虚構幻葬の魔術師

crown

文字の大きさ
102 / 109
アビスフリード争奪戦

幻影 ~phantom~ ⑦

しおりを挟む
「……妖霊獣ドワーフが不覚を取った……」
 監督室から眺める二人は、魔術によるモニターから、零弥達の戦闘をちょうど眺めていた。
 序列ランキング五位、クーゲルは零弥の意外な勝利に感嘆した。零弥の能力アビリティの正体は判らずとも、その攻撃が届いていないことは読み取れる。そこからの逆転を予想できていなかったのだ。
「……えぇ。そうですわね……」
 反して、スフィアの反応は薄い。
(レイヤ……あなたは一体、なんですの?)
 暁介との戦闘、昨日の邂逅……そして、日本での出会い。
 様々な出来事が、零弥に対する疑問を湧かせる。
 スフィアはわからなかった。零弥の、その様が魅力的で、言葉は鋭く、思考は目を見張った、だが、それが彼に対する、へと変わっていくのは。
(あなたは……私をどう見ているのでしょうか。
 一国の王女?
 単なる少女?
 それとも……魔術師ウィザードとして?)
 彼は言った。
「自分の運命と向き合え」と。
 スフィアはまた、思い出していた。

 昨日の夜の、零弥に対する質問を。




「……そうですわ、なら……」
 零弥は、質問攻めにした対価を支払おうとしているのか。それとも、こちらの質問から何か引き出そうとしているのか。
 どっちにしろ、選択肢は決まっている。
「わたくしも、あなたに聞きたいことがあります。それは……」

「あなたの……本当の正体は、一体何なのでしょうか」

「……どういう意味だ」
 零弥は表情を変えない。言葉に反して、蔑むような顔は見せなかった。ただ、スフィアの返答を待つ。
「あなたは不思議な人。わたくしの奥底をいとも容易く見抜いてしまう」
 スフィアは不意に目線を下げる。表情も暗い。
「レイヤの言うとおり、わたくしは王位を継承したくないし、望まない。だけど、周りはいつも『わたくししかいない』と迫り続ける。お兄様は国家戦力として統率しなければいけませんから……まぁ、当然なんですけども」
「……」
 零弥は返答を待つ。
「あなたは違った。わたくしに選択肢を与える余地をくれた」
「……そんな権限は無いけどな」
 零弥は視線を合わせない。そこに意味はない。
「それだけじゃない。あなたは他のプレイヤーとは違う。しなくてもいい戦いに挑んで、推理して、魔術に立ち向かって。人類であるあなたに意味は無かった。それでもあなたは戦い続ける」
 スフィアはまたペンダントを握りしめる。緑の輝きが完全に遮られる。またうつむいた。
「だけど、意味があるからあなたは戦う。
 保健室でも耳にした、その言葉。
 やはり、聞き間違いではなかったのだ。
「誰から聞いた、その言葉は」
「……とある日本人からです。もう四、五年も前ですから、はっきりとは覚えていないんですが」
「……そうか」
「……?」
 零弥の応答に、スフィアが意味を理解できるはずはなかった。
 反対に、零弥は納得した。
 この少女は会っている。いや向こうが接触してきたのだ。
 京 紅緒。
 零弥の師にして最大の理解者。
 時を越えて、今繋がったのだと。
「あなたは普通の人類とは違う。それは、アビスフリードが示している」

「レイヤ、あなた何か、あなた自身の奥底に隠しているものがいる。本当の正体が」

「愚問だな。俺は能力持ちアビリスト。それ以上でも、それ以下でもないさ。ただ、その宝石に惹かれただけだ」
「あなたはもうわかっているのでしょう?アビスフリードのありかも、一連の事件の真相も……お父様の、意思も。だから、教えて欲しい」

「あなたは、いったい、何者ですの?」

 スフィアからの強い質問。
 その目は、真っ直ぐこちらの目を見つめていた。澱み無く、澄んだ瞳。逃げられない、そう思った。
「俺は……分からないんだ」
 零弥もうつむいた。
 自分が何者なのか。
 答えられるはずがない。
 そのわけは、自分が一番分かっている。
「俺は、自分の正体が分からない。遠いんだよ。近くにいるはずなのに、分からない。だから、俺は追いかけている」
 零弥は唇を噛み締めた。自分が分からないことの辛さは、誰にも分からない。それはスフィアだって同じだ。
「……申し訳ありません。つかぬことをお聞きしました。あなたも苦しんでおられたのですね」
「気にするな。俺もお前の苦しみを掻き出すようなことをしたからな」
「とんでもありませんわ。ですが、換わりにもう一つ聞かせていただきます」

「あなたも、犯行グループを追っている。違いますか?」

 スフィアからの突然の質問。
「別に、俺には関係ないだろ」
「いいえ、関係ないならば、わたくしに『深追いするな』なんて言えませんわ。あなたは何かつかんでいるんでしょう?」
「……あったとしても、俺は教えないだろうな。むしろ、国家での調査を行っているお前のほうが情報を握っているだろう?ただの一般人に聞いても意味はない」
 零弥はそっぽ向いた。あの瞬間、スフィアを誘導したのはやはり失敗だった。だが後悔はしない。
「……そうですか……やはり、答えないのですね」
「そう受け取っていただいて構わない」
  零弥は目線を合わそうとはしなかった。これ以上詮索されることがないよう、できるだけ話題を逸らしたかった。
「私からは以上です。ありがとう、レイヤ」
「礼はいい。とにかく見ていろ。アビスフリードの正体を知りたいのならな」
「期待していますわ」
 零弥は立ち去る。その空間を。
 スフィアの追求は案外鋭いものだった。いったいどうしたら正体を聞こうと思うのか。

 反対に、スフィアはまともに信じられなかった。
「レイヤ……やはりあなたは、大きな何かを隠している。わたくしが知る由の無い何かを」
 不信感は募り続ける。
 最終日となった今でも。
 だが、待ち続ける外無いのだ。
 監督席は、静かに時が流れ続ける。
 貴石競争は最終局面を迎える……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

精霊姫の追放

あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。 「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...