虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

連鎖上のディストーション②前編

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 少女は歩いていた。見たこともない町で、無警戒にぶらぶらとぶらぶらとずっと歩いている。
 外国人特有のさらさらとした長い銀髪が、陽の光に当てられて美しく透き通り、周囲の目を引いていた。
 持ち物はほとんど無いが、スマートフォンだけは大事そうに握りしめている。
 そんな少女が何故一人で歩いているのか?同伴するものなど一人もいなく、しかも外見は小学生ぐらいの少女がこんな都会を歩くことは、色々な意味で自殺行為に等しい。当然ながら、何らかの意味があるのだ。
 そして、少女はある情景を目撃する。それは珍しいと言えば珍しいが、それでも衝撃を受けるようなものではない。だが、その少女にとっては事情が違った。
「あれが……あの人なら……!」
 少女はその光景から、ある言葉と策略、そして本当に自分がしなければいけないことを思い出していた。




「外に出てみたのはいいものの……」
「いや~、ほんとどこ行くの、みんな?」
 結局、零弥達四人は行き場がなく、明るく活気のある大通りで見事に路頭に迷っていた。
「俺達はここに何をしに来たんだ……?」
「……帰ってゲームしたい」
 零弥や亜芽も同じようだ。
 この大通りはこの辺りで一番人の行き来が多いと聞く。仕事の通勤も然り、公共機関の通過も然り、観光客の行き来も然り……とにかく、人が多く賑わっている。
「しっかし……強いな、風」
 この辺りはビルが建ち並ぶため、速く鋭い風がよく吹くのだ。しかも、隣町は運悪く天気が悪いため、気圧の差が顕著であり、そもそもの風が強いのも一員である。
「吹き飛ばされそうだよ……」
 また、ここにはその空間中の視線を集める巨大なビジョンが設置されていた。そのビジョンは大体はニュースが放送され、行く人行く人は立ち止まる事が多い。
 風を気にしながら歩く零弥達がふとそのビジョンに視線を向けたとき、今の零弥達にとっては小さなニュースが流れていた。
『続いてのニュースです。リーピタン王国の国王、ヴァールリード国王をはじめとする、ヴァールリード家が住まわれます宮殿に、突然襲撃を受けて一週間が経っております。
 この襲撃で、オスカー・ヴァールリード国王、妻のメアリーさん、その他宮殿に居合わせた人物の遺体が発見され、スフィア王女が行方不明となっております。
 えー、襲撃の犯人については、クーゲル王子が襲撃犯の制圧に成功し、現在は戦闘は行われていないようです。襲撃の主犯は依然不明であり、警察は組織等の照合に急いでいる模様です。
 突然の国王の死去となりましたが、跡継ぎ問題や襲撃犯の追跡、そしてスフィア王女の捜索など、リーピタン王国全体が混乱に襲われています──』
 それは、一週間前の襲撃を伝えるものだった。また、スフィアは行方不明扱いとなり、現在も捜索は続いているようだ。この報じ方だと、スフィアが国外に脱出したことさえわかっていないかもしれない。
「まだ捜索は続いているみたいだけど、やっぱり珍しいよね~」
 流雅が関心を持ったようだ。
「珍しいって?」
「リーピタン王国は日本のように、戦争の類いをするような国じゃない。ましてや国民から絶大な支持を受けてるって聞いたことがあるから、それが事実ならクーデターが起こる可能性はゼロ。考えられるとしたら、国家にたてつくような悪質な組織」
 亜芽が表情をかえず、あくまで冷静に解説する。
「しかも宮殿には序列ランキング第五位、クーゲル・ヴァールリードも住み着いている。よほどの度胸と計画性がなければ容易に攻め込もうとは思わないからな」
 零弥の補足で、ようやくユミは理解したようだ。隣で「なるほど」と言いたげな顔をしている。
 このように、リーピタン王国では重大なニュースであるが、日本では全く恐怖感を感じないのが現状だ。まぁ無理もない。殺害された要因としては国王へのクーデターの可能性が高いという見方が一般的である上、まさか外国で起きた事件が自国へ飛び火することは無いだろうという謎の安心感が存在するからだ。
「一応襲撃してきたメンバーは殲滅できたようだけど……主犯の正体がわからないんじゃ意味がないね」
 流雅が首を振る。
「そうだ。もしヴァールリード家を完全に滅ぼす気なら、行方不明の王女の危険は拭いきれないだろうな。これじゃあ、いつまでも宮殿に戻れないだろう」
 零弥が同調する。
「うわっ」
 風はさらに強くなっている。五月の終盤になり、まだ本格的に暑くなりきっていないこの時期に突風は肌寒さを覚えさせる。
「風も強いし……さっさと別の場所に移動しちゃおうか!」
 ユミが戦闘をきって進む。これ自体はいつも通りのこと。その後ろを零弥達がついていく。これもいつも通りのこと。辺りに設置されているガードレール、下のマンホール、何台も通りすぎる車両……零弥達は初見だが、これもいつも通りのことだ。
 前方、後方、左右、下方……さて、上方は……
「危ない!」
 建物からガクンと音が聞こえた。
 看板が傾きかけていたのだ。
 ネジの締まりが甘かったのか、看板が風に揺られ、上方から勢いよく落下してくる!
 大きさは人間4人ほど丸々入るほどの面積。まともに食らえば命の危険がやってくる。
無重力グラヴィティ・ゼロ!」
 零弥が反応するや否や、重力制御を発動する。しかし、運悪くこの状況に最も有効な流雅の反応が遅れている。よって、ここで対処できるのは零弥だけだ。
 零弥の能力アビリティが、看板の情報を書き換える!
 だが、ただ重力を消せばいいわけではない。それだけでは、そもそも落ちてくる位置エネルギーを打ち消せるわけではないので、それと同程度の力を逆向きに加える必要があった。
 もしくは、力を加えたところで流雅に看板ごと保存してもらうのも手だ。ならば、そのための時間稼ぎをすればいい。
 零弥は後者をとった。
 その思考時間わずか〇,一秒。
「流雅!」
「りょーかいっ!」
 看板が減速したところで、流雅の状態保存が発動する。
 すると看板は予想通り、頭上すれすれで停止した。
『お……おい、大丈夫なのか?あれ……』
『いきなり看板が落ちてきたわ……』
『あの子たち……あの能力持ちアビリスト?』
 人が多かったのが災いしてか、野次馬がたくさん集まってくる。
「ごめんね。ちょっと反応送れちゃった」
「いや、それは仕方がない。だが……」
 零弥は辺りを見回し……
「せっかくの自由時間が潰れてしまうな……特にやることはなかったが」
 その事後処理を面倒くさがるのが本心だった。
 

 現場のそばで、ある銀髪の少女がそれを目撃していた。
 少女はその時、何か思い出すような表情をした後、すぐに現場を立ち去った。
 それを、零弥達が気づくはずもなかった……
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