虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

連鎖上のディストーション⑥前編

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「どうやら、バレてたみたいですわね。能力持ちアビリスト?」
 正体を明かされたスフィア。怯えた表情は一気に精悍な顔つきになり、さっきまでの奥ゆかしさは一瞬でかき消されている。
能力持ちアビリストか……どうしてそんな事を知っているのか、まぁそれはどうでもいいがな、魔術師ウィザード様?」
「あら、日本ではそれが原因で生活に危害が及ぶ可能性があると聞いたことがありましたがぁ?」
「論点が違うなァ。どうでもいいのは知られたことではなく、その理由についてだが?」
 二人は一向に退かない。
「えっ、えっ……えぇぇぇぇぇぇ……」
 ユミはまだおろおろしている。
「さっきの質問に答えてもらおうか?襲撃の情報は日本でもいくらか伝わっている。逆に今まで正体を捕まれなかった方が不思議だろ?」
「はて?わたくしはまだ自らをスフィア・ヴァールリードだなんて大層なお方の名前を名乗ったことなどありませんでしたが?」
 スフィアはとぼけた振りをする。自らの体を痛め付けながら追跡したこの日々を、『頑張って追っかけした哀れな王女様』で片付けられるのは、なんとなく癪に触るからだ。
「とぼけなくて結構だ。さっきの知り合いを叩き起こして監視カメラをハッキングし、本国に強制送還させるぐらいの力は持ち合わせているが、それでもいいのだな?」
「──なかなかやるのですね。どうやら、わたくしの目に狂いはなかったようで」
 スフィアはさらに余計な口を開ける事はなかった。ただ適当に戯れ言をぶつけるほど、彼女は子供ではない。仮にも次期女王候補なのだ。彼女にとって、これぐらいは当然なのだろう。
「謎の男から助けていただけましたし、能力持ちアビリストにも会えましたし、わたくしは実は運がいいものですね」
「嘘つけ。遠足の時、正確に言えば看板の一件からずっと俺達を追跡していただろうが」
「うっ……それもバレているとは……」
 それは本当にバレてほしくなかったようだ。
「詳しい事は後だ。ユミ、上がるぞ」
 零弥を先頭に、三人衆は次々と家に上がっていった。




「さて、まずは我がリーピタン王国で何があったのか、から説明しましょうか」
 ユミが淹れた緑茶を飲み、スフィアは今に至るまでの長い経緯を語り始める。
「ちょうど一週間ほど前のことですわね。宮殿で夜を過ごしていたら、突然、武装した集団が押し掛けてきたのです。彼らは魔術だけではなく、銃の類い等も持ち合わせ、何人もの者達が凶弾に倒れました。その中には、わたくしの両親、オスカーとメアリーも含まれています」
 ユミは目を見張った。目の前で起こった凄惨な悲劇を語るスフィアを前にして、緊張せずにはいられなかった。
「宮殿から何とか脱出することはできましたが、ヘリコプターの運転手は防御魔術を使用するために回復ヒーリングが使えなくて……わたくしがもっと魔術を覚えていれば……こんなことには……!」
回復ヒーリングは他の魔術との同時併用が出来ない。それが最悪の形で現れたのか……」
 きゅっと唇を噛み締めるスフィア。それはカルロスを死なせてしまった悲しみと、悔しさが混じりあっている証拠であった。
「お兄様はあれだけの実力を持ちながら、わたくしは……!」
「舞い上がるな。十一歳程度なら魔術何ぞまともに扱えなくて当然だ」
 無慈悲な言葉に聞こえるが、それはある意味で言えば慰めの意味もこもっていた。スフィアは正しく受け取っている。
「……申し訳ありません。しかし、彼のおかげで、わたくしは何とか、この国にたどり着きました。お金の面はスマホを持ち合わせていましたので何とかなりましたが……何故か通話が出来なくて……」
「通話が出来ない……?そんな事ってあるの?」
「ちょっと見せてみろ」
 零弥は差し出されたスマホをよく確認する。
「これは……かなり状態が悪いぞ……」
 スフィアの端末は、見た目からわかるように、ひどく損傷していた。あちこちにヒビが入っているが、それでも電源はつくので驚きである。
「そうなんです。電波が全く繋がらない状態で……幸い電子マネーは使用できたので問題は無かったのですが……」
 スフィアにはその原因がまだ見当はつかなかったが、それでも、何か思い当たりそうな事があったような気がすると、もどかしく、手の届かない答えが見えそうになっている。
「考えられる原因としては、何らかの外的要因で受信機能が破壊された事が有力だな。アプリは問題なく使用できていているが、そもそも受信に関するすべての機能が使用できないならそれしかないだろう。スマホが破損するような出来事で、何か思い当たることはないのか?」
 そう言われても、スフィアはまだ思い出せていない。が、さっきよりは近づいている。
 思い出せ。スマホが損傷するほどの出来事は、何があった?
「そういえば……この国に着いたとき、ヘリコプターが墜落同然に不時着しましたの」
「運転手が操作出来ないのなら、お前がやるしかないからな。慣れない運転で、風にでもあおられたんだろう?」
「それを言われると何もかも言い返せませんわ……」
 スフィアはうなだれる。
「だが、両親とその周りの人間には感謝しろよ?電子マネーといっても、オフライン決済のために大量チャージしていなければ、今ごろは飢え死にしていただろうからな」
 スフィアははっと気づかされる。こんなときでも、いろんな人たちの気遣いに生かされているのだと、ようやく気づいたのだ。
(こんな私のために……みんな……)
「あの……スフィア王女様?」
 ユミが申し訳無さそうに問いかける。
「スフィアで結構ですわ。その代わり、あなた達のお名前も教えてくださいまし」
 スフィアは笑顔を見せつつ、自らに親しく接することを正式に許可した。
「そうか、俺は椎名零弥。そっちの国から見て、日本では名前と名字の順番が逆転しているから、名前は『零弥』
の方だ。自由に呼んでくれ」
「私は相崎悠海。よろしく……では、スフィア、あなたはなぜ、付近の警察や抑制師サプレッサーに頼らなかったの?そうすれば、ここまで苦しい一週間を過ごさなくてもよかったのに」
 ユミがずっと思っていたことを口にする。
「そう思われるのは当然ですわ。ですが、それは出来ませんでしたの」
 そして、スフィアはまた一段と険しい表情になった。
「警察に正体を知られれば、即刻本国へと戻される。そうなれば、わたくしのもうひとつの目的、そして使命が果たされなくなりますの」
 なにやら、あからさまに怪しいキーワードが混じっている。
「目的?使命?」
 これはユミによるものだ。
「えぇ。それは亡くなったお父様の遺言です。『もし私が死ぬような事があれば、次のことを遂行してくれ』と」
 ふう、と一息つき、スフィアはまた改める。
「八つの種族で一つの宝石を奪い合う戦い……『貴石競争きせききょうそう』」
「宝石?それに何か特徴でも?」
 零弥が聞く。つまり興味を示す。
「その名は『アビスフリード』。リーピタン王国の皇居内に存在すると言われ、また、魔力に対する何らかの効果を持つと言われますわ」
 そして、スフィアはもう一呼吸起き、零弥達をはっきりと見る。
「そして、それはあなた達をずっと追いかけてきた理由にもなります」


「この戦いに、人類陣営として参加していただけないでしょうか?」

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