65 / 109
アビスフリード争奪戦
街角は宵闇に灯されて②
しおりを挟む
紗亜矢は行ってしまった。
圧倒的駆け足で。この俺を残して。
などと言いながら零弥はたそがれる。
勝負の時はすぐそこに近づいていると言うのに、なんとなく実感はわかなかった。海外渡航経験は確かにあるが、今また行こうとなると、どうしても力が入らない。パスポートが既に用意出来ているのが好都合と言ったところか。
そもそも、リーピタン王国がどのような国かなんてよく理解していないし、そこには行ったことはない。特に観光スポットも聞いたことはなかった。
ならば、今するべきことは一体なんだろうか?
そう、わずかな日常を精一杯楽しむことである。
「さて、今日は何をしようか。仕事はやっと終わったし、放課後にどこか出掛けようか」
と、言いつつも、行き先は決めるつもりは無い。何の目的を持たないということは、それに向かって実行しようという緊張感がほぐれ、リフレッシュには良い効果をもたらす。スフィアの件は緊急だったのでそのまま対応したが、本当はあのときは疲れきっていた。今日ぐらい、自由に羽を伸ばしても良いだろう。
能力も練習を重ねることで様々な進化を遂げている。特に、唐木の一件から、巨大化したり、単純な攻撃が通らない相手に対して、高い攻撃力で対抗できる力を研究していた。
だが能力の練習はお預けだ。今日はとにかく遊びたい。それだけだ。
「さて……誰と行こうか」
零弥は周りを見渡した。時間帯が時間帯で、周りに人が全くいない。出来れば面識のある人をつれていきたい。それでも、クラスの者とはほとんど友好関係を築けていない。
ここに来て親友関係の薄さが響いてしまった。
さて、回りを見渡して見ればそこにはユミがやって来てくるところが見えた。それだけならまだいい。
「……やりやがったな」
その姿はもう一つあった。それは居候中の彼女……そう、月島亜芽……ならばむしろよかったのに。
あろうことか、公の場に彼女を連れてきてしまったのだ。
そう、逃亡の王女、スフィア・ヴァールリードを。
「おい、どうしてこいつの姿がここにあるんだ」
「仕方ないでしょ?そのまま家に放置したら、また誰か狙いに来るじゃない。単位だってあるんだから休めないし」
犯人との戦闘、確保がメインとされる抑制師は、当然それを実行できる体力が必要となる。逆に言えば、それがなければ続けることが出来ないということだ。そうなる原因としては、体の衰え、ケガが主になる。引退後に安定した職につけるように、学歴は残さなければならない。実はそうなるのはユミぐらいであって、本来抑制師は高校はすでに卒業している成人が多い。中三でデビューしたユミが異例すぎるのだ。結局、抑制師と言えども、やはり勉学は必要となる。
「会って数日の女の子に『こいつ』とは、あなたもなかなかやるものなのですのね。一体どこでそのような態度を身に付けたのか」
「それは是非ともこちらが教えていただきたいものだがな」
記憶喪失者の嘆きはかなり説得力がある……のか?
「それで、大丈夫なのか?こんなところに連れてきて」
「説明は何とかするつもり。授業中は保健室でも預けとくよ。最悪の場合は偽名を使ってでも切り抜ける」
「そうか……いいか、異国の地の教育現場だからと言って、勝手なマネはするな。一応、お前は『身柄』だからな。魔術なんて言語道断だぞ?」
「言われなくても。一週間ぐらい、私は我慢できますわ」
「可愛いげのねぇな。まぁいいだろ」
零弥は玄関口に向かって歩き出した。素っ気ない態度を連れて。
「あっ、ちょっと。これから説明に行かなくちゃ……」
「悪いが、俺は行けないな。こいつを保護したのも、住まわせているのも、現在完了形で学校に連れてきたのも全部お前だからな。俺が行けばかえって面倒臭くなる」
「──そんなぁ……」
ユミは無念のあまり肩を落とす。
「……しょぼん。今日はまたパトロールの日だってのに……運の無い悲しいユミさん……」
パトロールと説明にどういった関係があるのかは知ったことでは無いが、とりあえず全て丸投げにしてしまうことに引け目を感じないほど、零弥は薄情ではない。
「──今日はこいつの護衛をしてやるから、それで我慢してくれ」
「お気遣い頂き感謝するね……」
ユミは絞り出したような笑顔を零弥に向けた。
(何をいい雰囲気になっているのか……?)
スフィア、それは余計な考察だ。やめておいた方がいい。
とまぁ、冗談はさておき、今夜、ユミはパトロールに専念することが出来た。引き換えに、零弥の一人っきりの休息時間は失われた。
「そろそろいくぞ、もうすぐ生徒も増えてくるだろうし、いちいち対応したくないからな。そうだろう?次期女王様?」
「……わかりましたわ。お父様の遺言に乗ってくれるなら、仕方ないですわね」
スフィアは素直にはならず、そっぽ向きながらユミの後をついていった。
「女王なんて……わたくしが?……魔術もろくに扱えないわたくしが女王なんて……何を仰るのか……!」
スフィアは表情を悟られないようにうつむき、それでも唇を噛み締めずにはいられなかった。
圧倒的駆け足で。この俺を残して。
などと言いながら零弥はたそがれる。
勝負の時はすぐそこに近づいていると言うのに、なんとなく実感はわかなかった。海外渡航経験は確かにあるが、今また行こうとなると、どうしても力が入らない。パスポートが既に用意出来ているのが好都合と言ったところか。
そもそも、リーピタン王国がどのような国かなんてよく理解していないし、そこには行ったことはない。特に観光スポットも聞いたことはなかった。
ならば、今するべきことは一体なんだろうか?
そう、わずかな日常を精一杯楽しむことである。
「さて、今日は何をしようか。仕事はやっと終わったし、放課後にどこか出掛けようか」
と、言いつつも、行き先は決めるつもりは無い。何の目的を持たないということは、それに向かって実行しようという緊張感がほぐれ、リフレッシュには良い効果をもたらす。スフィアの件は緊急だったのでそのまま対応したが、本当はあのときは疲れきっていた。今日ぐらい、自由に羽を伸ばしても良いだろう。
能力も練習を重ねることで様々な進化を遂げている。特に、唐木の一件から、巨大化したり、単純な攻撃が通らない相手に対して、高い攻撃力で対抗できる力を研究していた。
だが能力の練習はお預けだ。今日はとにかく遊びたい。それだけだ。
「さて……誰と行こうか」
零弥は周りを見渡した。時間帯が時間帯で、周りに人が全くいない。出来れば面識のある人をつれていきたい。それでも、クラスの者とはほとんど友好関係を築けていない。
ここに来て親友関係の薄さが響いてしまった。
さて、回りを見渡して見ればそこにはユミがやって来てくるところが見えた。それだけならまだいい。
「……やりやがったな」
その姿はもう一つあった。それは居候中の彼女……そう、月島亜芽……ならばむしろよかったのに。
あろうことか、公の場に彼女を連れてきてしまったのだ。
そう、逃亡の王女、スフィア・ヴァールリードを。
「おい、どうしてこいつの姿がここにあるんだ」
「仕方ないでしょ?そのまま家に放置したら、また誰か狙いに来るじゃない。単位だってあるんだから休めないし」
犯人との戦闘、確保がメインとされる抑制師は、当然それを実行できる体力が必要となる。逆に言えば、それがなければ続けることが出来ないということだ。そうなる原因としては、体の衰え、ケガが主になる。引退後に安定した職につけるように、学歴は残さなければならない。実はそうなるのはユミぐらいであって、本来抑制師は高校はすでに卒業している成人が多い。中三でデビューしたユミが異例すぎるのだ。結局、抑制師と言えども、やはり勉学は必要となる。
「会って数日の女の子に『こいつ』とは、あなたもなかなかやるものなのですのね。一体どこでそのような態度を身に付けたのか」
「それは是非ともこちらが教えていただきたいものだがな」
記憶喪失者の嘆きはかなり説得力がある……のか?
「それで、大丈夫なのか?こんなところに連れてきて」
「説明は何とかするつもり。授業中は保健室でも預けとくよ。最悪の場合は偽名を使ってでも切り抜ける」
「そうか……いいか、異国の地の教育現場だからと言って、勝手なマネはするな。一応、お前は『身柄』だからな。魔術なんて言語道断だぞ?」
「言われなくても。一週間ぐらい、私は我慢できますわ」
「可愛いげのねぇな。まぁいいだろ」
零弥は玄関口に向かって歩き出した。素っ気ない態度を連れて。
「あっ、ちょっと。これから説明に行かなくちゃ……」
「悪いが、俺は行けないな。こいつを保護したのも、住まわせているのも、現在完了形で学校に連れてきたのも全部お前だからな。俺が行けばかえって面倒臭くなる」
「──そんなぁ……」
ユミは無念のあまり肩を落とす。
「……しょぼん。今日はまたパトロールの日だってのに……運の無い悲しいユミさん……」
パトロールと説明にどういった関係があるのかは知ったことでは無いが、とりあえず全て丸投げにしてしまうことに引け目を感じないほど、零弥は薄情ではない。
「──今日はこいつの護衛をしてやるから、それで我慢してくれ」
「お気遣い頂き感謝するね……」
ユミは絞り出したような笑顔を零弥に向けた。
(何をいい雰囲気になっているのか……?)
スフィア、それは余計な考察だ。やめておいた方がいい。
とまぁ、冗談はさておき、今夜、ユミはパトロールに専念することが出来た。引き換えに、零弥の一人っきりの休息時間は失われた。
「そろそろいくぞ、もうすぐ生徒も増えてくるだろうし、いちいち対応したくないからな。そうだろう?次期女王様?」
「……わかりましたわ。お父様の遺言に乗ってくれるなら、仕方ないですわね」
スフィアは素直にはならず、そっぽ向きながらユミの後をついていった。
「女王なんて……わたくしが?……魔術もろくに扱えないわたくしが女王なんて……何を仰るのか……!」
スフィアは表情を悟られないようにうつむき、それでも唇を噛み締めずにはいられなかった。
0
あなたにおすすめの小説
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
精霊姫の追放
あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。
「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども
神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」
と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。
大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。
文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる