虚構幻葬の魔術師

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アビスフリード争奪戦

幻影 ~phantom~ ⑩後編Ⅰ

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 階段を上がる。ゆっくり、刻々と昇る。月光が差し込む。荒廃した建物の中は、破片と粉塵と……血で溢れていた。
 零弥は敢えて、足音を消さなかった。自分から殺りに行くのではなく、飛びかかってくるのを待つ。例え不意打ちが来たとしても、まともには喰らわない。その餌にするつもりだった。
 だが、誰とも会わなかった。

 知らない内に計画の終わりが見えた。
 知らない内に最深部へと進んでいた。

 知らない内に、ほとんど殺してしまったのだ。
 
 階段を上がる。邪魔はいない。ただ一つ違和感を挙げるならば、そこにがあるということだ。
「──来たな」
 待ち構えていた、と言えば微妙に違う。零弥が足を踏み入れた瞬間、向こうの階段から降りてきた。その男は、零弥と面識がある。
「やはり貴様が一員だった……貴石競争に潜り込んだフェイルノートの実行役……」

「ジェフ・ケルトス!」

 零弥は冷たく叫んだ。
 男は確かに、その顔をしていた。
 魔術師ウィザード陣営、ジェフ・ケルトス。
 彼は、優しい笑顔を見せながら、階段を降りてきた。
「やぁ。君は人類の者かな。ホント、よくここがわかったね?」
「俺は特別探していない。ただ、貴様と言う存在を追いかけただけだ」
 零弥は表情を一切変えたりしない。ただただ、いつもの冷たい顔のまま。
「貴様にはほとんどヒントはなかった。だが、協力者は半人前だった。ヤツはプレーヤーを部屋に案内していた。それだけじゃない。ヤツはそこに盗聴機を仕掛けていた。ご丁寧に、一部を除いて、ほぼ全てのプレーヤーに、だ。傍受機は除いた一部屋。そう、貴様の部屋にな」
 ヤツ……それは赤毛のメイド。アネイザ・ビューネイを指す。
「傍受機がある部屋だけを覚えて置けば良いから、絶対に間違えたりはしない。これが、お前を指し示す情報だ」
 月光が、ジェフを照らす。
 月は動く。
 月光が遮られる。
 彼に、笑顔が消えていた。
「へぇ……そんなことしてたんだ。モーニングに一番最後に来たり、色々仕掛けているだろうと思ったら、君、中々面白いじゃないか」
「……」
 零弥は黙る。
「あの娘をつれてきたりといい、あの妖霊獣ドワーフとの戦いっぷりといい、そして、アビスフリードの破壊。普通じゃないね」
 出所を掴めない。攻撃をする意思があるのだろうか。敵意すら感じ取れないのだ。
「君、色々知ってるでしょ?フェイルノート僕たちのこともね……?」
「……あぁ、知っている。貴様達がどれだけの事をしでかしてきたか、そして俺から大切なものを奪ったのかをな!」
 ぶっきらぼうに、だが怒りをもって返す。その様子が、ジェフには気に入ったようだ。若干の笑みを添えて、彼はこう返してくる。
「うちのメンバー達も見事にやっつけてくれた。ってことは僕も動かざるを得ない……か」
 ジェフが一歩前に出る。そうして、魔方陣が展開された。
「手合わせ願うよ。椎名零弥……!」
「……それが貴様の、最後の思考だ!」








「もしもし、ちょっといいですか?」
 夜の路地裏。繁華街は賑わうが、一度曲がってしまえば人気が無くなる。
 だからこそ、街にのにはうってつけだ。
 なのに、彼らは追いかけてきた。いとも容易く、正体を看過した上で。
 アネイザ・ビューネイ。彼女はリーピタン王国から逃げてきた。
「……」
「本当にちょっとだから、落ち着いてついてきてくれるかな、ね?」
「……っ!」
 魔術が行使された。
 それはこの男達を眩ませるだけだった。
「うわっ!」
 アネイザはその場を走り去る。路地裏は入り組んでいた。だからこそ、逃げるのにはうってつけの場所。
 しかし、出口さえ塞がれてしまえば、袋小路になる。時間はかかるが、確実に捕まえられる。
「目標が逃走いたしました。南西方向!」
 連絡が本部へと渡る。そうして、本部から新しい命令が下された。
 アネイザ・ビューネイの確保。場合によっては始末の命令が下されている。
 アネイザは角を曲がり、その場をやり過ごそうとした。
「いたぞ!」
 しかし、相手は数で勝る。見つかるのは必然だった。
 アネイザもそんなことは解りきっている。
 だから、今度は建物の中に侵入した。錆びきった廃ビル。ギシギシといった音は、些か恐怖心を駆り立てる。
 建物は狭い。
 だがその狭さが勝ちに近づくエッセンスとなる。
 魔力弾。狭い空間では避けられない。
 跳ね返らない程度の密度に下げれば、跳弾で自滅することもない。彼女は把握していないが、生身での確保を目的としている軍にとっても、この場所では動きづらく、攻撃できない。
 暗闇の中に溶け込み、万が一の時は一人一人相手をする事。これが正攻法かつ有効だとアネイザは判断した。
 発砲音が消えた。目論見通り、攻撃が止んだ。それに合わせて階段を登り、ビルの深部へと隠れていく。急いで駆け上がったが、音はしなかった。
 振動魔術、『微共振ミクロバイブル』。僅かなで繊細な振動を生み出す魔術。攻撃には不向きだが、ちょっとした工作には大きなスパイスとなる。
 産み出された振動が、ちょうど足音をかき消したのだ。
 このままでは、捜索は困難を極めるだろう。
 建物の中に、僅かなが通り過ぎた。



「目標は南西のビルに侵入した。目標の位置は現在確認中……」
「……もう把握しています」
 情報伝達もいざ知らず、和希は通信を切った。
 和希は屋上に立ち、命令を待っていた。
「……命令する。アネイザ・ビューネイの動きを停止させろ」
「……了解」
 目を閉じれば、そこにはが見えてくる。見えなくとも、感じる。何処からか吹いてきたのか、何処へ向かうのか、何処で……流れが変わっているのか。
 それは全ての空間に存在する。物理的に完全に封鎖されない限り、流れが途切れることはない。
 それを掴めば、何処にどの物体が位置するか、明らかになるのだ。
「……見えた。まだ捕まえられていないのは恐らく、明かりが無くて進めないんだ」
 位置を特定した。後は殺さない程度に捕まえるだけだ。
 大きく深呼吸をする。肌だけでなく、内側からも。全身で流れを感じ取る。
狩魔維断カマイタチ──」
 和希は持っていた短剣を、空間を斬るように振った。細い細い剣先は、まるで指揮棒タクトのようだった。
 

  流れが変わっていく。

 



「……?」
 アネイザはふと外を見た。繁華街の明かりが、外を照らす。すると、屋上に立つ一人の姿が、影となって現れたのだ。
 ずっと向こうのその向こう。恐らく、向こうからは見えていない。
「なに……?」
 そうして見えたのは、その男が何かを一振りしたことだ。それ以外は何も変わらない。

 その時。目の前のガラスが大破し、自身も部屋の壁に叩きつけられた。

「あぁっ!」

 思わず声が出てしまった。

「いたぞ!」
 ライトを持った男達が一気に流れ込んできた。
 まだ押さえつけられている。一向に動ける気配がしない。
 アネイザは確保された。
「うぅっ……」
 あまりの出来事に、彼女は納得しなかった。だが、なす術はない。
 国防軍の作戦は成功した。



 「……フッ」
 一息。和希は手応えを感じとる。
 第八位としての働きは十分だった。最小限の技の行使で、目標の確保に至った。
 彼はビルの方角を一瞥し、自身が立つ屋上を後にした。
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