虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

連鎖上のディストーション③前編

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『おつかれ~』
『また来週ね』
 あっという間に遠足は終了し、星高に戻ってきた。時計は五時を過ぎているが、この時期ではまだまだ明るい。
 次々とバスから生徒が降りてくる光景は圧巻だ。さすがは人気私立校。そこらの公立高とは違う。
 さて、旅の疲れを溜めて戻ってきた生徒達は、次々と自宅へと戻っていく。明日は土曜日。今日ぐらいは勉強せずにベッドインしたいところ。
 だが、『例外』が三人ほどいるようだ。
「さあ……向かうぞ、戦場に」
「そう、だね……覚悟しないと」
「準備……万端」
 そう、彼らは戦うのである。『報酬』という命綱のために、サイバー空間を舞台に、『期限deadline』という強敵に立ち向かう。もちろん徹夜&泊まり込みで。
 零弥はペキペキを指を鳴らし、流雅は左手で右肩を揉みながら、亜芽は首を回しながら、すたすたと歩いていく。その光景はまるで、荒野に足を踏み入れ戦場に向かう三人の戦士に見える。あくまでイメージだが。
「が……頑張ってね~……?」
 これにはユミもかける言葉が無かった。ただ、勇猛果敢に挑む三人を見送るしかできない。
「あと……」
「……何か?」
 ユミが苦笑いのまま聞く。
「明日の昼ぐらいまでは連絡しないでくれ。これは俺達の明日を占う大事な日だからな」
「……わかりました」
 最後の返事を聞いた零弥達は、止めていた歩みをまた進め始めた。
「行くぞ!」
「おー!」
 こうして、三人の戦士達は、己のプログラム技術だけを頼りに、一晩の戦いに身を投じるのであった。
「──あなた達は……」
 謎のテンションに流されたユミは我に帰り、自らも帰宅することにした。

『戦場』へと向かう途中、流雅はうっすらと微笑んでいた。それはいつものことなのだが、実は今回に関しては若干内容を含んでいたりする。
 世界的プログラマー、『ラウムツァイト』。初めは流雅一人で活動していた。目的はもちろん、生計を立てるため。それ以外には特に無かった。

 だがあの日、零弥と出会うことで、未来は大きく変わったと言っていい。

 零弥と出会ったのは中学三年生の頃。同じ中学のはずなのに、お互いに全く知り合うことはそれまで無かったのだ。話をすることはもちろん、お互いの顔を覚えることすらも、だ。
 では、なぜ二人は知り合い、こうしてコンビを組んでいたのか?
 それは零弥達が中学三年生になりたての頃である。
 当時、プログラマー、『ラウムツァイト』としての流雅はまだ存在していなかった。アカウント名も世界に名の知れていないものだが、その頃から様々な依頼をこなしてきた。
 だが、当時の流雅はそれだけを受け持っている訳ではなかった。
 相当なスキルを持ったプログラマーが、足りない収益を補う際に手を出してしまいがちな事とは、一体なんだろうか?
 答えは簡単、ハッキングだ。
 しかも、高額な報酬を受け取れる依頼だって当然存在する。しかし、その依頼人は大体が、裏社会に根を張るような人物が大抵であろう。
 流雅はアカウントを変え、オンライン上で様々な危険な依頼もこなしていた。当然、それらに失敗すれば、自分の命すら危うくなる。零弥と出会う前は体術の精度はかなり低く、能力アビリティを活用しても到底戦えるものでは無かった。
 つまり、本当の命がけの状態なのである。
 だが、流雅は失敗しなかった。時には公共機関のデータを盗み、時にはデータの改竄を行い、時には……依頼主の宿敵に強力なウイルスを送り込んだり。全く、危なすぎる依頼だらけだった。
 だがあの日、流雅にとって、初めての『失敗』を犯したのであった。
 それは、いつものように依頼をこなしていた時の事である。
 今度は、警察のデータを盗むことを依頼された。出来るだけ足がつかないように、わざわざコピーして盗むことにした。一人ではリスキーだが、これまでに培ってきたクラッキング技術を信じて、流雅はサイバー空間へと突入したのだ。
 そして、その作戦は成功していた。
 ここで流雅にとっても予想外過ぎる事態が起こったのだ。それは、これからコピーを始め、盗み出そうと言う場面の時である。
『……あれ、おかしいぞ?』
 当時の流雅が気づいた。
『メモリの減り方が著しい……そんなに膨大なデータのはずじゃないのに……』
 そう、クラッカーならすぐにわかる。これは緊急事態だ。
『まさか……反撃を食らったかな?』
 だが、これはまだ予想はついていた。かの警察ならば、今まで以上にデータの取り扱いには敏感であり、ハッキング専門の技術者が常駐している空間で、反撃が起きないこともないのだ。
 だが、今回は一味違った。
『……違う、これは……!』
 そう、今回は……
『第三者の攻撃……!』
 警察の反撃では無かった。攻撃した警察のアドレスと、新たに攻撃してきた者のアドレスが全く異なっていることに気づいた。警察ならば、クラッキングを仕掛けながらコピーを粘ればいいし、その自信もあった。だが、相手がわからない今は、情報の盗みだしと防御を同時に行える自信はない。
 流雅は苦渋の決断を迫られた。しかし、コピーを止めれば自分の命が危ない。
 結局、コピーを行いながら第三者の相手をすることにした。
 カタカタカタ──タイピングの速度が次第に上がっていく。
『くっ……逃げられた?』
 手応えはすぐに無くなった。あまりにも押され過ぎて打つ手が無くなったのではなく、豆腐にグーパンしているような手応えだった。
 だが、失敗は許されない。流雅は必死に必死にタイピングを続ける。
『くそ……くそ……くそっ!』
 流雅はあろうことか追跡を開始してしまった。だが、相手はすぐに逃げてしまっている。
『……やられた』
 流雅は手を止めないが、そのようなことを考えてしまうほど、集中力が切れてしまっていた。
『どんな情報が盗まれた?どんな情報が見られた?どんな情報が……壊された?』
 しかも……
『あっ……警察も気づいたか……』
 流雅は我に帰る。
『まだコピーが進んでいない……これはもう……』
 流雅は悟った。そして、決めた。
『コピーは……中止……』
 流雅はすぐに逃げた。幸い、警察の手にはかからなかったが、任務は失敗した。
 あのとき防御もきっちり頭に入れとけば……あのとき第三者を無視すれば……そもそも、そんなことに手を出してさえいなければ。
 この命を捨てるようなことにはならなかったのに。
 その反動か、流雅は無心になる。そして、諦めた。
『もう、終わり……なんだ』
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