虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

連鎖上のディストーション②後編

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「ふぅ……あぶなかった」
 零弥はただただゴミ箱の付近を凝視した。その眼光は鋭く、獲物を狙うかのような眼差しで、危険物をくまなく探した。
「はぁっ……はぁっ……」
 少女は息を殺すことに精一杯だ。まるで過呼吸を無理やり抑えるように。
 そんな中、零弥は手を緩めない。ゴミ箱の鳴ったタイミング、そして考えられるシチュエーションを掛け合わせる。
「はぁっ……はぁっ……」
 少女の鼓動はさらに加速する。
 そして、零弥は何かを発見したように……
「……!?」
「──やっぱり、何かあった?」
 流雅が心配そうに聞く。
「──いや、何もない」
 零弥は体を百八十度回転させ、
「バスへと向かおう。もうここに残る意味はない」
 四人は予定通りに足を運び始めた。
「……っ……ふぅ……」
 少女は影から顔を慎重に出す。四人との距離はかなり空いている。見失わない程度に近づけば万事解決だ。
 
 それからも、少女は身を隠しながらすたすたとすたすたと歩いていく。銀髪が少し目立ってしまっているが、そもそも都会には外国人がそこら中にありふれているので、特に騒がれるようなことはなかった。
  そして行き着いた先は、零弥達、星高のバスが停まっている駐車場だった。
 もちろん、少女はそのバスに乗り込む零弥達をしっかり確認している。
「あっ……バスに乗り込みましたわ。これじゃあ追いかけられない……」
 いや待て。遠足のバスには大体「◯◯様御一行」とか、「◯◯高校」と書かれているではないか。つまり、学校の位置がわかれば大体の居場所は突き止められる。
「あれは……せい……なんて読むのでしょうか?」
 少女はすぐにスマホを取り出し、とりあえず考えられる検索を行おうとした。だが、できなかった。インターネットだけでなく、電波に関わる全ての動作が無効になっていたのだ。
「えっ……あれ?そんなぁ……」
 少女は心が折れそうになった。ここまでついてくるだけでも苦労したのに、最後の最後でつかみ損ねるなど、逆に心が折れない者などいるのだろうか?いや、いないと願いたい。
 だが、『折れそうになった』だけで、根本から折れてしまったわけではない。自分に課せられた使命を、その程度の事で放り投げてしまうような豆腐メンタルではない。
「──やるしか、ないようですわね」
 少女は新緑に耀くペンダントと、ただの財布と化したスマートフォンを握りしめ、日本の複雑怪奇な交通機関に挑むことにした。





「──ふぅ……」
 高速道路を走る大型バスから見える景色は、なんとなく哀愁を静かに繰り広げていた。夏が近づくこの時期は人々の活気溢れる雰囲気が醸し出されてもいい頃なのに……いや、醸し出されているのに、何故か外の世界は時が止まっているかのように静かに見えた。何枚も張られているガラスが、人々を安全に運搬する鉄の塊と外の世界をシャットアウトしているから?零弥達がバスによって高速移動しているから?それとも、本当に外の世界の時が止まっているから?
 否。そんなことはない。
 原因は零弥自身にあるのだ。
「どうしたの?そんな疲れきった顔して」
「あぁ、疲れているさ。むしろ疲れない方がおかしいだろう」
 隣に座る流雅が茶化すのだが、零弥は外をみたっきり表情も体勢も全く変えないのだ。
「早朝に出発し、ノープランに近い状態で街に放り出され、挙げ句の果てにはユミに駆け引きで負けた。これ以上疲れるような事があるか?」
「ないね、全く。は、ね?」
 流雅はいつものあどけない表情を向ける。男ながらも透き通った眼が周りの情景を水晶のように映し出していた。
「本当に疲れているのなら今そこで寝るなりすればいい。学校まで全然遠いし、行きと同じ道を通る帰り道で何か面白いことが発見できる可能性なんてゼロに等しいよね?つまり、起きていないと出来ないことがある。違うかな?」
 流雅は小声で推理したのち、ニッコリとした表情を向ける。
「ホント、お前には敵わないな……その通りだ」
 零弥は固い表情を崩し、リラックスするように前を向く。
「この前の件について、まだ気になっていることがあってだな……」
「気になること?」
 流雅は首を傾げる。
「気になること……と言えば齟齬があるかもしれないが、まぁそれはいいとして、『スペルキーパー』についてのことだ」
「あの犯人が隠し持ってたヤツ?」
「そうだ」
 零弥は静かに頷く。
「ペルティエが海外勢力と関わっていることが決定的となった証拠品かつ、俺たちがあまり詳しくない武器でもある。魔術を保存するなんて、それなりの時間と費用がかかるのは明白だが、大量生産すれば大きな武器、いや兵器になりうる」
「そりゃ、戦力に足りない部分を手軽に補えるスパイスとなるならば、喉から手が出るほど欲しくなっても仕方ないよね」
 そして零弥は一転、真剣な表情になる。
「さて、ここからが問題だ。スペルキーパーを開発するにあたって、その費用、時間、技術が十分にあるとして、必ずぶち当たる問題と言えばなんだろうか?」
 流雅は顎に手を当てる。これは深い思考に入るサインだ。そして、その答えは案外早く導き出された。
「──素材だね」
「その通りだ。いくら技術が進歩しようとも、素材は一からは作り出すことは不可能だ。いずれ資源が枯渇しても仕方ない」
 零弥はまだまだ続ける。
「もし自国に資源がなければ、それは外国から輸入せざるを得ない。だが……」
「それを見越して、輸入や製造を全面禁止してるわけだからね」
 流雅が同調する。
「つまり、ペルティエの取引相手はそれを禁止していない国、もしくは禁止していながらも影で行えるだけの力を持った組織かつ、資源を輸入出切るだけのパイプを持ち合わせている組織だ」
 零弥は結論付けた。
「そうなんだろうけど……一つだけいいかな?」
 流雅に一つの疑問が浮かんだ。


「それは、僕たちの『目的』に何か関係があるのかな?」


「──それは、ここでは言えないな……また、帰ってから話そう」
 こうして、星蕾高校一年の遠足は幕を閉じたのだが……
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