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アビスフリード争奪戦
侵掠すること火の如く④後編
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「あの人類……魔族をなめているのか?」
「できるわけ無いだろう。人類程度なら」
しかし、それはユミにとって、思っているようなものではなく、いささか、気分を害するようなものだった。
「零弥……」
「こんなもんだ。全く問題ない」
零弥はあくまで落ち着いている。
それはいいとして、零弥は一つ気になることがあった。種族が一つ足りないこと。なぜそうなのか、スフィアに聞いてみることにした。
その前に、吸血鬼の男が同じことを聞いてきた。
「人類が二人で参戦することは良しとしよう。それ故、あの種族は一体どうなったのかね?」
「気づかれましたか……」
スフィアはあらかじめ心構えが出来ていたかのようにため息をする。
「あの種族の国は、皆さまお知りの通り、一つしか存在せず、種族自体、全くの純血種ですわ。それで、今回特例として、国に連絡させていただいたところ、全くプレイヤーを寄越さないとの返答が帰ってきたようです。父には申し訳ないですが、今回は七つの種族のみで行わさせていただきますわ」
スフィアは格式張った言葉を吐きながら、形式通りのお辞儀をする。
「ケッ、結局は全員集められてねぇじゃねぇか」
ドルガは吐き捨てるように悪態をつく。
「まぁ、当然でしょ。むしろ来なくてラッキーってかんじ」
それより目の前の獲物を食べさせてよ、と、言わんばかりに、呪霊種の少女は呟く。
「ホントに来てたら何されるかわかりませんしねぇ……僕も来なくてよかったと思います」
魔術師の青年も続く。
「ご理解頂き、感謝しますわ。では、簡単なルール説明を行います」
そう言ってスフィアは、用意していた紙を取り出し、順を追って読み上げていく。
「貴石競争は父の遺言に基づいて、この宮殿の敷地内に隠されている『アビスフリード』を探す事が目的です。
大まかなルールとして、
①宮殿の敷地から出ない
②宮殿内に戻らない
③プレイヤー以外に攻撃はしない
④他のプレイヤーを死亡させない
これだけですわ。
①,②については総動員で結界を張らせていただきますので、滅多に違反することもありませんし、基本的に障害物も防御魔術を発動させますので、基本的には壊れません。
特に、③,④を違反したプレイヤーはこちらから集中攻撃をさせていただくことがありますので、お覚悟を」
「結構エグいことするのね……」
「そして、ゲームは明日、明後日の午後、日が沈むまでに行われます。どちらかの日の終了時点でアビスフリードが獲得され、わたしが確認すればその時点で終了。二日で決着がつかなければ勝者なしで終了ですわ。また、アビスフリードは魔力に反応して緑色に強く輝きます。触れた時点で反応致しますので、ご注意願います」
なるほど。アビスフリードか否かは触れてみればわかるのだと。ずっと所持すれば光続けるがゆえに誰が持っているかもわかる。なかなか駆け引き要素が絡んでくるゲームだ。
「アビスフリードの居場所のヒントについてですが……これは明日、ゲーム開始直前に予告するものとします。ですので、この場での質問は控えていただきますわ」
スフィアは読んでいた紙を畳んだ。それは説明の終了を合図する。
「部屋におかれているものは最大限に活用してください。そして、くれぐれも、PK行為は控えるように。では、今晩の会食を楽しみましょう」
全員は目の前に置かれた料理に手を伸ばし始めた。料理は中々の味で、流石は王族の食べ物だと、ユミはしみじみに思った。
全員が食べ終わると、普通は皿の上はソースだけが残る。
だが、一人の皿の上は緑色の野菜がポツポツ残されていた。見たところ、それはピーマンだった。
ここは突っ込むのではなく、敢えて微笑ましい笑顔で見守ってあげるのも、それはそれで趣がある……のだろうか。
「悪いな。こんなことをさせて」
「別に。君がそっちに行くって決めた時点で、僕をこき使うことは腹の底では決まっていたんでしょ?じゃあ君に何を言っても無駄だよね」
スマホで通話する零弥と流雅。
入浴中のユミを差し置いて、先に風呂に入った零弥は耳にスマホを当てて部屋を歩き回る。
「第八位が成田に行ったってのはホントだったんだね。監視カメラにバッチリ映ってたよ。他の協力者までは分からなかったけどね」
「……そうか。今はそれだけで十分だ」
「それはどうも。まぁ、こっちも世界中のネットワークを駆け巡ってきた身分だからね。これぐらいはできて当然さ」
そう言いつつ、流雅の声は弾まない。
表情もあまり良いものでは無いことは電話越しでもわかるものだ。
「それで、そっちの様子は?」
「もうそろそろ寝るところだ。まぁ、一、二時間昼寝をしたからあまり寝ようとも思わないけどな」
「流石はショートスリーパー。それを自覚しておきながら昼寝をするなんて、やっぱり君は面白い人だ」
零弥は普段、あまり寝ないのだ。ぐっすり寝るときは仕事を切り詰めた時。それ以外は一日に最大三時間程度しか睡眠を取らない。
これは何らかの病気ではない。紅緒との生活で、彼女の過酷な生活に慣れてしまったことが最大の一因である。ユミの警備の手伝いをするのにも役立ってはいるので、それはそれで利点である。一方、ユミは著しく朝に弱い夜型人間となってしまったが。
「……それはいいとして、僕はそっちを聞きたかったんじゃない。『他のプレイヤーの様子』はどうだったの?」
フェイルノートは誰がプレイヤーとして、潜入しているか、それはまだ見当がついていないことだった。組織は世界中に支所を置いている。簡単には見つからず、リカバリーも速い。
「申し訳ないが、まだ作戦を練っているところだ。全員の対面は行われたが、怪しい動きは見られなかった。正直、難航しそうだな」
「わかった。まぁ、こっちからサポート出来ることはあまり無いし、そっちはそっちで頑張れとしか言いようがないけど。それでもまぁ、負けないように気を付けてね。じゃ、お休み」
ピッ……
通話は切れてしまった。
「負けないように……か」
零弥はため息をつく。
「アイツもなんだかんだ、人の心を読むのが上手いんだよな。一生敵わねぇな」
成川流雅。
学業では零弥より一歩出遅れているが、リアルでの駆け引きは零弥より上だ。あの飄々とした態度はそれへの自信の現れなのだろう。
「さて……寝るか」
零弥はベッドへと足を向けようとしたが……
「零弥ー」
ちょうど風呂上がりのユミが首にタオルをかけてやって来た。上質なシャンプーのせいか、ほのかにいい香りがする。
「あっ……」
そして、髪を完全には乾かせていないので、珍しく解かれている。あまり見たことの無い髪型に、零弥は少し見つめてしまった。
「わからないことが多数あるんだけど全部教えてくれない?」
──どうやら、夜型人間はまだ寝させてくれないようだ。
「できるわけ無いだろう。人類程度なら」
しかし、それはユミにとって、思っているようなものではなく、いささか、気分を害するようなものだった。
「零弥……」
「こんなもんだ。全く問題ない」
零弥はあくまで落ち着いている。
それはいいとして、零弥は一つ気になることがあった。種族が一つ足りないこと。なぜそうなのか、スフィアに聞いてみることにした。
その前に、吸血鬼の男が同じことを聞いてきた。
「人類が二人で参戦することは良しとしよう。それ故、あの種族は一体どうなったのかね?」
「気づかれましたか……」
スフィアはあらかじめ心構えが出来ていたかのようにため息をする。
「あの種族の国は、皆さまお知りの通り、一つしか存在せず、種族自体、全くの純血種ですわ。それで、今回特例として、国に連絡させていただいたところ、全くプレイヤーを寄越さないとの返答が帰ってきたようです。父には申し訳ないですが、今回は七つの種族のみで行わさせていただきますわ」
スフィアは格式張った言葉を吐きながら、形式通りのお辞儀をする。
「ケッ、結局は全員集められてねぇじゃねぇか」
ドルガは吐き捨てるように悪態をつく。
「まぁ、当然でしょ。むしろ来なくてラッキーってかんじ」
それより目の前の獲物を食べさせてよ、と、言わんばかりに、呪霊種の少女は呟く。
「ホントに来てたら何されるかわかりませんしねぇ……僕も来なくてよかったと思います」
魔術師の青年も続く。
「ご理解頂き、感謝しますわ。では、簡単なルール説明を行います」
そう言ってスフィアは、用意していた紙を取り出し、順を追って読み上げていく。
「貴石競争は父の遺言に基づいて、この宮殿の敷地内に隠されている『アビスフリード』を探す事が目的です。
大まかなルールとして、
①宮殿の敷地から出ない
②宮殿内に戻らない
③プレイヤー以外に攻撃はしない
④他のプレイヤーを死亡させない
これだけですわ。
①,②については総動員で結界を張らせていただきますので、滅多に違反することもありませんし、基本的に障害物も防御魔術を発動させますので、基本的には壊れません。
特に、③,④を違反したプレイヤーはこちらから集中攻撃をさせていただくことがありますので、お覚悟を」
「結構エグいことするのね……」
「そして、ゲームは明日、明後日の午後、日が沈むまでに行われます。どちらかの日の終了時点でアビスフリードが獲得され、わたしが確認すればその時点で終了。二日で決着がつかなければ勝者なしで終了ですわ。また、アビスフリードは魔力に反応して緑色に強く輝きます。触れた時点で反応致しますので、ご注意願います」
なるほど。アビスフリードか否かは触れてみればわかるのだと。ずっと所持すれば光続けるがゆえに誰が持っているかもわかる。なかなか駆け引き要素が絡んでくるゲームだ。
「アビスフリードの居場所のヒントについてですが……これは明日、ゲーム開始直前に予告するものとします。ですので、この場での質問は控えていただきますわ」
スフィアは読んでいた紙を畳んだ。それは説明の終了を合図する。
「部屋におかれているものは最大限に活用してください。そして、くれぐれも、PK行為は控えるように。では、今晩の会食を楽しみましょう」
全員は目の前に置かれた料理に手を伸ばし始めた。料理は中々の味で、流石は王族の食べ物だと、ユミはしみじみに思った。
全員が食べ終わると、普通は皿の上はソースだけが残る。
だが、一人の皿の上は緑色の野菜がポツポツ残されていた。見たところ、それはピーマンだった。
ここは突っ込むのではなく、敢えて微笑ましい笑顔で見守ってあげるのも、それはそれで趣がある……のだろうか。
「悪いな。こんなことをさせて」
「別に。君がそっちに行くって決めた時点で、僕をこき使うことは腹の底では決まっていたんでしょ?じゃあ君に何を言っても無駄だよね」
スマホで通話する零弥と流雅。
入浴中のユミを差し置いて、先に風呂に入った零弥は耳にスマホを当てて部屋を歩き回る。
「第八位が成田に行ったってのはホントだったんだね。監視カメラにバッチリ映ってたよ。他の協力者までは分からなかったけどね」
「……そうか。今はそれだけで十分だ」
「それはどうも。まぁ、こっちも世界中のネットワークを駆け巡ってきた身分だからね。これぐらいはできて当然さ」
そう言いつつ、流雅の声は弾まない。
表情もあまり良いものでは無いことは電話越しでもわかるものだ。
「それで、そっちの様子は?」
「もうそろそろ寝るところだ。まぁ、一、二時間昼寝をしたからあまり寝ようとも思わないけどな」
「流石はショートスリーパー。それを自覚しておきながら昼寝をするなんて、やっぱり君は面白い人だ」
零弥は普段、あまり寝ないのだ。ぐっすり寝るときは仕事を切り詰めた時。それ以外は一日に最大三時間程度しか睡眠を取らない。
これは何らかの病気ではない。紅緒との生活で、彼女の過酷な生活に慣れてしまったことが最大の一因である。ユミの警備の手伝いをするのにも役立ってはいるので、それはそれで利点である。一方、ユミは著しく朝に弱い夜型人間となってしまったが。
「……それはいいとして、僕はそっちを聞きたかったんじゃない。『他のプレイヤーの様子』はどうだったの?」
フェイルノートは誰がプレイヤーとして、潜入しているか、それはまだ見当がついていないことだった。組織は世界中に支所を置いている。簡単には見つからず、リカバリーも速い。
「申し訳ないが、まだ作戦を練っているところだ。全員の対面は行われたが、怪しい動きは見られなかった。正直、難航しそうだな」
「わかった。まぁ、こっちからサポート出来ることはあまり無いし、そっちはそっちで頑張れとしか言いようがないけど。それでもまぁ、負けないように気を付けてね。じゃ、お休み」
ピッ……
通話は切れてしまった。
「負けないように……か」
零弥はため息をつく。
「アイツもなんだかんだ、人の心を読むのが上手いんだよな。一生敵わねぇな」
成川流雅。
学業では零弥より一歩出遅れているが、リアルでの駆け引きは零弥より上だ。あの飄々とした態度はそれへの自信の現れなのだろう。
「さて……寝るか」
零弥はベッドへと足を向けようとしたが……
「零弥ー」
ちょうど風呂上がりのユミが首にタオルをかけてやって来た。上質なシャンプーのせいか、ほのかにいい香りがする。
「あっ……」
そして、髪を完全には乾かせていないので、珍しく解かれている。あまり見たことの無い髪型に、零弥は少し見つめてしまった。
「わからないことが多数あるんだけど全部教えてくれない?」
──どうやら、夜型人間はまだ寝させてくれないようだ。
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