虚構幻葬の魔術師

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異端児達の集結

エグゼキュート・コンプレックス③後編

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「なんでわざわざ俺を?」
「用具室に呼び出したら大体わかるでしょう。入試一位の零弥くんならね」
「玄関での絶望しきった表情で大体わかっていました」
「ウグッ……なかなか手強いわね……」
 一体この人は何を考えてるのだろうか──と苦笑いしかける顔をおさえながら零弥は入室する。
「そもそも、『参観日の準備』と言っても、俺がここに来る必要があるんですか?」
「あるわよ!大ありよ!」
 紗亜矢が大声をあげる。
「奈緒は案内板のデザインで忙しいし、藍那と和希くんは駐車やそこらの打ち合わせに行ってるし、摩美ちゃんとサナちゃんはパンフレットや書類の印刷とかしてるし、唯一手が空いてるのが私だからって、こんなことしなきゃいけないなんて……」
 結構理不尽な批判だが、今さら驚きはしない。
 さて、事のあらすじに移ろう。
 朝、いつも通りに登校していた零弥だったが、玄関に入ったとたん、謎の悪寒に襲われたのだ。しかも背後から、とびっきりの。
 頭では「見てはいけない!」と大音量で警告していた。だが、体は言うことを聞かなかった。 
 すっと振り返ってみれば、絶望を纏いし漆黒の幼児体型の少女がいるではないか。
 零弥はすぐに前を向いた。だが、遅かった。実に遅かった。紗亜矢に肩を掴まれ、耳元でこう囁かれた。
「……放課後、用具室へ来てくれるわよねぇ……?」
 ほとんど命令だった。
 ここで断れば大変なことになりそうなので、しぶしぶ受け持ってしまったのだ。
「それで、俺は何をすればいいんですか?」
 早速零弥は準備に取りかかろうとした。
「とりあえず、今日は必要な用具を当日すぐに出せるように準備してくれると助かるわ」
(『今日は』ってまた何かやらせるつもりかよ……)
 零弥は心の中で呟いた。
「はい、これがリストね」
 紗亜矢が自分の端末を差し出した。
「……結構ありますね」
「でしょ!まだ準備するだけだから全然マシなんだけど……」
 紗亜矢は数歩離れた後、零弥の方を向き、更に足を肩幅に広げ、腕を組み、高らかにこう宣言する。
「さぁ、作戦開始よ!」
 零弥は、非常に取っつきづらい空気に襲われたことは口が割けても言えないだろうと感じた。




「えーっと……看板立てがここで……案内用プラカードは……あれ、ない?」
「そこ、ちゃんと見ましたか?」
 零弥がピンポイントで指差す。
「あらぁ……あった」
 紗亜矢が気の抜けたような感動詞を洩らす。
「そして、リールコードは……」
「そのカーテンの裏とかはチェックしてますか?」
 またまた零弥がピンポイントで指差す。
「……あるぅ……」
 紗亜矢はほとんど言葉になっていない。
「んーまだまだ!ワイヤ……」
「ワイヤレスマイクは目線より少し低いところに置きたくなるのが人のさがというやつです」
 またまたまた零弥が……もういいか。
「零弥くん……探すの上手いね……」
 紗亜矢は零弥のハイスペックさと自身のロースペックさを比べて悲観している。
 だが、その悲観の矛先はまずい方向へと向かっていた。
「でも、なぁんか怪しいのよねぇ……ほとんど立ち寄らないはずの一年生がこうも用具の場所を当てるなんて……」
 ギクッ……
 零弥は背筋が凍った。
 あまりにも紗亜矢に会いたくなかったのか、ついを出してしまったようだ。
「零弥くん……もしかして……」
 ゴクリ……
 零弥は唾を飲み込む。今のところ、何かを匂わせるような言動はしていない……はずだ。
「零弥くんって……」
 謎の緊張感はまだまだ続く。零弥はまともに紗亜矢を見れなくなっている。
「片付けるの得意?」
 不意に膝の力が抜けそうになった。いや、勝手に心配していたのは百も承知だが……それでも、ガクッと行きそうになった。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないです」
 零弥は即答した。
「まぁ、抑制師サプレッサーのサポートをするぐらいだから、周りがよく見えるようになってるのかしらね」
 紗亜矢はふいに哀しそうな目をする。
「ねぇ……零弥くん」
「……何でしょうか?」
 零弥もつられたように硬い顔をする。
抑制師サプレッサーのサポートをしてるのなら、当然、命懸けの事だってあるのよね……」
「……唐突ですね」
 紗亜矢はお構いなしに続ける。
「副会長の和希くん、実は能力持ちアビリストなの。それも、世界で八位の実力を持った──」
 (!?認めるのか……)
 零弥は二つの意味で驚く。
 一つは、紗亜矢が簡単に新井和希についての『情報』を流したこと。
 もう一つは、こと。
 能力持ちアビリストは、人類を救った英雄でもあり、その異質な力から妬みや蔑み、忌み嫌いの対象になりやすいのが現実だ。実際、社会での生存確立を優先して、自分が能力持ちアビリストであることを隠している者だっているのだ。そんな現実がありながら他人に簡単にその事を教えるとは、なんて不謹慎なんだ……と思いがちである。
 紗亜矢は零弥を信頼しているんだろう。そう、受け取っておくことにした。
 二つ目の理由として、機密情報に近い序列ランキング入りについての情報を知っているのがそもそも異常だ。おそらく、本人がしゃべったのであろうか?
 零弥は続ける。
「えぇ、あります」
「和希くん……戦ってるとこ、見たんだけど……あまりに怖かった」
 紗亜矢は息を詰まらせる。
「必ず相手を仕留める目……それが、怖い」
 そして、零弥の目をみて……
「だから、君にはそうなって欲しくない」
 紗亜矢は通告を終えた。
 その場に、何とも言えない重苦しい空気が漂う。
「……わかっています。しかし、これは仕事なので、どうしようもないときは来るはずです」 
「ちゃんと、覚えててよ」
 紗亜矢は若干ふてくされる。
 その機嫌をそらすためか、はたまたふと思い付いただけなのか、零弥は気になっていたことを聞こうと思った。
「そういえば、入学式の時、何で書類だけになってたんですか?さすがに教員の人数は足りるでしょう」
 その一言を聞いて、紗亜矢は我に帰ったようだ。
「えっ……あっ……あぁ、それね。実は、生徒が椅子を壊したとか何とかでほかにもトラブル続きで、先生たちは対応に追われてたのよ」
「……そうですか……ありがとうございます。では、これで」
「こちらこそ」
 零弥は軽くお辞儀して、そのまま歩いていった。
 しばらく歩いていれば、月に一度来る清掃員とすれ違った。変わったことと言えば、彼の手にタトゥーが彫ってあったことだろう。
 しかし、タトゥーを彫ることに違和感はないし、別に変なことではない。
 零弥は特に思うことはなく、その場を去った。
 その行動が後に大きな影響を与えると知るのは、もう少し先の事だ。
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