氷の公爵は、捨てられた私を離さない

空月そらら

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第17話 芽生える想い

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レオルド公爵の不器用な気遣いは、アリアの心を確実に温めていた。それは、生まれて初めてと言っていいほど、誰かに純粋に大切にされているという感覚だった。

もちろん、戸惑いもある。彼はなぜ、自分にここまでしてくれるのか。その理由を考えると、どうしても自分の持つ『浄化の力』に行き着いてしまう。

(公爵様にとって、私はやっぱり、力が必要なだけの存在なのかしら……)

そう考えると、胸がちくりと痛んだ。彼が見せる優しさが、すべて力への対価なのだとしたら、それはあまりにも寂しい。

けれど、時折、彼の瞳の奥に揺らめく、何か別の感情の色が見える気がした。書類を受け取る際に触れた指先の熱、自分を見つめる真剣な眼差し、ぶっきらぼうな言葉の裏に隠された優しさ。それらは、単なる打算だけでは説明がつかないように思えた。

(もしかしたら……ほんの少しだけでも、私自身を見てくれている……?)

そんな淡い期待が、アリアの心に芽生え始めていた。

気づけば、アリアはレオルド公爵のことを目で追うようになっていた。廊下ですれ違うだけで胸が高鳴り、彼が執務室に籠っていると知れば、少しだけ寂しく感じた。彼が呪いの発作で苦しんでいないか、常に気にかけるようになった。

これは、恋なのだろうか。

アリアは、自分の気持ちに気づき、狼狽した。相手は公爵様で、自分は使用人に過ぎない。身分が違いすぎる。それに、自分は一度、愛した人に裏切られ、捨てられたのだ。もう二度と、あんな思いはしたくない。

(だめよ、アリア。勘違いしてはいけないわ)

アリアは必死に自分に言い聞かせた。これは、感謝の気持ちだ。恩義を感じているだけだ。決して、恋などではない、と。

彼の優しさは、きっと気まぐれなのだ。いつか、自分が必要なくなれば、また簡単に捨てられるのかもしれない。エリオットの時のように。

そう思うと、胸の奥が冷たくなるのを感じた。過去の傷は、まだ癒えてはいなかった。

それでも、レオルド公爵に惹かれる気持ちを、完全に否定することはできなかった。彼の孤独、彼の苦悩、そして、彼が時折見せる不器用な優しさ。その全てが、アリアの心を強く捉えて離さないのだ。

(今は、ただ……与えられた仕事を精一杯こなそう。そして、彼の苦しみを少しでも和らげられるように、力を尽くそう)

アリアは、自分の気持ちに蓋をすることにした。この淡い想いは、胸の奥深くに仕舞い込んで、決して表には出さない。それが、今の自分にできる唯一のことだった。

図書室の窓から、中庭を歩くレオルドの後ろ姿が見えた。その背中は、相変わらず孤高で、近寄りがたい雰囲気を漂わせている。けれど、アリアにはもう、以前のような単なる恐怖心だけではなく、もっと複雑で、温かい感情が湧き上がってくるのを止められなかった。

惹かれてはいけない相手。叶うはずのない想い。分かっているのに、募っていく気持ち。

アリアは、そっと窓のカーテンを引き、彼の姿から目を逸らした。胸の奥で、甘く切ない痛みが、静かに広がっていた。
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