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アビスフリード争奪戦
王女逃亡 前編
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零弥達がペルティエを崩壊させてから数日が経った頃。
平凡で退屈な日常は続き、あの日から特に国家を揺るがすような情報は日本ではない。
強いて言うならば、零弥達から遠く離れた場所での殺人事件がここ最近での重大ニュースだろうか。しかし、重大なのはただそこで命が失われたという事で、それを聞かされている側としてはかなりどうでも良いし、いちいち冥福を祈るようなことはよほどの聖人ではないと絶対にやらない。何故ならば、日本中の九割九部九厘の人間は殺された人間と一切の関わりを持たないからだ。
だが、何か関わりのあるものが死亡した場合は別だ。
本題に移るが、ここは日本から遠く、大海を渡った先に位置する国、リーピタン王国。
この国は王家、ヴァールリード家が代々治めている国だ。もちろん、政治的かつ軍事的主導権を握っているのも事実である。議会制民主主義を採用している日本人としてはこの体制は独裁的に見えるかもしれないが、議員自体は選挙で選ばれるし、ヴァールリード家がそのような振る舞いを見せたことはなかったので、国民からの信頼は厚かった。
特に現国王、オスカー・ヴァールリードのリーダーシップは国民から高く評価と信頼を集め、同時にリーピタン王国も安泰……のはずだった。昨日までは……
ある日、夜間に起きた事件である。
その日も、ヴァールリード家は城で寝る前の休息を楽しんでいた頃であった。
家族構成は父にして現在の国王、オスカー、母のメアリー、そして兄、序列第五位のクーゲル、そして妹のスフィアの四人であった。
クーゲルとスフィアはそれぞれ十八、十一歳。だが、二人とも頭脳明晰で、オスカーがその身を退いても安心出来るほどであった。
そう……オスカーが望むように王位を退くことができていれば、リーピタン王国は安泰だったのに。
あの日の夜、オスカーは死の直前にそう考えた。
話を戻そう。
「うあぁぁぁぁ!」
玄関の方から悲鳴が聞こえた。
「何事だ!?」
オスカーが叫ぶ。そして、内線をかけ、執事長に事情を聞く。
「陛下!何者かに襲撃を受けました!すぐに逃げる準備を!」
「襲撃?いったいどこから?」
「数人の武装した者が無理やり侵入しております。おそらく他の出入口からも……」
「わかった!お前も逃げる準備をするんだぞ!」
オスカーは内線を切った。
「集団で何者かに襲撃を受けたみたいだ……じきにここを攻めてくるだろう。この城は捨てて、今すぐ逃げるぞ!」
オスカーが家族に伝える。
「わかりましたわ。行きましょう、スフィア、クーゲル」
メアリーが強ばりながらも冷静に脱出を促す。
「はい!」
スフィアが元気よく返事をした。身長はかなり小さい。だが、存在感はかなりある。見失うことは無いだろう。
四人は廊下を全力で走る。オスカー、クーゲルはそれなりの運動能力と体力が兼ね備えているので何ら問題は無かったが、メアリーとスフィアの体力は少ない。二人の息は切れかけている。
パリンとガラスが割れていく音がする。まだ襲撃隊の応援が来ているか、もしくは魔術が使われた結果ガラスが割れているのか、様々な考えが挙げられる。
「きゃあっ!」
「スフィア!」
スフィアがあまりの速さにつまずいてしまった。それに釣られて三人も足を止めてしまった。
「いたぞ!」
「こっちだ!」
武装した者が四人を覆った。おそらく、全員魔術の準備はできている。まさに、『絶対絶命』を具現化したような空間だ。
「家族に手を出すなぁ!」
オスカーは魔術を発動する。自身に秘められた魔力を、そのまま弾丸として具現化し、敵襲に惜しみ無く打ち放つ。
魔術は能力とは違い、それなりの訓練を重ね、魔力の使い方と組み方を覚えれば様々な種類の魔術を使用できる。しかし、得意な魔術は基本的に一つであり、その系統の魔術は覚えやすかったりする。ごく稀に苦手な魔術がなく、バランスよく覚えられる魔族もいるのだ。
放たれた弾丸は敵襲に当たらずとも怯ませた。
しかし、敵の一人が放った一撃を、オスカーはもろに食らってしまった。
「お父様!」
スフィアが叫ぶ。
「三人とも……逃げるんだ」
「でも……」
「わかりました」
クーゲルが遮るようにスフィアの手を引く。目の前で父親が撃たれたことにスフィアはショックを受けているようだ。
「お兄様!?どうして!」
「早く行くんだ!」
クーゲルはスフィアの言うことを聞かない。聞けば命の危険が訪れるからだ。特にまだ幼いスフィアには。
「行ったか……」
オスカーは家族達の身を案じる。そして、命がつきるまでの最期の抵抗をした。
「おい、あの三人を追いかけるんだ!」
「行かせるか!」
オスカーが魔力を撃って妨害する。
「貴様らの相手はこの私だ!この命が消えようとも、家族のもとへは行かせん!」
オスカーは魔力を振り絞り、更に弾丸の数を増やしていく。
「怯むな!回復をさせる隙を与えてはいけない。撃て!」
回復とは、その名の通り、魔力を消費してケガを負った部分を治療、回復する魔術である。魔族が、生まれて魔術を使うようになるとき初めて覚えることが多い魔術のひとつだ。これが存在するため、八千年前の魔族大戦で人類が苦戦していたのだ。
回復は欠けた部分も補う、つまり腕や指が飛ばされても回復で元通りになるのだ。
しかし、欠点として、回復には時間がかかること、他の魔術と併用して使えないこと、使用中は運動能力が著しく落ちることだ。つまり、急所、心臓や脳がやられれば回復など関係無くなる。
そして、この総攻撃の結果、オスカーは何度も銃撃を食らった。鮮血が周りを満たし、次第に広がっていく。オスカーはもう、立ち上がることはなかった。
平凡で退屈な日常は続き、あの日から特に国家を揺るがすような情報は日本ではない。
強いて言うならば、零弥達から遠く離れた場所での殺人事件がここ最近での重大ニュースだろうか。しかし、重大なのはただそこで命が失われたという事で、それを聞かされている側としてはかなりどうでも良いし、いちいち冥福を祈るようなことはよほどの聖人ではないと絶対にやらない。何故ならば、日本中の九割九部九厘の人間は殺された人間と一切の関わりを持たないからだ。
だが、何か関わりのあるものが死亡した場合は別だ。
本題に移るが、ここは日本から遠く、大海を渡った先に位置する国、リーピタン王国。
この国は王家、ヴァールリード家が代々治めている国だ。もちろん、政治的かつ軍事的主導権を握っているのも事実である。議会制民主主義を採用している日本人としてはこの体制は独裁的に見えるかもしれないが、議員自体は選挙で選ばれるし、ヴァールリード家がそのような振る舞いを見せたことはなかったので、国民からの信頼は厚かった。
特に現国王、オスカー・ヴァールリードのリーダーシップは国民から高く評価と信頼を集め、同時にリーピタン王国も安泰……のはずだった。昨日までは……
ある日、夜間に起きた事件である。
その日も、ヴァールリード家は城で寝る前の休息を楽しんでいた頃であった。
家族構成は父にして現在の国王、オスカー、母のメアリー、そして兄、序列第五位のクーゲル、そして妹のスフィアの四人であった。
クーゲルとスフィアはそれぞれ十八、十一歳。だが、二人とも頭脳明晰で、オスカーがその身を退いても安心出来るほどであった。
そう……オスカーが望むように王位を退くことができていれば、リーピタン王国は安泰だったのに。
あの日の夜、オスカーは死の直前にそう考えた。
話を戻そう。
「うあぁぁぁぁ!」
玄関の方から悲鳴が聞こえた。
「何事だ!?」
オスカーが叫ぶ。そして、内線をかけ、執事長に事情を聞く。
「陛下!何者かに襲撃を受けました!すぐに逃げる準備を!」
「襲撃?いったいどこから?」
「数人の武装した者が無理やり侵入しております。おそらく他の出入口からも……」
「わかった!お前も逃げる準備をするんだぞ!」
オスカーは内線を切った。
「集団で何者かに襲撃を受けたみたいだ……じきにここを攻めてくるだろう。この城は捨てて、今すぐ逃げるぞ!」
オスカーが家族に伝える。
「わかりましたわ。行きましょう、スフィア、クーゲル」
メアリーが強ばりながらも冷静に脱出を促す。
「はい!」
スフィアが元気よく返事をした。身長はかなり小さい。だが、存在感はかなりある。見失うことは無いだろう。
四人は廊下を全力で走る。オスカー、クーゲルはそれなりの運動能力と体力が兼ね備えているので何ら問題は無かったが、メアリーとスフィアの体力は少ない。二人の息は切れかけている。
パリンとガラスが割れていく音がする。まだ襲撃隊の応援が来ているか、もしくは魔術が使われた結果ガラスが割れているのか、様々な考えが挙げられる。
「きゃあっ!」
「スフィア!」
スフィアがあまりの速さにつまずいてしまった。それに釣られて三人も足を止めてしまった。
「いたぞ!」
「こっちだ!」
武装した者が四人を覆った。おそらく、全員魔術の準備はできている。まさに、『絶対絶命』を具現化したような空間だ。
「家族に手を出すなぁ!」
オスカーは魔術を発動する。自身に秘められた魔力を、そのまま弾丸として具現化し、敵襲に惜しみ無く打ち放つ。
魔術は能力とは違い、それなりの訓練を重ね、魔力の使い方と組み方を覚えれば様々な種類の魔術を使用できる。しかし、得意な魔術は基本的に一つであり、その系統の魔術は覚えやすかったりする。ごく稀に苦手な魔術がなく、バランスよく覚えられる魔族もいるのだ。
放たれた弾丸は敵襲に当たらずとも怯ませた。
しかし、敵の一人が放った一撃を、オスカーはもろに食らってしまった。
「お父様!」
スフィアが叫ぶ。
「三人とも……逃げるんだ」
「でも……」
「わかりました」
クーゲルが遮るようにスフィアの手を引く。目の前で父親が撃たれたことにスフィアはショックを受けているようだ。
「お兄様!?どうして!」
「早く行くんだ!」
クーゲルはスフィアの言うことを聞かない。聞けば命の危険が訪れるからだ。特にまだ幼いスフィアには。
「行ったか……」
オスカーは家族達の身を案じる。そして、命がつきるまでの最期の抵抗をした。
「おい、あの三人を追いかけるんだ!」
「行かせるか!」
オスカーが魔力を撃って妨害する。
「貴様らの相手はこの私だ!この命が消えようとも、家族のもとへは行かせん!」
オスカーは魔力を振り絞り、更に弾丸の数を増やしていく。
「怯むな!回復をさせる隙を与えてはいけない。撃て!」
回復とは、その名の通り、魔力を消費してケガを負った部分を治療、回復する魔術である。魔族が、生まれて魔術を使うようになるとき初めて覚えることが多い魔術のひとつだ。これが存在するため、八千年前の魔族大戦で人類が苦戦していたのだ。
回復は欠けた部分も補う、つまり腕や指が飛ばされても回復で元通りになるのだ。
しかし、欠点として、回復には時間がかかること、他の魔術と併用して使えないこと、使用中は運動能力が著しく落ちることだ。つまり、急所、心臓や脳がやられれば回復など関係無くなる。
そして、この総攻撃の結果、オスカーは何度も銃撃を食らった。鮮血が周りを満たし、次第に広がっていく。オスカーはもう、立ち上がることはなかった。
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