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異端児達の集結
The last thinking⑥中編
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(勝った!)
三発目が放たれた瞬間、亜芽は勝利を確信した。
そして、自分の想定通り、流雅は三発目に右手をかざした。三発目が『保存』される。
これでは一発目がそのまま流雅に当たってしまう。
しかし……
「……えっ……」
亜芽は到底受け入れられなかった。目の前で起こったことに対して。
流雅は三発目を『保存』した後、まるで来るのがわかっていたかのように一発目の方を向き、回転しながら寸前で避けて見せたのだ。
「くっ……」
亜芽はすぐに撃とうとした。だが、これも銃の『保存』で憚られた。
亜芽のカードは、全て失ってしまったのだ。
流雅は右手を首に向かってチョップするように振る。
「!……うぅっ……」
亜芽は目をつぶる。しかし、自分が思っていたような痛みは一切来なかった。目を開けてみると、手が首の寸前で止まっていたのだ。
「……う……くく……ふぅ……」
亜芽は緊張をほどくことに時間がかかった。
「そんな!どうして?」
亜芽は必死に問いかける。
「どうして……一発目に注意が向けていたの?目の前に弾丸が迫っていたのに、どうして避けられる余裕があったの?」
流雅はすぐには答えない。
「ねぇ、答えて!」
亜芽は叫ぶ。
「それは、対処の方法が前もって知っていたからだよ」
流雅は答える。
「君の戦闘スタイルは、『彼女』とは正反対に見えて、実は大きなところが共通しているんだ。彼女は、持ち前のスキルの高さから常に堂々と正面を切ってくるけど、君はそうじゃない。最初は隠れて撃ってきたし、それは彼女とは共通しない」
流雅は腕をほどく。
「だけど、それはあくまで牽制のための一発。当たろうが当たらまいが、最終的な決め方にはほとんど影響しない。そう、問題は最後なんだ」
説明は続く。
「僕の保存を恐れて逃げ、二階で迎え撃つ形になったけど、君は最後は姿を表した。そして、一発目は全くの別方向に撃った。それで僕は確信を持った。そうだよね?『ariadne』さん?」
「……!?」
亜芽は口を押さえて驚く。
「何で……その名を?」
「僕は何度も何度も君と対戦している。だけど、いつも負けていた」
「まさか……あなたは!?」
亜芽はその事実に気づいたようだ。
「あの空間では、お互いがお互いを知り尽くしているからこそ、君が一本前を歩く。だけど、今回、彼女が君自身であるという可能性を頭に入れていたのは僕だけ。それだけの違いだよ」
流雅は優しく微笑む。
「あぁっ……あぁぁぁ……」
それとは対照的に、亜芽はその場に崩れ落ちた。
だが、流雅は不思議にも驚かなかった。それにはもちろん、理由がある。
「ねぇ……君がペルティエに入った理由を聞こうとしたら、君は頑なに拒否したよね?何か重大なことがあったのかな?」
流雅はしゃがみこんで諭すように語りかける。
「察するに、君にペルティエに入らざるを得ない状況が起こったんだと思う。しかも、その内容は君にとって二度と開けたくないものなのだろうね」
流雅は続ける。
「だけどね、僕の友達にはそれすら出来ない友達もいるんだ」
「……?」
亜芽は顔をあげる。
「その友達は記憶が無くてね。その友達は『自分自身が何者か』を知るために、必死に生きている。多分、彼はどんな辛い過去を知っても受け入れられるかもしれない。だから、彼よりも自分についての『情報』を持っている君は、観点を変えれば、彼よりも幸せなんだよ。そして、その友達が零弥くんだ」
零弥、という名前は確かに覚えている。あのダークな雰囲気を纏っていた男だ。
「ユミちゃんや僕だって、暗い部分はある。だから、過去を見直さなきゃいけない。今一度、振り返ってみないかい?」
流雅は真面目な表情になる。
「……うん」
亜芽はそれに対して承諾した。
『むかーしむかし、あるところに、ひとりのおんなのこがいました。
おんなのこがすむしまは、9ねんにいっかい、14にんのこどもたちが、こわーいもうじゅうをおさえるために、もうじゅうに、たべられていたのです。しまのひとたちはいつもあたまをなやませていました。
あるとき、おんなのこはあるおとこのこにであいました。
『わたしのなまえはアリアドネ。あなたは?』
『ぼくのなまえはテーセウス』
アリアドネとテーセウス。ふたりはじかんとともに、なかよくなり、ともにこいにおちたのです。
しかし、テーセウスはゆうかんなゆうしゃでした。9ねんにいっかいたべられるこどもたちにまざって、もうじゅうをたおそうとしていたのです。だから、ラビリンスといわれるこわーいこわいめいろのなかにいる、これまたこわーいもうじゅうをたおさなければなりませんでした。
ですが、ラビリンスはとてもくらくてふくざつです。そのままラビリンスへといってしまえば、おうじさまはかえってこられないでしょう。
しかし、アリアドネはとてもあたまがよかったのです。
テーセウスにいとをもたせて、でぐちへのみちしるべにしたのです。テーセウスはアリアドネをとてもほめました。
そして、とうとうそのひがやってきました。テーセウスはいいつけどおり、いとをはなすことなく、もうじゅうがいるへやへとたどりつきました。
もうじゅうはうわさどおりとてもきょうぼうでした。しかし、テーセウスはみごとたおすことができたのです。
ふつうならば、ここからでぐちをさがしてえいえんにさまよいつづけるでしょう。ですが、アリアドネにわたされたいとをつたって、あぶなげなく、そとへでることができたのです。
ふたりはともに、しまのそとへいき、ふたりしずかにくらそうとしました。
しかし、しあわせはそうながくはつづきませんでした。
あさ、めがさめると、テーセウスのすがたがありませんでした。
アリアドネはひどくかなしみました。
しかも、アリアドネはテーセウスにおきざりにされてしまったのです。そのことを、アリアドネはしることはありませんでした──』
これが、亜芽がいままで何度も何度も読み返した本の続きである。
テーセウスに恋したアリアドネは、最終的に訳もわからず置いていかれる。ただ彼を愛し、支えたはずなのに、最後に裏切られる。この結末は、亜芽自身が体験してきたことに近かったのだ。
三発目が放たれた瞬間、亜芽は勝利を確信した。
そして、自分の想定通り、流雅は三発目に右手をかざした。三発目が『保存』される。
これでは一発目がそのまま流雅に当たってしまう。
しかし……
「……えっ……」
亜芽は到底受け入れられなかった。目の前で起こったことに対して。
流雅は三発目を『保存』した後、まるで来るのがわかっていたかのように一発目の方を向き、回転しながら寸前で避けて見せたのだ。
「くっ……」
亜芽はすぐに撃とうとした。だが、これも銃の『保存』で憚られた。
亜芽のカードは、全て失ってしまったのだ。
流雅は右手を首に向かってチョップするように振る。
「!……うぅっ……」
亜芽は目をつぶる。しかし、自分が思っていたような痛みは一切来なかった。目を開けてみると、手が首の寸前で止まっていたのだ。
「……う……くく……ふぅ……」
亜芽は緊張をほどくことに時間がかかった。
「そんな!どうして?」
亜芽は必死に問いかける。
「どうして……一発目に注意が向けていたの?目の前に弾丸が迫っていたのに、どうして避けられる余裕があったの?」
流雅はすぐには答えない。
「ねぇ、答えて!」
亜芽は叫ぶ。
「それは、対処の方法が前もって知っていたからだよ」
流雅は答える。
「君の戦闘スタイルは、『彼女』とは正反対に見えて、実は大きなところが共通しているんだ。彼女は、持ち前のスキルの高さから常に堂々と正面を切ってくるけど、君はそうじゃない。最初は隠れて撃ってきたし、それは彼女とは共通しない」
流雅は腕をほどく。
「だけど、それはあくまで牽制のための一発。当たろうが当たらまいが、最終的な決め方にはほとんど影響しない。そう、問題は最後なんだ」
説明は続く。
「僕の保存を恐れて逃げ、二階で迎え撃つ形になったけど、君は最後は姿を表した。そして、一発目は全くの別方向に撃った。それで僕は確信を持った。そうだよね?『ariadne』さん?」
「……!?」
亜芽は口を押さえて驚く。
「何で……その名を?」
「僕は何度も何度も君と対戦している。だけど、いつも負けていた」
「まさか……あなたは!?」
亜芽はその事実に気づいたようだ。
「あの空間では、お互いがお互いを知り尽くしているからこそ、君が一本前を歩く。だけど、今回、彼女が君自身であるという可能性を頭に入れていたのは僕だけ。それだけの違いだよ」
流雅は優しく微笑む。
「あぁっ……あぁぁぁ……」
それとは対照的に、亜芽はその場に崩れ落ちた。
だが、流雅は不思議にも驚かなかった。それにはもちろん、理由がある。
「ねぇ……君がペルティエに入った理由を聞こうとしたら、君は頑なに拒否したよね?何か重大なことがあったのかな?」
流雅はしゃがみこんで諭すように語りかける。
「察するに、君にペルティエに入らざるを得ない状況が起こったんだと思う。しかも、その内容は君にとって二度と開けたくないものなのだろうね」
流雅は続ける。
「だけどね、僕の友達にはそれすら出来ない友達もいるんだ」
「……?」
亜芽は顔をあげる。
「その友達は記憶が無くてね。その友達は『自分自身が何者か』を知るために、必死に生きている。多分、彼はどんな辛い過去を知っても受け入れられるかもしれない。だから、彼よりも自分についての『情報』を持っている君は、観点を変えれば、彼よりも幸せなんだよ。そして、その友達が零弥くんだ」
零弥、という名前は確かに覚えている。あのダークな雰囲気を纏っていた男だ。
「ユミちゃんや僕だって、暗い部分はある。だから、過去を見直さなきゃいけない。今一度、振り返ってみないかい?」
流雅は真面目な表情になる。
「……うん」
亜芽はそれに対して承諾した。
『むかーしむかし、あるところに、ひとりのおんなのこがいました。
おんなのこがすむしまは、9ねんにいっかい、14にんのこどもたちが、こわーいもうじゅうをおさえるために、もうじゅうに、たべられていたのです。しまのひとたちはいつもあたまをなやませていました。
あるとき、おんなのこはあるおとこのこにであいました。
『わたしのなまえはアリアドネ。あなたは?』
『ぼくのなまえはテーセウス』
アリアドネとテーセウス。ふたりはじかんとともに、なかよくなり、ともにこいにおちたのです。
しかし、テーセウスはゆうかんなゆうしゃでした。9ねんにいっかいたべられるこどもたちにまざって、もうじゅうをたおそうとしていたのです。だから、ラビリンスといわれるこわーいこわいめいろのなかにいる、これまたこわーいもうじゅうをたおさなければなりませんでした。
ですが、ラビリンスはとてもくらくてふくざつです。そのままラビリンスへといってしまえば、おうじさまはかえってこられないでしょう。
しかし、アリアドネはとてもあたまがよかったのです。
テーセウスにいとをもたせて、でぐちへのみちしるべにしたのです。テーセウスはアリアドネをとてもほめました。
そして、とうとうそのひがやってきました。テーセウスはいいつけどおり、いとをはなすことなく、もうじゅうがいるへやへとたどりつきました。
もうじゅうはうわさどおりとてもきょうぼうでした。しかし、テーセウスはみごとたおすことができたのです。
ふつうならば、ここからでぐちをさがしてえいえんにさまよいつづけるでしょう。ですが、アリアドネにわたされたいとをつたって、あぶなげなく、そとへでることができたのです。
ふたりはともに、しまのそとへいき、ふたりしずかにくらそうとしました。
しかし、しあわせはそうながくはつづきませんでした。
あさ、めがさめると、テーセウスのすがたがありませんでした。
アリアドネはひどくかなしみました。
しかも、アリアドネはテーセウスにおきざりにされてしまったのです。そのことを、アリアドネはしることはありませんでした──』
これが、亜芽がいままで何度も何度も読み返した本の続きである。
テーセウスに恋したアリアドネは、最終的に訳もわからず置いていかれる。ただ彼を愛し、支えたはずなのに、最後に裏切られる。この結末は、亜芽自身が体験してきたことに近かったのだ。
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