虚構幻葬の魔術師

crown

文字の大きさ
51 / 109
アビスフリード争奪戦

王女逃亡 後編

しおりを挟む
 オスカーの足止めが功を奏したのか、メアリー、クーゲル、スフィアの三人は何とか逃げられている。
「お父様……お父様ぁ……」
 スフィアは泣き続けている。
 必死に走った甲斐もあってか、出口はすぐそこに見えた。
「よし、出口だ!」
「行かせんぞ!」
 そこには、新手の敵襲が待ち構えていた。
「クソッ……」
 クーゲルは魔力を具現化し、一つの剣を作り出す。
「撃て!」
 その合図とともに、敵襲は一斉に魔術を放つ。火を放つもの、そのまま魔力を放つもの、後方で待機するものなどの様々であった。
 しかし、クーゲルは剣で全て弾き返す。そして、クーゲルの背後からメアリーが援護射撃。思わず敵は怯んだ。
 クーゲルはガンガン突き進む。魔力の剣を振り回し、時に弾丸として放ち、そして敵を薙ぎ倒していった。
「うあぁぁぁぁ!」
 見事な剣捌きでクーゲルはこの窮地を乗りきった。
「ふぅ……」
「お兄様……」
 クーゲルは一息つく。スフィアも何とか心を落ち着かせたようだ。
 だが……
「危ない!」
 メアリーが叫ぶ。何故ならば、スフィアの背後から魔術の準備ができているであろう魔族が、弾丸を発射してきたからだ。
「しまった!」
 クーゲルはすぐに魔術を構成する。だが、間に合わない。
 魔術は能力アビリティよりも発動速度が遅い。それが今、こうして仇になるとは、クーゲルは現実をこれまでかと言うほど恨んだ。
 このままでは、まだろくに魔術を操りきれないスフィアに当たってしまう……
 その時だった。
「スフィア!」
 スフィアにはこちらに顔を向けるメアリーの姿が目に映った。
 メアリーは、とっさにスフィアをかばったのだ。
「……お母様?」
 スフィアの声色が消えていた。
「いや、まだ間に……」
 クーゲルが叫びかけたが……
「!?……まさか、即死?」
 絶望に染まり、絶望にうちひしがれたような声を、クーゲルは発した。クーゲルの予想通り、メアリーはピクリとも動かなかった。
「この!」
 同じ男がクーゲルに向かって更に弾を発射しようとした。
 だが、クーゲルが展開した魔術、『魔力障壁アルケミック・バリア』がそれを阻む。
 魔力を障壁として展開することで、それは魔術を通さないバリアとなる。本来は何重にも張ることで強度を上げるが、場合が場合だったので今回は一枚だけだ。
 だが、父親に次ぎ、母親を殺された怒りに燃えるクーゲルには、これで十分だ。
「うぉぉぉぉ!」
 クーゲルはその男を切り裂いた。
「お母様!お母様ぁ……」
 その傍らで、スフィアが何度も叫ぶ。だが、スフィアの声はただただ闇に飲み込まれるだけで、メアリーには一言も届かない。
「大丈夫ですか!」
「カルロスさん……」
 だがここで執事長、カルロスと運よく合流できた。だが、状況が状況だった。
「ええ、ですが、お母様は……」
 クーゲルが冷静に状況を伝える。
「そんな……メアリー様が……」
 しかし、うかうかしていられるのは一瞬だった。
「クソッ、また来たか……」
 第三の部隊がスフィア達を襲う。
「スフィア!ここは任せろ!」
「でも!」
「いいから早くしろ!が死んだらこの国はおしまいなんだよ!」
「お嬢様。行きましょう」
 執事がスフィアの手を引く。
「俺は序列ランキング第五位だ。なぁに簡単には死なない」
 そう言ってクーゲルは敵に向かって突っ込む。
「お兄様!」
 スフィアはそう叫んだ後、執事に手を引かれながら外へと脱出した。
「逃がすな!追え!」
「おっと」
 クーゲルは魔力の弾丸で行く手を阻む。
「相手は俺がやる。スフィアの元へ行くなら俺を倒してから行けよ!」




「はぁっ……はぁっ、はぁ……」
 スフィアかなり体力を消耗している。魔術もろくに扱えない年齢で、むしろよくここまで頑張ったというほどだ。だが、まだ気を緩むことはできない。
「お嬢様!ヘリの準備ができております。もう少しですよ」
 カルロスがそう呼び掛ける。その言葉はほとんど頭に入らなかったが、とりあえず脱出の糸口が存在することは理解できた。
「さぁ!これに乗り込んで下さい!」
 小型の二人に乗り用のヘリコプターがおいてあった。ここはまだ襲撃を受けていない模様で、スフィア達二人はすぐに搭乗した。
「ベルトとヘッドホンを装着してください!すぐに海外へ出発しますよ」
「待て!」
 そこに、運悪く敵襲の一部がやって来た。だが、ヘリコプターのプロペラによる強風で、おもむろに近づくことは到底できない。
 安心は出来ないが、上空に逃げることが出来れば何とか脱出できる……スフィアはそう考えていた。
「高すぎて上手く狙えません!どうしますか」
「構うな!撃て!」
 しかし、スフィアの願いとは裏腹に、敵襲は惜しみ無く魔術を発動した。
 だが、カルロスもそれを予測済みだ。
 ヘリコプターを硬質化させ、弾丸がつきやぶらないように対策する。
 しかし、それもあと一歩足りなかった。
 何度も何度も攻撃される度に、硬質化の効果が薄れた。しかも運悪く、最後の一発がガラスを突き破ったのだ。
「うぅぅっ……」
 しかも、その一発がカルロスに直撃したのだ。
「大丈夫ですか!すぐに回復ヒーリングを!」
「それは……出来ません」
「何故ですか!」
 スフィアが泣きながら叫ぶ。
回復ヒーリングなどすれば、このヘリコプターが落とされてしまいますから……」
 カルロスは回復ヒーリングを行わなず。別の防御魔術を展開し、痛みに苦しみながらヘリコプターを操作する。
 今ここで回復ヒーリングを行えば、同時に防御魔術は使用できない。そうなれば、一斉攻撃でヘリコプターの耐久力が著しく下がり、ヘリコプターもろともスフィアが危険にさらされてしまう。
 カルロスは覚悟を決め、執事の職務を全うしようとしたのだ。
 そして、いつしか弾丸は来なくなった。
「逃げられたの……ですか……?」
 スフィアが窓を見る。夜のせいであまりはっきりと見えないが、そこは辺り一面、暗くて深い青色をしていた。
「えぇ……そうで……しょうね……」
「!?……大丈夫ですか!今手当てを……」
 スフィアが手を振れた瞬間、それは目にしたくない事実を理解してしまった。カルロスには、体温と呼ばれるものが無かったのである。
 危険域からの脱出に成功したカルロスは、ついに力尽きてしまった。
「カルロスさん……そんな……」
 スフィアは悲しみに暮れた。今まで自分達の身の回りの世話をし、自分達を気遣い、こうして命を救ってくれたカルロスを失った悲しみは、オスカー、メアリーと同程度のものだった。
「……今まで、ありがとうございました。わたくし、スフィアヴァールリードは強くなります。絶対に」
 スフィアは誓った。そしてこれは、目の前で息を引き取ったカルロスだけではなく、オスカーやメアリー、そして襲撃時に亡くなったであろう者にも向けられている。
「──さて、今はこの状況を何とかしなければ……」
 そう、カルロスが亡くなったことでこのヘリコプターを操作出来るものはスフィアしかいない。だが、興味本位で今まで運転手が実際に運転するところは何度も見てきている。自分の記憶を頼りに操作できれば……いや、やるしかない。
「私が何とかしないといけませんね。そうでなければ、みんなの努力と犠牲が無駄になってしまう!」
 スフィアはレバーを握り、ヘリコプターを進める。そうしていれば、だんだんと、緑色をした物が浮かんでいるのが見えてきた。
「まさか、あれは、島ですか?」
 スフィアはもっと寄せる。すると、これはただの島ではないことがよくわかった。
「いや、これは国……もしかすると陸地かもしれない……!やった、何とかついた!」
 だが、喜ぶのはまだ早かった。
 着陸体制に入る直前、突然の突風が吹いてきた。まさに最悪のタイミングだ。
「えっ、そんな……これじゃ上手く着陸できない!」
 スフィアは焦りながらも、何とか水平姿勢を保てるように精一杯の努力をした。
 だが、ゆっくりと本来の降り方をすることはできなかった。
「きゃぁぁぁぁっ!」
 風が吹き荒れる真夜中にこだまするスフィアの悲鳴。
 結局、カルロスの遺体を残したままヘリコプターは不時着したのだ。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

精霊姫の追放

あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。 「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...