虚構幻葬の魔術師

crown

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アビスフリード争奪戦

侵掠すること火の如く③

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 さて、話は再びリーピタン王国へと移る。
 ベッドが一つしか無いことに慌てるユミを差し置いて、零弥は呑気に眠っていたが、夕食の一時間前に目が覚めた。
「……もう夕方かよ」
 そして、目が覚めた隣に、ユミが座っていた。
「よくそんなにぐっすり寝られているのね。私には到底理解できません」
 ユミはそっぽ向いてしまった。その頬が赤くなっているのは気のせいであるのだろうか?
「今何時だ?」
 零弥はスマホの電源をつける。時差自動調節機能によって、時刻はリーピタン王国のものへと変わっている。リーピタン王国の時刻は既に五時を回っていた。会食へと赴く準備をするのにはちょうどいい時間だった。
「……もう五時過ぎか……そういや、他の陣営について何も知らなかったな」
「零弥がすぐに寝ちゃうからでしょ?何をしていいのかわからなかったからずっとここに居たわけだけど」
「まぁ、この部屋から出なかったのは正解だろうな。下手に探るよりは手の内を明かさないほうがましだ」
 零弥は眠い目をこすって、ベッドから立ち上がる。そうして、何となく辺りを見回してみると、そこには不自然な立方体が置かれていた。
「何だこれは?」
 鋼鉄の塊。そして、扉のようなものに取り付けられたダイヤル。これが意味するものは一つしか無い。
「なるほど、ちゃんと盗難防止として金庫が設置されているのな。流石にそこまでは考えられているか」
 零弥は寝起きのだるさに構わず、思考を巡らせた。部屋の金庫を利用して何か出来ないかと、頭を動かせてみたのだが……やはりこれだけでは上手くいかないようだ。
「特別な魔術があるかはわからないな……もしプレイヤーの中に金庫を開けられるような者が居たら……いや、結局は願うしかないか」
「盗難防止用とは言うけど、具体的に何を隠せばいいのかな?アビスフリードがどんななのかわからないし、遠隔で魔力を流されたら意味無くない?」
「そうだな。どのような反応を見せるかによるが、あまりいい話ではないことは確定している」
 零弥は金庫をじっと見つめ、
「相手は普段、俺達が相手にしたことの無い者ばかりだ。特に魔族は多様な魔術を使ってくる。油断は出来ない」
「魔族って言うけど、私達ってあんまり海外とか行かないし、国が推進しないからそう思うだけなんだろうけど……魔族って一体何なのかな?」
 ユミがそっと口にした。
 人類存続にとって、最大の障害となった魔族。その恐ろしさや苦手意識、差別意識は無意識のうちに受け継がれていく。もし新たな戦争が起こったとき、人類は再び生き残れるのだろうか?
 こういう疑問が起こってしまう要因として、戦える人数の規模の大きな差が第一に挙げられる。
 まず、人類は普通は物理的法則を歪めかねない力を、一般的には使えない。しかし、能力持ちアビリストだけは別で、能力アビリティを使用することで、超常的力を発揮できる。しかし、能力持ちアビリストの割合は人類の千分の一にも満たないのだ。つまり、残りの千分の九百九十九は物理的な武器が必要となる。
 一方、魔族は誰しもが基本的に魔術を利用できる。むしろ魔術を使用できない魔族のほうが珍しい。この時点で、圧倒的人数差が発生していることは、誰の目にも明らかだろう。
 話を戻すが、人類が魔族の国で何かのトラブルに巻き込まれることで、外交上に著しい問題が発生することは十分に考えられることだ。それを防ぐために、国家は十分な説明をする体制を整えている。
 そして、それは人類に外へと出てほしくないとも取れる。
 魔族への、表面上には出さないものの、関わりを絶ちきるよう勧める空気は確かに流されている。
 その結果、魔族が何なのかを知らない人類は増えているのだ。
「魔族も、結局は人類と同じだ。超常的な力を発揮できる人数が違いすぎるだけで、考えは俺達と変わらない。確かに、魔術は脅威だ。しかし、魔術のシステムがバランスを崩している……とは言い切れない。ならば、それを使用する魔族が秩序を乱しているとも言い切れないはずだ」
 零弥はユミの顔をじっと見つめ、
「魔族だって、俺達と同じように一定の倫理観や常識は持っている。別に、特別な対応をする必要はないし、こちらからもそんなことをするつもりはない。
 ユミは一週間、スフィアと一緒に過ごしてきたのだろう?その間、スフィアを魔族として意識していたか?違うはずだ。一国の王女としてのプレッシャーは感じたはずだが、その分魔族としては扱わなかった。星高の先生だって、彼女が魔族だとは気付かなかった。つまり、何も変わらないんだ」
「そうか……そうだよね。ごめんね、何か変な質問しちゃって」
 ユミは零弥の顔から視線を反らせた。正確には、視線を下に向けた。
「まぁ、向こうが同じように扱ってくれるとは思わないが……」
 零弥がぼそっと言った。その言葉はユミには届いていない。
「えっ?何か言った?」
「……いや、まぁいい。そろそろ行くぞ。プレイヤー達が待っているはずだ。今夜は十分楽しむぞ。戦いに専念するための十分なゆとりを作るために、まずは宣戦布告の時だ」
「ゆとりを作るのに宣戦布告?まぁ、零弥らしいと言ったら、らしいかな」
 ユミは小さく笑った。
「よし、行こうか」
 零弥はドアへと真っ先に向かった。 そして、長い廊下の先の食堂へと向かう。
 そして、そのドアを開ければ、今まで感じたことの無いオーラと緊張感が、ユミの全身に降りかかってきたのだ。
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