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アビスフリード争奪戦
街角は宵闇に灯されて⑥
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「私は、弱い」
保健室で分厚い本を読み漁りながら、スフィアは確かめるように呟く。
ゲームセンターをいつも以上に楽しみ、それから数日経った今でも、日本での生活には馴染めない。今はこうやって、本を読破するだけだ。
「私は、強くなんかない」
もう一度、繰り返すように呟く。
──それはまるで、自分に言い聞かせるように。
──それは強く噛みしめ、己の実力を思い知るように。
スフィアの脳裏には、あの日無惨にも目の前ではかなく散っていく、家族や身の回りの者がいた。
零弥に蔑まされるように諭されても、『次期女王』としての責任感は拭い去れない。
回復すら満足に出来ない自分に、一体何が出来るのか。そうやってスフィアは、放課後になるまで何度も何度も繰り返し、こう呟いた。
「私は……お兄様のように、強くはありませんもの」
スフィアぎゅっと、緑色をした形見の宝石を握りしめる。
(なぜ、アイツが出てきたのか?)
零弥は保健室での出来事を振り替えると同時に、紅緒の顔も頭に浮かべていた。
短髪で生意気な男勝りの女性だったが、彼女との生活は今振り返ってみると、それは楽しかったと言わざるを得ないのかもしれない。
いやいや、問題はそこじゃないだろう。何故スフィアと紅緒の姿を重ね合わせてしまったかを考えているだけではないか。
スフィアはリーピタン王国の住人だ。紅緒も抑制師でありながら海外を飛び回る生活をしていたため、もしかしたら、一度会っているのかもしれない。それなら、スフィアが全く同じ解答をした事への疑問は解消される。ただ、そう物事は上手くいかないと言うことも重々理解しているし……。いくら紅緒だからと言って、そう簡単に他人を弟子にするような人物でもないし、ましてや王族なんて……
「ちょっと!聞いてる?」
──生徒会新メンバー誘致作戦会議IN喫茶店。もちろん約束は忘れない(忘れそうになっていなかったとは言っていない)。そう、今は木曜日の放課後の事だ。
「──聞いてます聞いてます」
嘘だ。頭の中はスフィアの事でいっぱいだった。もちろん返事は素っ気なく、それを聞いた紗亜矢の顔はムッとしたままだった。
「はぁ……」
「どうしたの?そのため息」
「いや、何でも無いです」
零弥は適当にはぐらかした。
喫茶店の雰囲気は案外落ち着くものだったが、紗亜矢の前ではそうもいかないものだ。ただ、それは生徒会長を目の前にした緊張感ではないことは、読者の皆様は十分お察しのところだと信じている。
「あなたを見ていると、和希くんを思い出すわね」
「新井先輩を?」
「そう。なんとなく雰囲気が似てるってか、私に対する対応がね」
それは誉め言葉なのかけなしているのか。
「新井先輩って、どんな人なんですか?」
「一言で言うと、クールって感じかな。いっつも私が声をかけてあげてるってのに、塩対応だし、だけどね、『仕事』は一生懸命してくれる人よ」
紗亜矢は落ち着いた笑顔を見せる。実は、この笑顔が人気だったりするのだ。
「でも、結構すごい人なんでしょ?」
「結構みたいね。なんか、全国レベルとか何とか」
序列八位に向ける言葉として正しいのか。それは。
「最近見かけませんしね、かなり忙しいんじゃないですか?」
「あー……確かまた『呼び出し』があったって。今度は成田に向かうってさ」
さりげなく重大な情報を漏らした。国防に関わると知っていたら、これは逮捕ものだ。
「成田ねぇ……」
「こっち側から言わせてもらうと、もっと生徒会の仕事もしてほしいところなのよねぇ」
紗亜矢がため息と共に明らかに矛盾する言葉を口にした。
「さっきは仕事ができるとか言ってたじゃないですか」
「そうだけど、今度は年間でも最も重要で盛り上がるイベントが待ってるじゃない、二学期に」
そう。何処の高校でもこの日を楽しみにクラスで一致団結するイベント。模擬店、ステージ、体育祭。それらが意味するのは……
「『星校祭』。もう準備を始めてるんですね」
「そうなの。毎年のことなんだけど、これが結構大変でさ……計画は勿論、何処の部活やクラスが何の模擬店を出すか、ステージの応募はどうするか、校舎のデザイン、スケジュール、体育祭のプログラム……やること多すぎ」
星校祭。
一言で言うと、『星蕾高校の文化祭』だ。屈指の人気校であるため、校外からの来校者は多く、生徒会も対応が急がれる。また、三年生は最後の青春的イベントのため、一年間のなかで最も盛り上がる瞬間とも言える。はっきり言うのもなんだが、星校祭は他校の文化祭とは格段に違う。模擬店も圧倒的に多く、ステージも一年生から三年生までが積極的に立っているのだ。
「でも、やってみると案外やりがいはあるわよ。なかなか味わえないものだから、零弥くんもやってみたら?」
「さりげなく俺を生徒会に入会させようとしないでいただけますか」
「あぁ、いいのいいの。あなたは私の従順な後輩なんだから。日が来れば、覚悟しておいてね?」
「……はいはい」
やれやれと、既に食べ終わったケーキの皿に目を落とす零弥だった。その姿を見て、何を思ったのか……
「──やっぱり和希くんに似てる」
「──そうですか」
零弥は紗亜矢の目を見て、再び離した。
(第八位の能力持ちも、校内ではこんな感じなのか……)
零弥は頭の中で、弱い思考を巡らせた。
(そんな力が無ければ、もっと学生を楽しめているとでも、思っているのか……?)
「……はぁ」
思わず出たため息。
「──どうしたの?今日は多くない?」
「いや、大変なんだなって」
「お互いに」
最後の言葉は紗亜矢には届いていない。勿論、その意味までもだ。
保健室で分厚い本を読み漁りながら、スフィアは確かめるように呟く。
ゲームセンターをいつも以上に楽しみ、それから数日経った今でも、日本での生活には馴染めない。今はこうやって、本を読破するだけだ。
「私は、強くなんかない」
もう一度、繰り返すように呟く。
──それはまるで、自分に言い聞かせるように。
──それは強く噛みしめ、己の実力を思い知るように。
スフィアの脳裏には、あの日無惨にも目の前ではかなく散っていく、家族や身の回りの者がいた。
零弥に蔑まされるように諭されても、『次期女王』としての責任感は拭い去れない。
回復すら満足に出来ない自分に、一体何が出来るのか。そうやってスフィアは、放課後になるまで何度も何度も繰り返し、こう呟いた。
「私は……お兄様のように、強くはありませんもの」
スフィアぎゅっと、緑色をした形見の宝石を握りしめる。
(なぜ、アイツが出てきたのか?)
零弥は保健室での出来事を振り替えると同時に、紅緒の顔も頭に浮かべていた。
短髪で生意気な男勝りの女性だったが、彼女との生活は今振り返ってみると、それは楽しかったと言わざるを得ないのかもしれない。
いやいや、問題はそこじゃないだろう。何故スフィアと紅緒の姿を重ね合わせてしまったかを考えているだけではないか。
スフィアはリーピタン王国の住人だ。紅緒も抑制師でありながら海外を飛び回る生活をしていたため、もしかしたら、一度会っているのかもしれない。それなら、スフィアが全く同じ解答をした事への疑問は解消される。ただ、そう物事は上手くいかないと言うことも重々理解しているし……。いくら紅緒だからと言って、そう簡単に他人を弟子にするような人物でもないし、ましてや王族なんて……
「ちょっと!聞いてる?」
──生徒会新メンバー誘致作戦会議IN喫茶店。もちろん約束は忘れない(忘れそうになっていなかったとは言っていない)。そう、今は木曜日の放課後の事だ。
「──聞いてます聞いてます」
嘘だ。頭の中はスフィアの事でいっぱいだった。もちろん返事は素っ気なく、それを聞いた紗亜矢の顔はムッとしたままだった。
「はぁ……」
「どうしたの?そのため息」
「いや、何でも無いです」
零弥は適当にはぐらかした。
喫茶店の雰囲気は案外落ち着くものだったが、紗亜矢の前ではそうもいかないものだ。ただ、それは生徒会長を目の前にした緊張感ではないことは、読者の皆様は十分お察しのところだと信じている。
「あなたを見ていると、和希くんを思い出すわね」
「新井先輩を?」
「そう。なんとなく雰囲気が似てるってか、私に対する対応がね」
それは誉め言葉なのかけなしているのか。
「新井先輩って、どんな人なんですか?」
「一言で言うと、クールって感じかな。いっつも私が声をかけてあげてるってのに、塩対応だし、だけどね、『仕事』は一生懸命してくれる人よ」
紗亜矢は落ち着いた笑顔を見せる。実は、この笑顔が人気だったりするのだ。
「でも、結構すごい人なんでしょ?」
「結構みたいね。なんか、全国レベルとか何とか」
序列八位に向ける言葉として正しいのか。それは。
「最近見かけませんしね、かなり忙しいんじゃないですか?」
「あー……確かまた『呼び出し』があったって。今度は成田に向かうってさ」
さりげなく重大な情報を漏らした。国防に関わると知っていたら、これは逮捕ものだ。
「成田ねぇ……」
「こっち側から言わせてもらうと、もっと生徒会の仕事もしてほしいところなのよねぇ」
紗亜矢がため息と共に明らかに矛盾する言葉を口にした。
「さっきは仕事ができるとか言ってたじゃないですか」
「そうだけど、今度は年間でも最も重要で盛り上がるイベントが待ってるじゃない、二学期に」
そう。何処の高校でもこの日を楽しみにクラスで一致団結するイベント。模擬店、ステージ、体育祭。それらが意味するのは……
「『星校祭』。もう準備を始めてるんですね」
「そうなの。毎年のことなんだけど、これが結構大変でさ……計画は勿論、何処の部活やクラスが何の模擬店を出すか、ステージの応募はどうするか、校舎のデザイン、スケジュール、体育祭のプログラム……やること多すぎ」
星校祭。
一言で言うと、『星蕾高校の文化祭』だ。屈指の人気校であるため、校外からの来校者は多く、生徒会も対応が急がれる。また、三年生は最後の青春的イベントのため、一年間のなかで最も盛り上がる瞬間とも言える。はっきり言うのもなんだが、星校祭は他校の文化祭とは格段に違う。模擬店も圧倒的に多く、ステージも一年生から三年生までが積極的に立っているのだ。
「でも、やってみると案外やりがいはあるわよ。なかなか味わえないものだから、零弥くんもやってみたら?」
「さりげなく俺を生徒会に入会させようとしないでいただけますか」
「あぁ、いいのいいの。あなたは私の従順な後輩なんだから。日が来れば、覚悟しておいてね?」
「……はいはい」
やれやれと、既に食べ終わったケーキの皿に目を落とす零弥だった。その姿を見て、何を思ったのか……
「──やっぱり和希くんに似てる」
「──そうですか」
零弥は紗亜矢の目を見て、再び離した。
(第八位の能力持ちも、校内ではこんな感じなのか……)
零弥は頭の中で、弱い思考を巡らせた。
(そんな力が無ければ、もっと学生を楽しめているとでも、思っているのか……?)
「……はぁ」
思わず出たため息。
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「いや、大変なんだなって」
「お互いに」
最後の言葉は紗亜矢には届いていない。勿論、その意味までもだ。
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