虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

幻影 ~phantom~ ⑧

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 零弥は歩く。息苦しい胸を押さえて、ひたすら前に進み続ける。空中を翔る体力は残されていない。自分の足で歩くしかないのだ。
「……あっ」
 ふとしたとき、零弥はその青年の姿を見つける。
「あぁ、オープニングの人だ」
 魔術師ウィザード陣営、ジェフ・ケルトス。彼は何もなかったかのように突っ立っていた。
「あれだけ大口叩いてただけに、中々いい勝負はしてたんじゃ?」
「どうした。もうゲームは終わるぞ」
  話しかけられたからには適当に返すのがいいと思った。零弥はそう判断する。
「えぇ、だけど、アビスフリードは見つからなかった。王女様の言ってる意味もわからなかったし、どこに行っても何もないし、面倒臭いゲームだったなぁ」
 青年の返答は些か気力の無いものだ。どこを見ているのかも分からないその姿は、どこかつかみどころの無い雰囲気を醸し出していた。
「……」
 零弥は無視する。気にもせず歩いていく。
「まぁ、いいけどね。どうせ誰も見つからなかったんだし」
 諦めた様子を見せたジェフ。対して、零弥は応答しない。
(速く……行かないと。ユミが……)
 右腕を押さえる零弥。走ろうとするが上手く力が入らない。
 それでも、とにかく前に進もうとはした。這ってでも行く覚悟をしていた。それがユミを苦しませた贖罪にする……ほど厚かましくはないが、迷いは無かった。
 何とか体力が戻ってきた。能力アビリティも使えるかもしれない。まぁ、この状況で使えば、どうなるかは一目瞭然だが。
「……面倒臭い、人間だ」
 姿が消えていく零弥に、ジェフはその言葉を吐き捨てた。







「あと何分!?」
 日没まで近いのか。いいや、まだ一時間以上かかる。日は傾ききっていない。
「あの人……大丈夫かな。二人がかりに立ち向かうなんて……やっぱりすごい人だ」
 ウィリアムがどんな戦いを繰り広げているのか、ユミには想像できなかった。もしかしたらもう力尽きているのかもしれない。もしそうなら、本当に必死に逃げなければいけない。それが彼に対する礼になるのだから。
「零弥……後はあなただけ。必ず勝って!」
 ユミは前を向いて走る。森に逃げ込んだのは正解だろう。敵から察知されづらく、庭園に比べれば休憩も出来るかもしれない。
 だが、それは攻め手も同じ。相手に察知されること無く近づける。 

「他人の心配より、自分の心配をしたらどうだ!」
 
 大木が

 正確には、丸太。それでもかなり大きい。音を切るような速度でこちらに向かってきた。
「!?」
 ユミは咄嗟に判断した。桐鋼を抜いたのだ。居合い、とまではいかないが、一閃の太刀筋が丸太を一刀両断する。
 現れたのは最後、ドルガだ。
「散々荒らしやがったな!仕舞いだぜ!」
「しつこいなぁ!」
 桐鋼を構え直したのはいいが、どうやら、ドルガは何も持っていない。武器も石も設置物体オブジェクトも、何一つ手にしていなかった。
「俺は最高にイライラしている!テメェらがごちゃごちゃ動き回るから、俺には何も手に入れられなかっただろうが!」
「知らないってぇ……」
 呆れと疲れが混じった台詞。ずっと逃げ回り続けた彼女にとって、ドルガの話し相手をしている暇はなかった。
「二人で何をしていやがった……その抜け穴さえなければ俺は!」
「いや……むしろ私を背負ってる零弥の方が不利だった気がするんだけど」
 体当たりしてきたドルガにどんな反応をすれば良いのか。とりあえずまぁ、相手をしよう。
 零弥との戦いを思い出せ。
 直線的攻撃に怯む必要はなかったはず。落ち着いて攻撃のラインを見極めるのみ。
(大丈夫。肉弾戦なら何とかなる。峰打ちなら死には至らない。殺さない自身は十分ある!)
 ユミの構え。女性とは思えない大胆な低さ。脚を開け、腰を沈ませた体勢は、ただ突っ立っただけとは比べ物になら無いパワーを生み出す。
「ウゥゥゥゥウラァァッ!」
 魔術で強化した身体が襲いかかる。ドルガの得意技だ。
 対して、ユミは待つ。
 そして、その瞬間がやって来た。

桐硯とうのすずり巌黎刃がんれいは サク!」

 ユミの剣技が発動する。低い姿勢から放たれるのは、決して一撃ではなかった。地面に近いことを生かした姿勢は、次の素早い打撃を可能とする。力強い土属性に似合わない連撃が、ドルガを迎え撃つ。
「!?何だ……と!」
 ユミの桐鋼が見事に捉えた。峰打ちの選択は間違っていなかった。朔、つまり逆の刃はこのルールに噛み合う。
 しかし、今起こっているのは、それだけではなかった。
「クソッ、どういうことだ!」
 攻撃を受けたドルガが吐き捨てる。怒り、というよりは疑問。今の状況が飲み込めていない。
「……今のって、何処かで……」
 その感覚はユミにも伝わっていた。
 突進するドルガを迎え撃った。それだけなのに。
 久しぶりの、この感覚。
獣人ビーストも不思議そうにしている……何だろう、これ」
 構わず、ドルガの攻撃。
 ひっきりなしに移動を繰り返すが、それに目を追う必要はない。今ので攻略法は十分わかったはずだ。
 だが、それは相手の攻撃が突進だけの話だ。
「……クッ!」
 岩石が飛んでくる。
 化け物じみた体力が、移動と攻撃を同時に処理させる。飛び道具が飛んでくるならば流石に対応せざるを得ない。
「それでも!」
 ユミも必死に追い付く。
「ウラァッ!」
 ただ投げていた岩石に、魔術を乗せる。
「……まずい!」
 エネルギーが違う。まともに受ければ桐鋼でも折れてしまうかもしれない。
 それでも、反応は出来た。
 だから、受け止めるしかなかった。
 
 ガキィン!

 金属音。
 だが、岩石が地上に落ちたのみだった。
「クソ……やはり何かがおかしい」
「まただ……この感覚。」
 一瞬の間。それは両者が現実を確かめる瞬間。その瞬間が隙間を生む。
 戦闘に於いて意味はあるのか。分からなくとも、二人には考えないという選択がなかった。
「……ユ……ミ」
 だが、その隙間に入り込んだ者が一人。
「零弥!」
 戦闘を終えてここまで歩いてきた零弥が、ちょうど右側から追い付いた。
「大丈夫!?その怪我は?」
「……危ない」
「えっ?」
 ユミを追いかけていたのはまだいた。いや、ずっとそうだった。
「もーらいっと!」
 吸血鬼ヴァンパイア、クレイア。右手から伸ばす鮮血の鎖が、数本。独立起動の魔術が、いま、咆哮をあげる。目標は当然ユミ。ドルガたちから離せば、今度こそ目的の品を奪い取ることができる。
「チェックメイトだよ!お姉ちゃん!」
 クレイアが無邪気に笑う。
 対して、ユミは固まってしまった。
 だが、無意識下で動くものがあった。
「あーもう、どうにでもなれぇぇぇぇぇっ!」

 手にしていた桐鋼を、鎖に向かって斬りつける!

 一閃。それが最期だった。
 クレイアの魔術が暴れるのが。
「なっ……」
 流石のクレイアも状況が飲み込めていない。
 それは零弥も、ユミも。
「えっ……えっ」
「やはりそうなのかよ!」

「魔術を……斬れるのか?」

 それこそが、結論改竄リザルトキラーの真骨頂だった。

    
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