虚構幻葬の魔術師

crown

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アビスフリード争奪戦

幻影 ~phantom~⑨

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「魔術を……斬れるのか」
 目の前で起きたことは、確かに事実だ。
 桐鋼の活躍を目にしてきた零弥は特に、驚きを隠すことが出来なかった。そして、続々と集まってくるプレイヤー達も、その光景に息を詰まらせた。
 全員が沈黙した。

 たった一人を除いて。

「ふふっ……ふっはっはっっは……あーーーっはっはっはっは!」

 状況が一気に好転した者にとって、笑いは抑えられないだろう。
「さぁさぁさあ!もっと来なさいよゴラァ!」
 桐鋼を乱舞する魔獣ユミ。怖いものが無くなったとはまさにこの事なのだろう。人間誰しも、不安から解放されたらこうなる……はずだ。
「クソッ……魔術が解消されるからって……」
 クレイア、そして追い付いてきたリンジーが多段攻撃を仕掛ける。鎖、鞭、そしてクモの巣。もう生死を無視しているとしか思えないほどの魔術が繰り出された。
「アッッッッッハハハハハハ!」
 高笑いが止まらない。剣技も止まらない。プレイヤーを仕留めずとも、ノンストレスで魔術を打ち消し続ける。そんな快感に酔っていた。
「……大丈夫なのか?アイツ」
 零弥も呆然、いや、呆れていた。
 だが、ここまで生き生き(?)したユミを見るのは久しぶりだ。何となく感慨深い。
 いや、そんなことを考えている場合ではないのだが。
能力アビリティだけではなく魔術まで無効化できた……これは大きな事実だ。反応さえ出来れば、まともに戦っても敗けはしない。
 それどころか……序列ランキング入りにも相手は出来るのでは?」
 零弥の考察を他所に、ユミはまだ暴れている。時間稼ぎの代わりとなったのか、続々と他のプレイヤーが集まってきている。
 そこで、零弥はやることがある。
「おい!大丈夫か?」
「えーっ?」
 ニヤニヤ。ヘラヘラ。
 ──あぁ、ダメだこりゃ。
「大丈夫じゃねぇな。まぁいい。それより、宝石を寄越せ!」
「……あっ、そうだった。ほい!」
  取り出した蒼い宝石を、零弥に投げる。他のプレイヤーは反応はしたが、零弥の能力アビリティがすぐに引き寄せた。
「ここまでよくやってくれた。後は任せろ」
 零弥が、左手を握りしめた。
「テッッッメェェェ!」
「逃がすか!」
 ユミから、零弥へと対象を向ける。
 そして、零弥は対象を全プレイヤーへと向ける。
 時が止まる。
 注目が集まる。
 魔力が集まり、術を形取る。
 ただ一人を除いて。

 その男は、持っていた宝石を頬り投げた。
 それは卓球、いやバレーボールのように。
 高く、高く放り投げた。
 そして、空いた左手をかざした。

 力を加えた宝石は……粒子となって崩れ去った。

「へっ?」
「えっ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっ!?」



 その様子は、当然監督室にも届く。
「レイ……ヤ?」
「……壊したのか?アビスフリードを」
 兄弟は唖然として動けなかった。ここまで有利に進めてきたであろう男の想定外過ぎる行動。アビスフリードを争い合うはずだったこの勝負。まさかの形での幕切れとなった。
「どういう事ですの?レイヤ!よりにもよって破壊してしまうなんて!」
 意味不明の行動に、疑問を通り越して怒りすら沸いてきた。こんな幕切れは望んでいない。昨晩叱責してきた男に、さらに不信感を強める行動だった。
「いったい、何を考えているんですの……」
 肩を震わせるスフィア。欺かれた事実を受け入れられるはずもなく、ただただ悔しさをにじませるのみだった。
「……だが、あれが偽物かもしれないだろ?ゲームは終わっていないはずだ」
「……いいえ。違いますわ、お兄様」
 絞り出した声は、些か弱々しい。
「えっ?」
「あれは紛れもなく本物のアビスフリードですわ。墓地で発見されたものなのですから」
「そんな……お前は知らなかったのだろう?アビスフリードのありかを」
 クーゲルがあわてて聞き返す。
「実は……あらかじめ聞いていたのです。生前のお父様から。開始前に公開したヒントとともに」
「……っ!そうだったのか……」
 衝撃の事実に、クーゲルは意表を突かれた。
 わずか十一才の少女に、ここまでの用意をさせるか。
 我が父ながら、本当に恐ろしい。
 確かに、死期を感じていたのだろう。
 それだけに、力不足で悔しい。
「……どうする?もうゲームを終わらせるか?」
「……いいえ。最後まで戦ってもらいます」

「これこそ、お父様も望んでいることでしょうから」



「アビスフリードが……」
「破壊された……?」
 散り散りになった宝石に、もはや形はない。
 つまり、持っていた力も無くなった。ゲームは終わった。ここにいるプレイヤーがそう思った。
 当然、このゲームエンドに納得しないプレイヤーだっている。
「ふざけるな!テメェ、自分が何をしたかわかっているのか!?」
 吠える、ドルガ・デイトス。
 零弥はその様子を尻目に、ドルガを一瞥する。
「テメェはアビスフリードを手に入れるつもりでここまで仕掛けてきたんじゃねぇのか!?オープニングの時も、あれだけの大口を叩いておいてそれか!ふざけるのも大概にしろ!」
 ドルガの咆哮が響く。
 唖然としたプレイヤー同士、誰も口を開かなかった。起き上がって、ここまで来た暁介すら、目を大きく見開いたままだった。
 だが、お構いなしに言い返す男が一人。
「俺はアビスフリードを手に入れると言った覚えは無い。『誰にもアビスフリードを渡さない』と言った」
「……アァァッ?」
 頓知を聞かせたかのように聞こえる言動。普通ならば、余計に起こらせても仕方ない言葉だ。
 だが、零弥の次がその気を失わせた。
「魔術に関する力を持つ……そんなものが、個人に渡ってもいいと思っているのか?得たいも知れず、取り返しのつかない力を持ちかねない代物が、生命体一人に渡ったところで、いい結果が起こらないことぐらいはわかるだろ?だから破壊した。破壊したところで、こちらに不利益は回ってこないからな」
 それは、過去に人々を屠り尽くした、魔術への蔑み。そして、力を持つことに目がない魔族への牽制だった。
「いつもそうだ。力を手に入れたところで、それを行使しない者などいない。例え人が死のうと、町が焼き尽くされようと……大切なものを失おうと。力はどうしても止まってくれない。だから、人々は過ちを犯した。違うか?」
 当然、それが理解できない者も居るだろう。
 ただ少なくとも、この場に居る者にはその言葉が痛いほど刺さった。
 二日間戦ってきた事が全て台無しにされた憤りもあるのだろうが、それ以上に、台無しにされたことでの自分への虚無感が大きかった。
 この場は沈黙とともに、やがて散っていった。
 その間、誰も口を開かなかった。

「面倒くさい……結末だなぁ……」

 たった一人を除いて。


 日没。ゲームは本当に終わった。
 
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