虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

連鎖上のディストーション⑥後編

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「貴石競争に……俺が?」
「そうです。既に先客がおられるかもしれませんが、そうでなければあなたに頼みたいのです」
 スフィアは至って真面目だ。その目は透き通っていてブレたりしない、まっすぐな目だ。
「あの力は、見ていて素晴らしい物でした。魔術とは違い、圧倒的な速効性と確実な効果をもたらす。そこに可能性を感じたのです」
「看板を止めたのはアイツだが?」
「あの人は反応が遅れていました。それは、戦闘面では致命的な結果に繋がりかねません。
 いい観察眼だ。一瞬の出来事でも細かい部分を正確に把握している。
「もし勝利すれば、アビスフリードは手に入るのだな?」
「勝利条件がそうですので、最終的にはそうなりますわね」
 零弥は黙って考え込む。
(アビスフリード……初めて聞くが、なかなか恐ろしい力を持つようだな……。今までその正体や存在を知らなかったが、他の国や巨大組織は既にその情報をつかんでいる可能性はある。もし、ペルティエの取引相手も動いているとしたら……。
 全種族……どのような形式とスケールは解りかねるが、それで争うなら、恐らく魔族ではない人類のはそこまで重要に見られていないだろう。それに、国際間での駆け引きを行うとしたら、序列ランキング入りは来ない……。最善の方法でアビスフリードを何とかしないと……)

(世界の秩序は壊れかねない!)

 零弥の考えは固まった。一人の人類として、また、情報きおくの探求者として……この戦いに身を投じることを決意した。
「わかった。人類陣営として、は参加させてもらおう」
「……零弥……」
「……ありがとうございます。ですが、何とか本国に連絡しないと……」
「大丈夫だ。俺のスマホでも使えば……番号は?」
 零弥はスフィアから宮殿への番号を聞く。それと同時に、スムーズに数字を打ち込んでいく。
 基本的に、国の重要機関、例えば行政組織等は、一般的に電話番号などは公開されているものだ。だからこそ、零弥のような一般人でも部外者でも公平に対応してもらえる。
『──もしもし?こちら、リーピタン王国のヴァールリード家ですが……』
「スフィア・ヴァールリードの身柄は預かっている」
「零弥!?」
 ユミが拍子抜けしたような、情けない声を発する。当然だ。崩壊した宮殿の対応に追われながら請けもった電話でいきなり、安否不明の人物の生死を、まるで誘拐犯のように浴びせかけるなど、非常識極まりない。
『すっ、スフィアお嬢様が!?あなた、お嬢様に何をした!』
「あぁ、安心しろ。彼女は生きている。何なら声だけでも……いや、彼女は起きて無いな」
 そう言いつつ、零弥はスフィアの顔をちらっと見る。その表情は、何かを考えているようで、特に特徴はなかった。
『あなたは誰ですか!』
「さぁな。ただの通りすがりの人間様、と言ったところか?」
『質問に答えなさい!』
 端末から放たれる大音量に耳を背けそうになったが、なんとなく我慢してみた。さっきの一言以前から向こうの背後から様々な雑音が混じっていて、向こうは騒々しくなっていることが聞きとれる。
「まぁまぁ落ち着け。俺はただ無意気に彼女に手をかけようとは思っていない。そう簡単に取り乱すな」
 煽り口調で語る零弥。それには、何故か余裕に溢れていた。
「さて、本題に入ろう。俺は条件次第でスフィア・ヴァールリードを本国に送り返そうと考えている。これは本当だ。ただし、条件次第だがな」
『何ですか?条件とは』
 スフィアが解放されると聞いて、さすがに向こうも落ち着きを取り戻したようだ。
「彼女からは既に、『貴石競争』についての説明を聞いている。勿論、アビスフリードについてもだ」
『……』
「そして、そいつがなかなかの力を保持しているのも当然把握済みだ」
『それで……何がしたい』
「何も言わずともわかるだろう。人類陣営として、貴石競争に参加させていただく」
 零弥は要求した。
「人類陣営は空いているのか?」
『いえ、まだ空席です。』
 零弥はほっとした。
「そうか、なら、スフィアを安全に本国に返す代わりに、俺達をプレイヤーとして参加する。いいな?」
『わかりました。それで、スフィアお嬢様は……!』
「あぁ、身の安全は保証する。ところで、日程はどうなる?」
『全種族は揃ってはいませんが、恐らく、再来週になると思われます』
(再来週……ちょうど三連休か)
「よし。連絡は以上だ」
『あの……あなたは?』
 向こうの女性がふいにどうでもいい質問をする。
「それはそっちについてからだ。あと最後に、別に誘拐の類いを、俺は働いた覚えは無いからな」

 ピッ……

 零弥は通話を終了するために、画面をタップした。
「いつ誘拐されましたの?わたくしは」
「そうよ。突然何を言い出すかと思ったら」
 スフィアとユミが次々と喋りだすので、とりあえず解説だけはしておこうと零弥は思った。
「スフィアが言ったように、人類陣営が既に埋まっている場合が考えられたからな。その場合の取引材料にするつもりだったが……杞憂だったな」
「零弥……流石にゲスい」
 ユミからの低評価はさておき、これで零弥達は貴石競争に参加することが本当に可能となった。あとは、パスポートや何やらを準備し、再来週の金曜日に出発すればいい。
「さて……準備するぞ。着替えやパスポートを忘れるなよ」
「うん……?」
「後、桐鋼も絶対に忘れるな」
「……え!?」
 ユミがこれまた拍子抜けした、情けない声を発した。
「桐鋼って……私も行くの!?」
「当たり前だ。言っただろ、『俺達』って」
「あら、それは楽しみですわね」
 何だかスフィアも乗り気のようだ。
 さて、この状況を四字熟語で表すとすると……
「まさに……四面楚歌……」
 そう言いつつ、ユミはうなだれるのであった。

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