定させた。エリスとガルドの異世界の力が、この世界では不可能な攻撃を可能にした。

白影の均衡術が崩壊した。

光と影の層が剥がれ落ち、仮面が砕け散る。その奥にあったのは、もはや人の形を保てない光の渦だった。勇の不可視剣が、その中心を貫いていた。

「犠牲なく勝利などあり得ぬ」

白影の最後の言葉が聖堂に響き、光の渦は消えていった。逆共振陣の赤い光も次第に薄れ、壁の震えが止まった。時間の歪みが解け、呼吸が楽になる。

静寂が訪れた。

宅男は立ち上がり、仲間たちを見回した。勝ったのだ。だが、喜びの前に心配が先に立った。

「作良!」

小林作良は装置の前で倒れていた。手は焼けただれ、意識を失っている。電流による火傷が腕全体に広がっていた。

「大丈夫、呼吸はある」

勇が作良の脈を確認する。命に別状はないが、重傷であることは間違いなかった。

エリス・レインフォールはゆっくりと振り返った。彼女の身体は半透明になり始めていた。

「私の役目は終わりました。異世界に戻ります」

エリスの声は穏やかだったが、別れの響きがあった。力を使い果たしたのだ。

「エリス」

宅男が呼びかけたが、エリスは微笑んで首を振った。

「あなたたちなら、これからも大丈夫です。この世界を、守り続けてください」

エリスの姿が光となって消えていく。ガルドも同じように透明になり始めていた。

「俺たちも帰る時が来た。だが、また会える。そう信じている」

ガルドの言葉を最後に、二人の異世界の仲間は光となって消えた。

残された七人は、静寂の中で呼吸を整えていた。勝利の実感は確かにあったが、同時に代償の重さも感じていた。

結は膝をついたまま、氷精たちを見つめていた。小さな妖精たちも疲れ切っている。

「みんな、よく頑張った」

結の声は優しかった。弱さを守り抜いた。それが彼女の勝利だった。

勇は不可視剣を消去し、深いため息をついた。ついに誰かのために剣を振るえた。勇者でなくても、仲間を守ることはできるのだ。

龍一はシルフの頭を撫でていた。竜も疲れ切って、再び小さな姿に戻っている。

「よくやったな、相棒」

龍一の声にも疲労がにじんでいたが、満足感もあった。

凪は影の中から現れ、作良の傍らに膝をついた。

「こいつ、馬鹿だな。自分の身体を犠牲にしてまで」

凪の声には珍しく優しさがあった。チームを信じることができた。それが彼女にとっての成長だった。

秋奈はアイテムボックスを閉じていた。中身はほぼ空になっている。

「大損だけど、悪くない取引だった」

秋奈の表情に後悔はなかった。お金より大切なものを見つけたのだ。

宅男は仲間たちを見回しながら、深く息を吐いた。勝った。日本を救った。だが、その代償も小さくない。作良の重傷、エリスとガルドの離脱。完璧な勝利ではなかった。

それでも、誰も切り捨てずに勝利を掴んだ。それが彼らの答えだった。

「帰ろう」

宅男の声は静かだった。叫ぶような勝利の声ではなく、静かな安堵と、これからのことを考える重い責任感がこもっていた。

地下聖堂に再び静寂が戻った。赤い逆共振陣は完全に消え、壁の震えも止まっている。戦いは終わった。だが、これからが本当の始まりなのかもしれない。

仲間たちは作良を支えながら、ゆっくりと地上への階段を上がり始めた。勝利の代償を胸に、新しい明日へ向かって。

第45話 終わり
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