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アビスフリード争奪戦
街角は宵闇に灯されて④中編Ⅲ
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「そこで何をしているわけ?ずっと追いかけてたみたいだけど」
亜芽が呟いた視線の先には、かつてスフィアを襲った、フードの者が立っていた。
「彼女から聞いていたけど、もしかして、あなたの事?スフィアを誘拐しようとしていたのは」
敢えてユミの名前は出さない。名前を知られることの重大さはよく理解している。
「私も昔はそういう闇なことをしていたときがあった。尾行のような、そういった単純なことには気がつくし、想定できる。彼は気づかなかっただけど」
嘘である。
全力でその場を走り去った零弥は、あらゆる方向からは見られない位置、つまり死角からこのやり取りをじっとみている。
また、ペルティエの時の技術がこうも役立つとは。なんとなく、あの苦しんだ時代を恨めなくなった。
『なぜあの男に言わなかった?』
ご丁寧に、顔を見せないだけでなく、ボイスチェンジャーまで使用している。かなり神経質かつ用心な性格のようだ。
「私は彼らとは違って、あんな奇天烈な力はないし、生憎武器も一切無い。もしあなたが何かしら攻撃しても、私はただ死んでいくだけ」
そう言いつつ、亜芽は両手をあげ、手の平をその者に向ける。
手札をバラす事は降参か戦う意思を見せないことを意味する。とりあえず、今回はただ帰って欲しかっただけだ。だが、その前に情報だけを置いていってからだ。零弥を遠ざけたのもその為である。
『──お前たちが、王女をさらったのか?』
「……いいや」
亜芽は否定だけしておく。
『王女はリーピタン王国の次期国王候補だ。襲撃を受けたとはいえ、そう簡単に国外には出られないはず。ましてや人類が多数棲み付く日本に、自ら入国するはずがない』
魔族大戦の結果、力を持たざる人類は戦わないことを学んだ。そして、それを実行するための手段も学んだ。その一つは『諸外国との友好関係を結び、非常事態には救護してもらう』こと。もう一つは『最初から魔族とは手も組まず、一切干渉しない』ことだ。それは、魔族に対して忌み嫌うことを意味する。
『魔族である王女が日本に逃げて来るような自殺行為は、一般的に考えてあり得ないだろう』
「違う。スフィアは自家用のヘリで逃げてきた。乱気流に襲われて不時着したけど、たまたまそこが日本だっただけ。国を選んだわけじゃない」
亜芽の表情は変わらない。そして、目の前の者から少しも目をそらさない。
『嘘をつくならもう少しましな嘘をつくんだな、人類。お前たちは平気で人を騙し、貶める生き物だ』
その者は吐き捨てるように声を荒げる。
『いつもそうだ。他の種族より技術が発達しているからと、見下してきた。そんな種族を信用できるか』
(──何?とても誘拐しようとする人の言葉じゃない?むしろ、私達が誘拐犯みたいになっているような……)
亜芽は不思議に感じていた。スフィアは襲撃されてここに来ている。ならば、強行手段をとってもさらいに来る……いや、その考えが間違っているのだ。ヴァールリード家が殲滅されたのなら、スフィアも同じように殺される。先ほど武器が無いことを宣言したのに、この者は家に入ろうともしない。
そしてもう一つ。
(人類に何か怨みでも?ということはこの人は魔族……いや)
亜芽は結論を急ぐのをやめた。
あの夜の戦闘で、たった一度だけ結論改竄が発動したのはユミから聞いている。そこから導き出される結論は……
この男が、能力持ちだということだ。
能力は人類にしか利用できない。しかも、その人数は限られている。全人類に等しくポンポンと発動できるものではない。大事なのはそこではない。逆説的に言うと、能力を使用できるということは、すなわちその者が人類ということになる。しかしそれは、ある疑問を産み出す要因にもなる。
(自らが人類でありながら人類を怨んでいるって……どういう事?)
その疑問はどう考えてもわからなかった。同族が同族を恨む。ただのいじめとか、そういう問題では無いような気はしているのだが。
それでも、目の前の本人に聞こうとは思わなかった。下手に地雷を踏み、スフィアを殺害されては困るからだ。
亜芽は黙って、次の議題へと移るまで待った。
『──貴石競争を知っているか?』
やはり、知っていたか。
スフィアに関連することではこれが一番重要なワードだ。
「知ってるも何も、私たちの誰かが人類陣営としてそれに参加するけど」
『──チッ』
フードの者はあからさまに舌打ちした。今回で二回目の動揺だ。
「残念だけど、あなたの出る幕はない」
先に手を打って正解だった。零弥の判断はあっていたのだ。
「スフィアは責任を持って本国に返す。だから、その日まで付きまとうのは止めておいた方がいい」
亜芽は表情を変えずに、次の一言だけを伝えた。
「さもなければ、あなたは必ず殺られる」
『──随分と強気だな。いいだろう。ただし、王女に何かあればお前たちを手にかける。いいな?』
亜芽はコクリとうなずいた。これはフェイクではなく、心の底からそう思っている。
『一国を揺るがす事件に首を突っ込んだ事、後悔するんじゃねぇぞ』
フードの者は、去り際にそう呟いた。しかし、それは亜芽には届いていなかった。
亜芽が呟いた視線の先には、かつてスフィアを襲った、フードの者が立っていた。
「彼女から聞いていたけど、もしかして、あなたの事?スフィアを誘拐しようとしていたのは」
敢えてユミの名前は出さない。名前を知られることの重大さはよく理解している。
「私も昔はそういう闇なことをしていたときがあった。尾行のような、そういった単純なことには気がつくし、想定できる。彼は気づかなかっただけど」
嘘である。
全力でその場を走り去った零弥は、あらゆる方向からは見られない位置、つまり死角からこのやり取りをじっとみている。
また、ペルティエの時の技術がこうも役立つとは。なんとなく、あの苦しんだ時代を恨めなくなった。
『なぜあの男に言わなかった?』
ご丁寧に、顔を見せないだけでなく、ボイスチェンジャーまで使用している。かなり神経質かつ用心な性格のようだ。
「私は彼らとは違って、あんな奇天烈な力はないし、生憎武器も一切無い。もしあなたが何かしら攻撃しても、私はただ死んでいくだけ」
そう言いつつ、亜芽は両手をあげ、手の平をその者に向ける。
手札をバラす事は降参か戦う意思を見せないことを意味する。とりあえず、今回はただ帰って欲しかっただけだ。だが、その前に情報だけを置いていってからだ。零弥を遠ざけたのもその為である。
『──お前たちが、王女をさらったのか?』
「……いいや」
亜芽は否定だけしておく。
『王女はリーピタン王国の次期国王候補だ。襲撃を受けたとはいえ、そう簡単に国外には出られないはず。ましてや人類が多数棲み付く日本に、自ら入国するはずがない』
魔族大戦の結果、力を持たざる人類は戦わないことを学んだ。そして、それを実行するための手段も学んだ。その一つは『諸外国との友好関係を結び、非常事態には救護してもらう』こと。もう一つは『最初から魔族とは手も組まず、一切干渉しない』ことだ。それは、魔族に対して忌み嫌うことを意味する。
『魔族である王女が日本に逃げて来るような自殺行為は、一般的に考えてあり得ないだろう』
「違う。スフィアは自家用のヘリで逃げてきた。乱気流に襲われて不時着したけど、たまたまそこが日本だっただけ。国を選んだわけじゃない」
亜芽の表情は変わらない。そして、目の前の者から少しも目をそらさない。
『嘘をつくならもう少しましな嘘をつくんだな、人類。お前たちは平気で人を騙し、貶める生き物だ』
その者は吐き捨てるように声を荒げる。
『いつもそうだ。他の種族より技術が発達しているからと、見下してきた。そんな種族を信用できるか』
(──何?とても誘拐しようとする人の言葉じゃない?むしろ、私達が誘拐犯みたいになっているような……)
亜芽は不思議に感じていた。スフィアは襲撃されてここに来ている。ならば、強行手段をとってもさらいに来る……いや、その考えが間違っているのだ。ヴァールリード家が殲滅されたのなら、スフィアも同じように殺される。先ほど武器が無いことを宣言したのに、この者は家に入ろうともしない。
そしてもう一つ。
(人類に何か怨みでも?ということはこの人は魔族……いや)
亜芽は結論を急ぐのをやめた。
あの夜の戦闘で、たった一度だけ結論改竄が発動したのはユミから聞いている。そこから導き出される結論は……
この男が、能力持ちだということだ。
能力は人類にしか利用できない。しかも、その人数は限られている。全人類に等しくポンポンと発動できるものではない。大事なのはそこではない。逆説的に言うと、能力を使用できるということは、すなわちその者が人類ということになる。しかしそれは、ある疑問を産み出す要因にもなる。
(自らが人類でありながら人類を怨んでいるって……どういう事?)
その疑問はどう考えてもわからなかった。同族が同族を恨む。ただのいじめとか、そういう問題では無いような気はしているのだが。
それでも、目の前の本人に聞こうとは思わなかった。下手に地雷を踏み、スフィアを殺害されては困るからだ。
亜芽は黙って、次の議題へと移るまで待った。
『──貴石競争を知っているか?』
やはり、知っていたか。
スフィアに関連することではこれが一番重要なワードだ。
「知ってるも何も、私たちの誰かが人類陣営としてそれに参加するけど」
『──チッ』
フードの者はあからさまに舌打ちした。今回で二回目の動揺だ。
「残念だけど、あなたの出る幕はない」
先に手を打って正解だった。零弥の判断はあっていたのだ。
「スフィアは責任を持って本国に返す。だから、その日まで付きまとうのは止めておいた方がいい」
亜芽は表情を変えずに、次の一言だけを伝えた。
「さもなければ、あなたは必ず殺られる」
『──随分と強気だな。いいだろう。ただし、王女に何かあればお前たちを手にかける。いいな?』
亜芽はコクリとうなずいた。これはフェイクではなく、心の底からそう思っている。
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フードの者は、去り際にそう呟いた。しかし、それは亜芽には届いていなかった。
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