虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

幻影 ~phantom~ ⑩前編

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 貴石競争が終わった。
 誰かが手に入れた訳でもなく、誰も探し出すことが出来なかった訳でもない。
 ましてや、引き分けという言葉も相応しくない。
 強制終了。それこそが最も適切な言葉。
 たった一人の一方的な行動に、全てが崩されたのだ。取り返しのつかない行動に。
(零弥は何故あんな行動を取ったのか)
 誰もいない、一人っきりの部屋は、自ずと推理の道へと惹いていく。
 譲ってくれたベッド。かすかな柔軟剤の匂い。
(答えは彼が最後に突きつけた言葉。『アビスフリードを誰にも渡さない』。常識はずれな行動とは言え、宣言通りとは言える。だけど、やっぱりおかしい)
 静かな夜。他のプレイヤーは皆帰ってしまった。戦う意味も無いままもう一泊するのには、実は正当な理由があったりするのだが、それはまた別の話。
(なぜなら、からだ)
 ユミの知っている彼と、若干違っていた。今まで見たことの無い彼がそこにいたという感触が、推理を導く。
(『目的』のためには手段を厭わない。他人を思いやるような素振りを見せない彼が、あんな回答をするだろうか)
(魔族大戦を引き合いに、魔力への力を手に入れることを非難した。それは何故?恒久的平和の実現?ペルティエの一件のように、邪魔者を増やさないため?)
(──いや、説明がつかない。ただ一瞬の理論武装と、普段の日常に嘘を付くのでは、一体どちらが難しいか。他人に興味がない彼に、他の人を救うような平和を彼は積極的に望むだろうか?それ以上に、彼には欲しい記憶モノがある。そして、アビスフリードのやり取りだけで、本当自分への障害となりうるのだろうか?もしそうなるのだったら、彼は多くの事に手を出していることになる。
──そんな事が出来るのだろうか。彼の能力アビリティを濫用したところで、世界中のあらゆる敵に対して喧嘩を吹っ掛けれるような組織でなければ動けない。したがって、この二つの仮定は否定される)
 月光が差し掛かる。だが、雲に隠れていてその姿は見えない。
(ここから考えを広げるとしたら……三つ目)
 最後の考え。これが最もしっくり来る。

(零弥に──別の『目的』があるとしたら?)

 振り返った先に、彼の姿は無い。
(……!?零弥がいない!いつの間に……)
 寝静まったはずの彼は、音も立てずに消えていた。ただ部屋を出ただけならそれで良いのだが。
(……零弥……あなたはあまり悩みや相談を持ちかけなかった。今回もそうなのだろう。だけど、ちゃんと帰ってきて欲しい。あなたが私に、命を懸けるなと説いたように、私もあなたが無事だと信じているから)
 雲が晴れて、月光が差し込む。今日は満月のようだ。




 一方、本部はそれぞれ、忙しさを極めていた。
 一つは明日のビッグイベントの準備。
 もう一つは……襲撃事件の作戦会議だ。
「フェイルノートの居場所だ」
 紙の地図。ベルフォードを中心としたリーピタン王国全体を模している。国自体そこまで大きくはないが、それでも大きく見えるものだ。
「ありがとうございます。お兄様」
 スフィアの手に渡ると、彼女はそれをテーブルに広げた。いつもの地図。だが一点に大きな×印。
 首都ベルフォードからは少し離れた場所、プロムにマークされていた。
「場所はプロムの郊外。所々建物が建っているが、管理の届いていないビルが数ヶ所。そこに潜伏しているらしい」
 クーゲルが淡々と説明する。
「……情報源は?」
「あの夜、俺は多数の襲撃犯を返り討ちにした。ほとんどが再起不能になったが、その中でも生き残った奴に尋問をかけた」
「よくしゃべってくれましたわね」
 スフィアがうつむいたまま問いかける。
「中々吐かなかった。死ぬ気で突っ込んできたからな。だから司法取引を使わせてもらった。情報は手に入れられたが、刑は軽くなるだろう。解決に向かったとは言え、不完全燃焼な形になって申し訳なかった」
 トーンが落ちる。忸怩たる思いはクーゲルも同じだ。彼自身も、最愛の家族を殺されているのだから。
「いいえ……よくやってくれましたわ。これで遂に……決着をつけられますの……!」
 落ち着いたトーンで応答する。しかし、拳が強く握られていた。
「……まずは、明日の戴冠式に向けて準備をしてくれ。ケリをつけるのはそれからだ」
「わかって……いますわ」
 一滴、涙が落ちる。
 結局、作戦について、いくつか意見は交わされたが、最終決定には至らなかった。
 明かりは消える。代わりに、月光が差し込んだ。
 



 日が変わる頃。男達は立っていた。大きな建物は残っているが、人が減り、ここらは無法地帯に近い。
 プロムの中でも特に治安が悪く、警察の目が薄いここは、潜伏としてはうってつけの地域だった。
「そろそろ、政府が動くらしいぞ」
「本当か?」
 門番として見張る彼らも、悪に手を染めた一人である。
「情報を捕まれたって噂がたってるぞ。何人か脱出の準備しているって聞いたぜ」
「マジかよ。だがボスは何も命令しないぞ。それ嘘なんじゃねぇか?」
「だといいんだけどな」
 若干のだるさを感じつつも、門番の仕事はやり続ける。それがルールだからだ。
 夜は長い。
 治安の事情もあってか人はやってこない。門番も中に入っているので、実質、外に人は誰一人としていない状況だ。
 秩序と力の均衡が保たれる。
「……?誰だ。こんな時間に」

 その均衡を破る男が、一人。

 ドアを蹴り開けて堂々と歩いてきた。
「おい、止まれ!」
 右手を構えて立ちふさがる男達。魔力を錬成する準備は出来ている。
「こんな時間に何の用だ。これ以上進めば、こちらも遠慮はしない」
 警告。だが帰しはしない。
 警告に従わなければ魔術で殺す。従って背を向ければその隙を突く。方針は既に決まっている。
 それがフェイルノートのやり方。情報を持ったものは問答無用で潰していく。
「……」
 だが、侵入者は沈黙を保ったまま立ち止まった。
「クソッ……どうする?」
「どうするもこうするも……殺るしかないだろ」
「そうだなぁ……!」
 魔術が放たれた。魔力の弾丸が数発、侵入者へと飛んでいく。
「……」

 キィン……

 男は見事に払いのけた。自分に当たる玉だけを正確に。
 その剣は、光子フォトンで形作られていた。
 
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