虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

侵掠すること火の如く④前編

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 零弥によって開かれたドアは、軋みすら見せず、スムーズに開いた。
 部屋には豪華な食事、高そうなテーブルと椅子が数台。その間を仕切るように、真っ白なテーブルクロスがひかれていた。
 零弥は辺りを見回す。ユミにはまだ伝えていないが、フェイルノートの一人がこの中に混ざっていることを零弥は忘れていない。ただ見ただけでわかるようなものではないが、それでも情報を収集しようとする努力だけは行った。
 零弥の予想に反して、ほとんどのプレイヤーは既に席についていた。だが、零弥にとっては確かにのプレイヤー、しかし……
「レイヤ……ユミも、準備が出来たようですね。では、これから、オープニングセレモニーを始めさせていただきますわ」
 向こうにとっては全種族が揃っている。
 零弥が数え間違えたのではない。確かに、一つ足りないのだ。
 世界に存在する種族は八つある。もちろん、人類を含めての八つだ。しかし、この部屋では七つしかいない。一体どういうことなのだろうか?
「申し遅れました。わたしはリーピタン王国王女、スフィア・ヴァールリード。種族は魔術師ウィザード。今回はゲームマスターとして、戦いを閲覧させていただきますわ」
「ゲームマスターなんざどうだっていいだろうが!早く宝石の在りかを教えろ」
 明らかに傲慢な男が喚く。
「それを自分で探すのがルールでしょう?全く、これだからケダモノ野郎は」
「ケダモノォ!?貴様、誰に向かって言ってるんだ!」
「まぁまぁ……落ち着いてくださいって」
 男と女の口喧嘩に、気弱そうな若い男が間に入る。今にも潰されそうだ。
「まだ食べちゃダメ?お腹すいたんだけど」
「これこれ、もう少し待たれぃ」
  ……五月蝿い。
 零弥の頭をその言葉が駆け巡った。
 さっきまでの緊張感はなんだったのだろうか。念のためと思考を巡らせただけ損した。そんな気持ちだ。
「……何これ」 
「知るかよ」
 どうやら、ユミも同じ感想を抱いていたようだ。
 流石にうるさいので、ここはどうにかしてほしいとは思った。まぁ、緊張を解すのにはいいきっかけとはなったのだが、それでも不快は不快だ。
「いい加減黙っていただけますか?」
「あぁ!何だと」
 スフィアの警告に反応して、ケダモノ男が怒鳴り散らす。
「黙っていただけないかと言っているんですわ。失格として本国に帰させても構わないのならそう致しますが」
「だから誰に向かって……」
「さっき申し上げましたように、わたしはゲームマスターですわ。その程度の行使は遺憾無く発揮されるべき状況なのでは?」
 なるほど。先に宣言したのはそのためか。十一才のわりにはなかなかいい段取りをする。流石は若き国王だ。零弥は感嘆する。
「チッ……」
 男は黙って席についた。
「失礼致しました。今後、こういう不祥事があった場合、ゲームマスターとしての権限を行使させていただけ場合がございますわ。何卒、ご理解を」
 一同はゆっくり頷く。ただ一人の男を除いて。
「では、自己紹介と致しましょうか。全員、名前と種族の公開を。では、さっき騒いでいたあなたから」
 スフィアは進行と共に、先ほどの男性を指名した。
「……ドルガ・デイトスだ。種族は獣人ビースト
「わたしはリンジー・テーリア。種族は精霊獣エルフ。どうか、お手柔らかく」
 大声で言い争っていた二人から自己紹介を始める。女性は物腰柔らかそうに口を動かすが、さっきの口ぶりからして信用ならない。
 その後も、魔術師ウィザードのジェフ・ケルトス、呪霊種アンデットのウィリアム・コールドホム、吸血鬼ヴァンパイアのクレイア・ヴァン・ウィアラントと続く。魔術師ウィザードは別の国から来た者で、プレイヤーとして新たに参加しているようだ。 ちなみに先ほどの騒動を抑えようとしていた青年にあたる。
 そして、最後。
「……?アイツは……」
 零弥が不審に感じた。いや、心の底では想定していた事が本当に起こっていた。
「……かがり 暁介きょうすけ。日本人だが、妖霊獣ドワーフだ」
 さっき騒動に巻き込まれず、ずっとそっぽ向いていた少年は、その名を口にする。淡々としゃべっているように見えるが、その声には少しだけドスが聞いている。簡単に触れられる存在ではない。 
かがり……か。そして、俺達と同じ日本人でありながら、種族は人類ではない。おそらく、ハーフだな」
「ハーフ?」
 ユミが聞きなれない単語に疑問を浮かべた。
「簡単に言うと、異種族婚の間に生まれた子ども……といったところだ。だいたいは想像できるだろ?」
「……うーん……まぁ」
 ユミは首を傾げながら理解したふりをする。まぁ、出来ていないのだが。
 日本はかなり排他的な国家だが、別に外国人の入国を禁止しているわけではない。その結果、日本人でありながらも魔族である者は確かに存在する。今回の曉介も、そのようなケースに過ぎないのだろう。
「さて、最後のお二人さん、さっさと自己紹介を済ませてくれないかしら」
 リンジーが急かすように自己紹介を勧める。
「あっ、相崎悠海です……種族は人類……」
 ユミが気弱そうな自己紹介を行った。何だかたどたどしい。周りもざわついているように見えるが、それは別のところにあった。
「おい、どうして人類は二人いるんだ!他の種族は一人づつだ。どうして人類だけこうなっている!」
 ドルガが再び喚く。そう、確かに人類以外は一人づつの陣営になっている。確かに、陣営が一人づつと定義されたならば確かにルール違反だ。だが……
「ルールに『陣営は一人づつでなければならない』という要項は存在しているのか?どうなんだ、ゲームマスター」
 零弥が挑発的な口調と共にスフィアに視線を向ける。
「……ルールはまだ解説していませんが、確かにそういったルールは存在しません」
「ふざけるな!どうせ奴らにルールを吹き込んだんだろうが!」
 ドルガはさらに逆上する。しかし、周りはドルガを白い目で見ているのではなく、零弥達を疑う目のほうが明らかに多い。
「ルールを先に聞いたかどうかは証明のしようが無い。だが、どうしてお前達は一人で参加した?どうせ、『秘密裏』や、『アビスフリードの脅威』というワードに引っ掛かって一人で参加しなければならないなどと勝手に決めつけたのだろう?それに気づかず、一人で参加したお前達が悪い」
「……チッ!」
 零弥の煽り口調に、ドルガは何も言えずに座ってしまった。
「気を取り直して、俺は椎名零弥。人類だ。先ほど言った通り、ユミとパートナーを組んで参加させていただく。そして……」

「俺達は絶対に、アビスフリードを誰にも渡すつもりはない」

 零弥の宣戦布告。
 その堂々とした言葉に、場のざわつきは中々収まることはなかった。
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