虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

街角は宵闇に灯されて③

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「──相崎……これはふざけているのか……?」
「見ての通りです……!」
 職員室に漂う険悪な雰囲気。
 ユミが問題児ではなかったのがせめてもの救いだったが、いきなり子供を連れてきたのはさすがに無視できなかった。
 ユミの心の中に潜む一言を表すとしたら……

 生徒指導マジ怖すぎ。

 以上。
「まさか、お前がそんなことをするような奴だったとはなぁ、相崎ぃ?」
「仕事上仕方無かったんです!ほっ、本部にぃ引き渡そうとしたら、手続きがどうたらこうたらで、しばらく住まわせてくれって……保護した子を家に一人にするような無責任なことは出来ないかな~って……」
 笑顔を作るには口角を全力で上げてみるといいらしい。ただし、愛想笑いの時はひきつっているようにしか見えないので気を付けるように。
「教育の場に子供を連れてくるな!いかに『自由の尊重』をモットーにしているといえども、やっていいことと悪いことの判別がつかないとは言わないよなぁ?」
 子供だからこそ教育を受けさせるのだろう。また、自分自身も子供だ!……なんてことを言えば死ぬ。マジで。
「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて」
 やっと来てくれた助け船My Hope。優しくてフレンドリーと有名な教頭先生の助け船がやって来た。『年の功』というものなのだろうか。教頭からはなんとなく余裕が感じられる。
「相崎さんも大変なお仕事を頑張っているんですから、ここは彼女に免じて許してやってもいいでしょう?」
 さっすが我らの教頭先生!なんてユミは目を大きくして煽ってみたり。
「しかし……さすがに子供を置いていくわけには……」
「あまりにも支障が出てしまえば流石に止めます。一週間だけなんです。一週間すれば……本ご……施設に送れますから!お願いします!」
 生徒指導はうーんと考え込んでしまった。だが、あの場面は引き返せなかったし、むしろここまで頼み込んだことは間違っていないと思っている。
「わかった。何かトラブルが起こったら責任は取れないからな」
「ありがとうございます!先生!」
 ユミはとびっきりの笑顔で答えてみた。そして、それが教頭への感謝の気持ちだけでなく、手間を取らせた生徒指導への蔑みのダブルミーニングということはきっと読者の皆様ならとっくにお分かりであろう。
「さぁ、行くよー……」
 ユミは職員室からそそくさと出ていき、保健室に向かおうとした。
「あっ、そうそう」
 教頭からもう一つの質問。
「その子……どこかで見たような……はて、なんだったかなぁ……?」
「きっ、気のせいですってぇ……ほら、普段見かけないような外国人の違いなんてわからないですって……」
「そうだといいんですがねぇ」
 教頭は顎に手を当てて考え込んだ。ほおっておくと不味いことぐらい、ユミだって察した。
「失礼しました!」
 とりあえず、全力で職員室から脱出した。これから一週間頑張るぞという気合いと、教頭の思わぬ追求の恐怖と、それを何とか逃れた安堵、そして、零弥への怨みを持ち合わせて。今夜にパトロールがある憂鬱を置き忘れただけ、まだましなのだろうか……


「クション!」
 今はこれから暑くなるはずの六月。なのに、何故か背筋が凍る感覚がして止まなかった。
「……なんだこれは。夏風邪か……?」
 ユミに説明を押し付けた(?)ことで怨みを買ったことに、零弥はまだ気づいていなかった。いや、気づかなくていい。
「結局、今日はどこに行こうか……」
 零弥は窓を見て考える。スフィアがおもいっきり楽しめること、満足するであろうことは見当がついていない。まぁ、彼女なら異国の文化を体験させることで十分満足してくれるであろうことは分かっている。もちろん、そんな古くさいことではなく、向こうにとって近代的なものだ。
 問題は二人っきりで行っていいものなのかどうかだ。スフィアは十一歳。この国の小学五年生にあたる。そんな幼女を男子高生が連れていたら、はたから見たらどう見えるだろう。交渉カードに使っていたが、本当に誘拐犯になるかもしれない。
 つまり、もう一人つれていくのがベターだ。
 さて、それを誰に頼むか。流雅……はこの前の仕事の事後処理(依頼の報酬の受け取りや確認等)がある。また、このクラスに健全な友好関係を築けているものはほとんどいない。さて……誰にするべきか……
 そう考えて、ふと窓から右へと視線を移したとき……
「あっ……」
「……私のこと……忘れてたでしょ?」
 亜芽が立っていた。低身長だからか、座っている零弥と視線のいちがあまり変わらない。
「今日、あの子つれていくの?」
「あぁ、説明を押し付けたことへの取引だ。とりあえず、まぁ、適当に歩けば満足するんじゃないか?」
 零弥は一息だるそうにため息をついて、
「それで、護衛と魔除けになってくれないか?」
「何の魔除けかは知らないけど、暇だからいいや」
 表情を変えてくれ。せめては。
「それで……どこへいく?正直、あまりにも遠くへ行きたくないのだが?」
「……セン」
「……は?」
 聞き取れなかった。だが、その響きはどこかで聞いたことがあるようなものだった。
「ゲーセン!」
「……それ、お前が行きたいところじゃないのか?」
 事実。だがそれを確かめる証拠は実在しない!……とばかりに、亜芽は珍しく、マシンガントークを続ける。
「日本の進んだ映像技術はリーピタン王国には無い。ましてや、複雑なプログラムの上に完成した迫力のある音響は飽きさせない。メダルゲー、クレーン、シューティング……ホッケー。この隙の無い布陣に、対抗できうる案、存在しない!」
 そして、亜芽は大きく息を吸い……
「今日はゲーセンに行くべき。異論は認めない」

 完。

 いや、まだ終わらないけど。
「……認めないというか、そもそも無いのだが。後、ゲーセンで最も重要なゲームの一つである音ゲーを抜かしてるぞ」
「不覚……」
 一応世界一位(バイタル・ソリッド)の亜芽はガクッと項垂れた。
「普段やらないのな。音ゲー」
「どうやったらドンとカツを判別できるのか、理解できない……」
 茶番はそこまでにして、とりあえず行き先は決まった。学生の溜まり場、ゲーセン。なんとなく口にして見れば、最近行ってないことに今更気がついた。
 音ゲー。音楽に合わせ、画面を叩いたり、コマンドを撃ったりする人気のジャンル。出来るものと出来ないものの差が激しいジャンルでもあり、何故か高校になると急に始め出す者が多数出現するジャンルだ。多分。
 亜芽が普段やらないのは、ちょっとした理由があったりする。
「そういや、苦手だったのな。音ゲー」
 リズム感の問題か、それとも別の何かか、亜芽にとって、音ゲーは馴染まないようだ。
「自分が出来るからって、調子に乗らない方がいい」
「まぁ、フルコンぐらいは余裕さ」
 逆に、零弥はそれなりに上手いのである。まぁ、持ち前の反射新経と記憶力をフルに利用した完全目押しなのだが。
「じゃあ、放課後に」
「待って」
 亜芽が制止した。
「ゲーセン行くなら、わかってるね?」
「あぁ、分かっているさ」

『「対戦だ!」』

 こうして、スフィアの護衛ということを完全に忘れた二人の仁義無き戦いの火蓋が、今、切って落とされたのである。後、ユミはパトロールにいっていることも、この二人には最早どうでもいいことだった。
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