虚構幻葬の魔術師

crown

文字の大きさ
106 / 109
アビスフリード争奪戦

幻影 ~phantom~ ⑩中編

しおりを挟む
 この時、日本時間にして午後6時。成川流雅はディスプレイを目の前にしていた。
 画面にはプログラムの羅列、乗っ取った監視カメラの映像、そして、とあるアドレスが表示されている。
「……予定通り。彼もそろそろ動き出す頃」
 映像は空港の搭乗口を映し出す。沢山の人々が往来する玄関口。その中に、が通りすぎていくのがハッキリと映っていた。
「これか……彼が言っていたのは。極秘指名手配犯、アネイザ・ビューネイ。まさかメイドの中に紛れ混んでいたとは……大胆にも程がある」
 かつてリーピタン王国の宮殿でメイドとして立ち振舞い、零弥達を案内した彼女は、髪型もメイクも変えて、日本に侵入していた。
「……後は任せた。手配したなら、責任を持って処理してほしいね」
 そう言って流雅は、動画をアドレスへとドラッグした。
 キーボードを叩く音だけが部屋の中を木霊する。





「あぁっ!」
 魔術の応戦も空しく、男は光の刃の餌食になった。
 単身突っ込む零弥だが、傷は一切追わない。『命は賭けない』。ユミに向かって放った言葉を軽々しく破りはしない。それだけの自信があるのだ。
 構成員も多量の魔術を放つ。オーソドックスな魔力弾の攻撃だけではなく、結界を張ったり、回復ヒーリングを適宜発動したりと、それなりに工夫した戦いを繰り広げた。
 だが、当たらなければ効きはしない。
 魔力の流れ、魔術の発動、魔力弾の軌道。全てが見える。それぞれが糸を引くように動き、魔術を形作る。その様子がハッキリと見えるのだ。
 零弥の右目が紅く染まる。
 光子剣フォトンブレードが次々と構成員を捉えていく。闇の中では暴れまわる生き物のようだ。
「総員、放て!」
 階段を登ると、そこには構成員が待ち構えていた。あちこちに魔方陣が現れるだけでなく、機関銃まで構えていた。魔術だけには頼らず、物理的手段にも手を出していたのだ。
 一斉に放たれる弾丸。

 零弥は一気に駆け出した!
 
 弾丸から逃げる様に、自身を重力のベクトルを変える。壁蹴り、地面を滑るように移動し、俊敏な移動は、構成員の弾丸を捉えさせなかった。
 そうして、空中に舞う零弥は、の重力を変える。
「グアァァッ!」
 一気に押さえつけられれば、すぐに動けなくなってしまう。立ち上がるのも難しい。
 ただ、自身も直接叩きにいくので、この操作は数秒間のみだった。しかし、長い数秒間。構成員全てを崩すのには十分すぎる。
 光子剣が再び暴れだす。今回は容赦はしない。
 向かって来る者は全員殺す。彼らを残してはいけない。そう考えたならば、零弥も覚悟を決めている。
 光る。鮮血が散る。
 次々と斬っていくその様は、敵からしたらどのように映っただろうか。おそらく、単なる敵ではすまなかっただろう。
 そうして、このフロアは残り一人。
「うっ……ウアァァァァ!」
 理性を失い、闇雲に機関銃を放つしかなかった。零弥は避けようとはしない。刃が全て凪ぎ払った。
 刻々と、零弥が近づいていく。
「ヒィィィィッ!」
 近づいていくにつれ、さらに怯える男は、魔力で作り上げたナイフで切りつけようとした。
 それも、全く脅威ではない。光子剣で叩く。武器破壊して斬る。それだけだ。
 最後の男も絶命した。


 その前段階で、とあるやり取りがあったりする。
「……少佐、これは?」
「……何処から届いたんだ?」
 国防軍のデータベース。司令塔が集まるこの空間は、軍の中でも限られたメンバーのみが知っている。
 少佐の黒尾も、一応この作戦の中心メンバーだ。
「明らかに攻撃だろう!悠長に受け取れるものではない!速やかに特定しろ」
 このアンタッチャブルな空間に、とあるメッセージが届いた。一般とは比べ物にならないほど強固なセキュリティを突破して。
「ですが、こう書かれていまして……」
「何……?」
 隊員の言葉に、黒尾も覗き込んだ。
This is the best present you wants君達が求めている最高のプレゼント……」
 隊員がメッセージをスライドさせる。
Failnaught is hereフェイルノートはここにいる……!」
 黒尾は思わず、息を詰まらせた。
「クラッキングの可能性は?」
「……分析したところ、異常はありません。重大なプログラムが含まれている可能性も低いでしょう」
 国防軍ともなると、メッセージに仕組まれたウイルス等はすぐに関知できる。今回も、すでにスキャンはかけている。
「と言っても、差出人がわからないままじゃあなぁ……」
 黒尾が後頭部に手を当てる。判断にも困っているのだ。うーん、と唸っていると、背後から司令の声が聞こえた。
「そのファイルを開いて下さい」
 放ったのは国防軍大佐、加賀沢かがさわ士信しのぶ。この作戦の総司令官でもある。
 国防軍らしい屈強な体つきを持たないが、隊を率いるオーラが溢れている。
 その男が、わざわざ指令部に降りてきたのだ。
「大佐……!」
 黒尾を含む隊員は加賀沢に注目、敬礼した。
「そのファイルにはおそらく重要な情報が眠っているでしょう。我が軍の、このセキュリティを突破してきた。簡単に見過ごす訳には行きません」
「しかし、相当な腕を持ち合わせたからとして、そのメッセージに信憑性を持つことは確定できますか?いくら何でも、一般人の情報に乗っかるのも、些か危険性がございます」
 黒尾も簡単に引き下がれない。
「……ならば、見る外無いでしょう。我々も今は情報が欲しい。もしかしたら、送り主もこの件にも関わっているかもしれませんから」
「……」
 加賀沢は危険性を加味した上で敢えて開くと言う。確かに、情報はいくらあっても足りない。黒尾も実際、このファイルを確かめたいと言う希望はあった。だが、開いたところで、有益な情報は得られるのだろうか?そういった疑問が浮かんだままだった。
「わかりました。開けましょう。しかしセキュリティを突破したことは、最悪、軍への攻撃とも見なされます。送り主の追跡も徹底いたします」
「よろしいでしょう。では」
 黒尾の条件付きの承諾に、加賀沢も認可した。
 黒尾が命じると、隊員が恐る恐るファイルを開く。
 そこには、とある動画が存在した。
 国防軍の極秘指名手配犯、アネイザ・ビューネイの顔写真と、日本行きの登場ゲートの監視カメラに映った、彼女の映像が。
「リーピタン王国の映像?やはりこちらに向かっていたのか……!」
「この航空機の到着時刻は?」
 加賀沢が冷静に質問する。
 対して、数秒を置いて隊員が回答した。
「後数時間で成田に到着します!」
「やはりか……」
 顎を撫でて思案する加賀沢。次のプランは既に立っている。
「総員、命令する」
 その瞬間、流雅のハッキングに混乱する場が一気に静まった。
「ただいまより、現場にこの事を伝え、作戦を開始する。目標の入国後、派遣した隊員を追跡させる。そこで、極秘指名手配犯、アネイザ・ビューネイを確保、または始末せよ」
「はっ!」
 残りの隊員が、一斉に敬礼した。
 そして、直ちに行動に移る。
「少佐」
「はっ」
 その人混みの中、加賀沢が黒尾を呼ぶ。
「手配犯は実力者の可能性があります。確保は難しいでしょう。最悪でも、一般市民に影響を与えてはならない。そこで、『アサナギ』を出動させる。宜しいですね?」
「……!了解」
 黒尾は何も言い返せなかった。こうなることは予測できていたからだ。
 しかし、彼を行かせることには納得行かないままだった。
(すまない。また手を汚させてしまった)
 後悔の念を差し置いて、作戦は実行された。




 
 成田。彼はそこで待っていた。
 第八位、新井和希。上層部の指令通り、待機場所で準備をする。
 彼には一つ、大切な仕事道具があった。
 小太刀、というには刃が細い。極論、アイスピックと言っても過言ではない。鋭利な刃を携えたこの小太刀こそ、彼を第八位たらしめる最大の武器だ。
 和希は、その小太刀を確かめるように握る。感触は良好。今日も戦えそうだ。
 だが、この仕事もあまり乗り気ではない。
「結局、来てしまった……黒尾さん、本当に大丈夫なんだろうか……?」
 和希の出征には反対の立場を取った。表向きはそうでなかろうと、人は態度として現れ、いつかは噂として知れ渡っていく。黒尾の進退にも関わるだろう。
「僕はどうするべきだったのか。黒尾さんの言うとおり、退けばよかったのか。いや、そんなことは出来ない。選べないだろう」
 一度決断したからには、この任務は遂行しなければならない。色々世話になった彼のためだけでなく、自分自身のためにも。
 それでも、しこりは残る。
「……僕はこの力を持って生まれた。その日から、この運命は決まっていたのかもしれない。だけど……」

 ピリリリリ……
 
「!?」
 通信機に受信が入った。
「はい、こちらアサナギ」
 朝凪アサナギ。これが彼に与えられたコードネーム。
「ただいま、目標の位置を確認。至急◯◯ビル屋上に移動せよ。ビルは既に手配済みだ」
「了解」
 命令通り、彼は動き出した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

精霊姫の追放

あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。 「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...