虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

街角は宵闇に灯されて④後編

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「行ったか」
 背後からずっと監視していた零弥が飛び込んでくる。空中を大きく舞い、何事もなかったかのように着地する。
「あの人、随分様子が変わってた」
「あぁ。かなり感情的だったな。人類に対して何か考えるものでもあるようだが」
「気づいた?私もなんとなく感じたけど」
 その言葉を聞くと共に、零弥は顎に手を当てながら考え始めた。零弥も亜芽と同じように、いくつかの疑問点が浮上している。
「そもそも、奴は人類に対して何故ああいう態度をとっているんだ?スフィアの襲撃に関わっているなら、奴は魔族の可能性があるが……」
「それはないと思う。一度、ユミと交戦したことがあった。零弥には言ってなかったけど、そのときにユミの桐鋼が発動してる」
結論改竄リザルトキラーが適用されたのか……!」
「そう。ということは、あの攻撃は能力アビリティということになる。だから彼は人類の可能性が高い」
「成る程な。だが、そう決めつけるのはまだ早いぞ、亜芽」
「……」
 亜芽は何も言わない。ただ零弥の指摘を待つ。
「物事には必ず『例外』が存在する。人類だけが能力アビリティを使えるというのは誰が決めつけた?もしかするなら、魔族でも能力アビリティを使える者がいるかもしれないだろう?」
 確かにそうだ。実験の成功は自らの目で見てこそ証明される。何らかの突然変異で、魔族でありながらもあの男が能力アビリティを使えたのかもしれない。
 しかし、それは極めて限定的かつご都合過ぎる。原則、魔族は能力アビリティを使用できない。能力アビリティの根元がまだ完全には解明されていないのに、それを魔族が習得したとも考えにくい。なぜなら、技術が無いからだ。
 人類でも達成できていない事が、魔族に出来るとは考えにくいものだった。
「そうだけど……でも、私はそこはあまり重要じゃないと思う」
「俺もそう思うな。ならば、別の事を検討するとしようか」
 零弥は手を顎に当てる。それはいつもの、思考に入る体勢だ。
「まず最初に、奴は『お前が王女をさらったのか』と聞いていた。しかも、ユミとの交戦時ではなく、二回目の今日に。普通、襲撃犯ならそんな事を聞かずに、問答無用で連れ去るだろう?そうでないならおそらく、奴は襲撃とは関係ないとまでは行かなくとも、犯人では無いだろうな」
「確かにそう思う。っていうか、スフィアをさらうか殺害したいのなら、わざわざ正面突破しなくてもよかった」
「言われてみれば……。では第二。一回目、ユミとの交戦では桐鋼が発動したと言ったな?」
 零弥の鋭い眼光が亜芽に向けられる。
「うん。ギリギリ間に合ったけど、後少し遅れていれば何が起きるかわからなかったみたい」
「ということは、奴はスフィアに『攻撃の類いを仕掛けた』ということだ。それにもかかわらず、二回目のお前には、武器を持たないことを知ると攻撃をしてこなかった。そして、スフィアに何の危害も加えずにその場を去った」
 そこは亜芽は気づいていなかった。攻撃してほしくないというので一杯で、それに対する疑問は薄れていたのだ。
「……そうだ。一回目は確かにスフィアをさらおうとしていたはず」
 そう。一回目にさらおうとしていたのに、二回目に何のアクションも起こさないのは不自然なのだ。そもそも、さらうならスフィアの周辺の注意が散漫になった瞬間にさらえばいい。例えば、ゲームセンターの対戦中に。
 そして、それが事実だとしたら、この問題はさらにややこしくなるのだ。
「……さて、そうなると、結構ややこしい事になるな」
「……」
 亜芽は固唾を飲んでじっとしている。
「奴は確かにスフィアを襲った。しかし、奴は襲撃に関与しているとは考えにくい。まとめると、『奴は襲撃及びヴァールリード家の殺害には関係ない第三者でありながらスフィアをさらおうとしていた』ということだ。そして、二回目にそうしなかったということは、『さらう必要が無くなった』と考えられるだろう」
「さらう必要が無くなった?その理由は?」
 亜芽が聞き返す。
「それに繋がるのが第三の疑問だ。亜芽、奴は『貴石競争』について、いくつか質問をしていなかったか?」
「確かに……何を知っているかって聞かれて、アイツが人類だと思ったから『私たちの誰かが人類陣営として出る』とだけ言っておいたけど」
 その言葉を聞き、零弥はまた思考に潜り込んだ。
(スフィアを誘拐……だが、どうして止めた?例えば、もし奴にスフィア殺害の意思がなければ……いや、殺したくなかった?まさか、『殺させたくなかった』?)
 それは逆転の発想。だが、あまり信じられない発想。誘拐しようとしていたイメージとはかけ離れる、ありきたりな発想。

 だが、零弥はその考えを捨てきれない。

 なぜなら、それを『大事だ』と心のどこかで感じたからだ。

(……だとしたら……) 
 零弥は思考を張り巡らせ、やがて一つの考えが浮かんだ。
「なあ、亜芽」
「何?」
「もし、奴がスフィアを殺害したくなかったとして、スフィアの命が保証されるとしたら──」

「──当然、誘拐する必要は無くなるよな?」

「──そうか!貴石競争はスフィアの存在が必要不可欠。零弥が参加する以上、スフィアに手出しできない事が確定する」
「それを裏付けるのがもう一つの疑問。奴は人類に対して異常な嫌悪感を抱いていた。『自殺行為』なんて言葉を使ってまで」
 亜芽も気になっていた部分だ。人類でありながら人類を嫌う。この構図に違和感を感じていた。
「人類を信じられないのなら、当然人類に保護されている状態は安心できない。だからあのときスフィアをさらいに来た」
 あの男はスフィアをさらわなければいけなかった。人類という敵から、王女を守るために。
 最初から、ずっと勘違いしていたのだ。零弥も亜芽も。 
「奴もアビスフリードを狙っているな。そのためにスフィアをさらいに来ていた。先に殺害されては、目的のものは手に入らない」
「結局、私たちと同じ考えをしていたと」
 スフィアの安全度が上昇したのには安心した。
 だが……
「でも、スフィアと接触せずに貴石競争を知っていたのは正直気になる」
「人類での一番最初のエントリーは俺たちだ。そうなると、奴も何かの形で関わってくるかもしれないな」
 その何かが本来重要なのだが……
「悪いが、これ以上は頭が回らない。とりあえず帰るわ」
「お疲れ。今日はありがとう」
 零弥はその言葉を待たず、帰り道にふけていった。夏だというのに、辺りはもう真っ暗になっていた。
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