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恋の自覚
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眠れない。
ここはテントの中。頭上の陽射しは布で遮られ、脇のメッシュ窓から海風が抜ける。入口は開け放したまま、両足は外のレジャーシートへ投げ出している。暑さのせいじゃない。ここは驚くほど涼しくて快適だ。
小さなテントに大人の男が二人。横になれば、ぎゅうぎゅうだ。蒼真くんは背中を向け、ほどなく規則正しい寝息を立て始める。「どこでも寝られる訓練してる」の意味を、実感した。
僕はというと、下半身にブランケットをかけたまま、天井を見つめている。
……やばい。蒼真くん、背中の筋肉までかっこいい。全然、眠れそうにない。
背中に頬ずりしたい。後ろから抱きしめて、距離をゼロにしたい。……ダメだ、落ち着け。変態か。
すーすーと規則正しい寝息が、耳に心地いい。ふと思う。誠司さんが眠っているところを、僕は一度も見たことがない。僕より遅く寝て、早く起きる人だった。αらしい化け物じみた体力。
僕が目を開けるとすぐ気づいて、抱き込まれる。「抱き枕みたいだね」と言えば、「ちょうどいいサイズだからな」と言いながら口づけを落として——それからは、抱き枕じゃない使われ方。時間ぎりぎりまで絡まり合って、車で会社の近くまで送られる。
普段は歩いて通っていた、あの短い距離でさえ、離れ難くて彼と過ごした。
……寂しい。
波の音と子どもたちの笑い声をBGMに、思考は暗い海の底へ沈んでいく。
ダメだこれじゃ、僕は誠司さんの代替品を探しているだけみたいじゃないか。都合よく、自分に関心のある男を“欲のはけ口”にしているだけなんじゃないか。
そうじゃない、僕は蒼真くんと愛し合いたい。一緒にいたい。踏み込みたい——のに先程は、一線を引かれた。もし僕から告白して、誠司さんみたいに“身体だけの関係”に転んだら……もう立ち直れない気がする。
蒼真くんがそんな不誠実な人だとは思わない。だけど、複数の恋人を侍らせていた誠司さんに気づけなかった鈍い僕だ。人を見る目が、ないのかもしれない。
蒼真くんの静かな吐息に耳を澄ませているうち、彼のラッシュガードを借りっぱなしなのを思い出した。
もう乾いたし、肩に掛けてあげよう。そう思って身を起こし、黒いラッシュガードを脱いだ瞬間、白い布地の下でつんと主張する自分の胸に視線が釘づけになる。
(んんんんん~~~!!)
声にならない悲鳴が、頭の中で炸裂した。さっきからの想像で昂ぶった身体が、布を小さく押し上げている。もしかして、フロートに上がったときも海水の冷たさでこうなっていて……それを蒼真くんは、何も言わずに隠してくれたのか。
——めちゃくちゃ恥ずかしい!! 僕の身体め!!……それにしても、蒼真くん優しい。また、好きが増えた。
(誠司さんなら、ここぞとばかりに虐めてきただろうな)
慌てて黒のラッシュガードのファスナーを首元まできっちり上げる。小さく縮こまりながら、そっと彼の隣に横になった。
蒼真くんの“好き”に想いをはせる。
最初に惹かれたのは——
頼りたくなる落ち着いた声、清潔な香り。
地道な努力が刻まれた身体。
ほのかな色気のある顔立ち。
都会的なセンス、言葉選びとユーモア。
惜しみない賛辞。
僕にない行動力と決断力。
年下に見えない包容力。
さりげない優しさ、素直さ。
ときどき照れて可愛いところ。
仕事への誇り。
礼儀と常識。
そして、何よりフェロモンの力じゃなく“水無瀬琉生”そのものを見てくれる甘い眼差し。
誠司さんは、Ωだからという理由で僕を選び、彼の好きな場所へ連れ出し、彼の好みに着せ替え、彼の望む身体だけを求めた。
蒼真くんは違う。
僕に尋ね、迷えば一緒に選び、そばで支える。肩を並べることを当然のように許してくれる。
そんなことを数えているうち、胸の奥からじんわり幸福が満ちてきた。少しだけ勇気を出して、額をそっと彼の背中に触れさせる。
触れたところから、もっと好きが広がっていく。
官能だけで満たされた過去男の触れ合いとは違う、初めてのぬくもり。
「……幸せ」
吐息みたいな声が零れた。
そのまま意識はふっと遠のいていく。久しぶりに泳いだ疲れも手伝って、心地よい呼吸音と体温に包まれながら、僕は静かに眠りに落ちた。
ここはテントの中。頭上の陽射しは布で遮られ、脇のメッシュ窓から海風が抜ける。入口は開け放したまま、両足は外のレジャーシートへ投げ出している。暑さのせいじゃない。ここは驚くほど涼しくて快適だ。
小さなテントに大人の男が二人。横になれば、ぎゅうぎゅうだ。蒼真くんは背中を向け、ほどなく規則正しい寝息を立て始める。「どこでも寝られる訓練してる」の意味を、実感した。
僕はというと、下半身にブランケットをかけたまま、天井を見つめている。
……やばい。蒼真くん、背中の筋肉までかっこいい。全然、眠れそうにない。
背中に頬ずりしたい。後ろから抱きしめて、距離をゼロにしたい。……ダメだ、落ち着け。変態か。
すーすーと規則正しい寝息が、耳に心地いい。ふと思う。誠司さんが眠っているところを、僕は一度も見たことがない。僕より遅く寝て、早く起きる人だった。αらしい化け物じみた体力。
僕が目を開けるとすぐ気づいて、抱き込まれる。「抱き枕みたいだね」と言えば、「ちょうどいいサイズだからな」と言いながら口づけを落として——それからは、抱き枕じゃない使われ方。時間ぎりぎりまで絡まり合って、車で会社の近くまで送られる。
普段は歩いて通っていた、あの短い距離でさえ、離れ難くて彼と過ごした。
……寂しい。
波の音と子どもたちの笑い声をBGMに、思考は暗い海の底へ沈んでいく。
ダメだこれじゃ、僕は誠司さんの代替品を探しているだけみたいじゃないか。都合よく、自分に関心のある男を“欲のはけ口”にしているだけなんじゃないか。
そうじゃない、僕は蒼真くんと愛し合いたい。一緒にいたい。踏み込みたい——のに先程は、一線を引かれた。もし僕から告白して、誠司さんみたいに“身体だけの関係”に転んだら……もう立ち直れない気がする。
蒼真くんがそんな不誠実な人だとは思わない。だけど、複数の恋人を侍らせていた誠司さんに気づけなかった鈍い僕だ。人を見る目が、ないのかもしれない。
蒼真くんの静かな吐息に耳を澄ませているうち、彼のラッシュガードを借りっぱなしなのを思い出した。
もう乾いたし、肩に掛けてあげよう。そう思って身を起こし、黒いラッシュガードを脱いだ瞬間、白い布地の下でつんと主張する自分の胸に視線が釘づけになる。
(んんんんん~~~!!)
声にならない悲鳴が、頭の中で炸裂した。さっきからの想像で昂ぶった身体が、布を小さく押し上げている。もしかして、フロートに上がったときも海水の冷たさでこうなっていて……それを蒼真くんは、何も言わずに隠してくれたのか。
——めちゃくちゃ恥ずかしい!! 僕の身体め!!……それにしても、蒼真くん優しい。また、好きが増えた。
(誠司さんなら、ここぞとばかりに虐めてきただろうな)
慌てて黒のラッシュガードのファスナーを首元まできっちり上げる。小さく縮こまりながら、そっと彼の隣に横になった。
蒼真くんの“好き”に想いをはせる。
最初に惹かれたのは——
頼りたくなる落ち着いた声、清潔な香り。
地道な努力が刻まれた身体。
ほのかな色気のある顔立ち。
都会的なセンス、言葉選びとユーモア。
惜しみない賛辞。
僕にない行動力と決断力。
年下に見えない包容力。
さりげない優しさ、素直さ。
ときどき照れて可愛いところ。
仕事への誇り。
礼儀と常識。
そして、何よりフェロモンの力じゃなく“水無瀬琉生”そのものを見てくれる甘い眼差し。
誠司さんは、Ωだからという理由で僕を選び、彼の好きな場所へ連れ出し、彼の好みに着せ替え、彼の望む身体だけを求めた。
蒼真くんは違う。
僕に尋ね、迷えば一緒に選び、そばで支える。肩を並べることを当然のように許してくれる。
そんなことを数えているうち、胸の奥からじんわり幸福が満ちてきた。少しだけ勇気を出して、額をそっと彼の背中に触れさせる。
触れたところから、もっと好きが広がっていく。
官能だけで満たされた過去男の触れ合いとは違う、初めてのぬくもり。
「……幸せ」
吐息みたいな声が零れた。
そのまま意識はふっと遠のいていく。久しぶりに泳いだ疲れも手伝って、心地よい呼吸音と体温に包まれながら、僕は静かに眠りに落ちた。
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