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第33話 復縁画策
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アリアの持つ『浄化の力』の価値を確信したエリオット王太子の心は、今や「アリア奪還」という歪んだ目標一色に染まっていた。
(アリアを取り戻す……! 必ず!)
執務室で一人、彼は拳を握りしめた。後悔や嫉妬といった感情は、いつしか、彼女と彼女の力を再び自分の支配下に置きたいという、強い欲求へと変わっていた。
「彼女は元々、私の婚約者だったのだ。私こそが、彼女の力を正当に使う権利がある。レオルドのような辺境の田舎貴族などに、扱える代物ではない!」
彼は、どこまでも自己中心的な論理で、自分の行動を正当化しようとした。アリアの気持ちなど、最初から考慮には入っていない。
問題は、どうやってアリアを取り戻すか、だ。
辺境伯レオルドは、一筋縄ではいかない相手だ。王太子という立場を利用して、真っ向から返還を要求しても、あの氷の公爵が素直に応じるとは思えない。むしろ、王家への反感を買い、無用な対立を生むだけだろう。
(力ずくは避けたい……。もっと、穏便に、かつ確実に……)
エリオットは、策を巡らせた。そして、一つの方法を思いつく。
(そうだ、アリアの実家、ローゼンベルク侯爵家を利用すればいい)
ローゼンベルク侯爵夫妻は、娘よりも家門の体面や利益を優先する人間だ。王太子である自分が働きかければ、彼らは喜んで協力するだろう。
アリアを辺境から連れ戻すよう、侯爵夫妻に命じる。アリアが親の命令に逆らえるはずがない。たとえ抵抗したとしても、侯爵家が無理やりにでも連れ戻すだろう。そして、王都に戻ってきたアリアを、自分が保護すればいい。
(完璧だ……!)
エリオットは、自分の計画にほくそ笑んだ。実に簡単で、効果的な方法だと思えた。
彼は早速、ローゼンベルク侯爵を密かに呼び出した。
「侯爵、折り入って頼みがある」
エリオットは、王太子としての威厳を保ちながら、しかしどこか親しげな口調で切り出した。
「はっ、殿下。なんなりと、お申し付けください」
侯爵は、突然の呼び出しに緊張しながらも、期待に満ちた目でエリオットを見上げた。婚約破棄以来、王家との関係が冷え込んでいたため、この呼び出しを関係修復のチャンスと捉えたのだ。
「うむ。実は、君の娘、アリアのことだ」
「アリア……でございますか?」
娘の名前に、侯爵の顔が僅かに曇る。彼にとって、アリアはもはや家の恥でしかなかった。
「そうだ。聞けば、彼女は今、辺境伯ヴァイスハルト公の元にいるそうだな?」
「は、はい……。その、公爵閣下のご厚意で、図書室係としてお仕えしているとか……。誠に、面目次第もございません」
侯爵は、恐縮しきった様子で頭を下げた。
「まあ、その件は良い。それよりも、だ。私は、アリアを王都に呼び戻したいと考えている」
「は……? アリアを、でございますか?」
侯爵は、驚いて顔を上げた。
「そうだ。……実はな、私は少し、彼女に対して厳しくしすぎたのかもしれないと、反省しているのだ。彼女には、改めて謝罪し、そして……」
エリオットは、さも反省しているかのような演技で言葉を濁した。
「もしかして、殿下……アリアとの復縁を……?」
侯爵の目が、欲にぎらついた。もしそうなれば、ローゼンベルク家は再び王家との繋がりを取り戻せるのだ。
「まあ、それは追々な。まずは、彼女を王都に連れ戻すのが先決だ。侯爵、君の力で、アリアを辺境から呼び戻してはくれぬか? 親としての命令ならば、彼女も逆らえまい」
「ははっ! お安い御用でございます、殿下! このローゼンベルク、殿下のお役に立てるのであれば、喜んで!」
侯爵は、二つ返事で承諾した。娘の気持ちなど、彼にはどうでもよかった。王太子の歓心を得て、家の利益を取り戻せるのなら、どんなことでもするつもりだった。
「うむ、頼んだぞ、侯爵。これは、くれぐれも内密にな」
「はっ! お任せください!」
侯爵は、意気揚々と執務室を後にした。エリオットは、その後ろ姿を見送りながら、ほくそ笑んでいた。
(これで、第一段階は完了だ。あとは、アリアが王都に戻ってくるのを待つだけ……)
彼は、アリアがレオルドの元でどれだけ変わったか、そしてレオルドがアリアをどれだけ大切に思っているか、全く理解していなかった。彼の浅はかな計画は、やがて予想もしない形で、彼自身に跳ね返ってくることになる。
王都では、アリアを取り戻そうとする歪んだ陰謀が、静かに動き始めていた。
(アリアを取り戻す……! 必ず!)
執務室で一人、彼は拳を握りしめた。後悔や嫉妬といった感情は、いつしか、彼女と彼女の力を再び自分の支配下に置きたいという、強い欲求へと変わっていた。
「彼女は元々、私の婚約者だったのだ。私こそが、彼女の力を正当に使う権利がある。レオルドのような辺境の田舎貴族などに、扱える代物ではない!」
彼は、どこまでも自己中心的な論理で、自分の行動を正当化しようとした。アリアの気持ちなど、最初から考慮には入っていない。
問題は、どうやってアリアを取り戻すか、だ。
辺境伯レオルドは、一筋縄ではいかない相手だ。王太子という立場を利用して、真っ向から返還を要求しても、あの氷の公爵が素直に応じるとは思えない。むしろ、王家への反感を買い、無用な対立を生むだけだろう。
(力ずくは避けたい……。もっと、穏便に、かつ確実に……)
エリオットは、策を巡らせた。そして、一つの方法を思いつく。
(そうだ、アリアの実家、ローゼンベルク侯爵家を利用すればいい)
ローゼンベルク侯爵夫妻は、娘よりも家門の体面や利益を優先する人間だ。王太子である自分が働きかければ、彼らは喜んで協力するだろう。
アリアを辺境から連れ戻すよう、侯爵夫妻に命じる。アリアが親の命令に逆らえるはずがない。たとえ抵抗したとしても、侯爵家が無理やりにでも連れ戻すだろう。そして、王都に戻ってきたアリアを、自分が保護すればいい。
(完璧だ……!)
エリオットは、自分の計画にほくそ笑んだ。実に簡単で、効果的な方法だと思えた。
彼は早速、ローゼンベルク侯爵を密かに呼び出した。
「侯爵、折り入って頼みがある」
エリオットは、王太子としての威厳を保ちながら、しかしどこか親しげな口調で切り出した。
「はっ、殿下。なんなりと、お申し付けください」
侯爵は、突然の呼び出しに緊張しながらも、期待に満ちた目でエリオットを見上げた。婚約破棄以来、王家との関係が冷え込んでいたため、この呼び出しを関係修復のチャンスと捉えたのだ。
「うむ。実は、君の娘、アリアのことだ」
「アリア……でございますか?」
娘の名前に、侯爵の顔が僅かに曇る。彼にとって、アリアはもはや家の恥でしかなかった。
「そうだ。聞けば、彼女は今、辺境伯ヴァイスハルト公の元にいるそうだな?」
「は、はい……。その、公爵閣下のご厚意で、図書室係としてお仕えしているとか……。誠に、面目次第もございません」
侯爵は、恐縮しきった様子で頭を下げた。
「まあ、その件は良い。それよりも、だ。私は、アリアを王都に呼び戻したいと考えている」
「は……? アリアを、でございますか?」
侯爵は、驚いて顔を上げた。
「そうだ。……実はな、私は少し、彼女に対して厳しくしすぎたのかもしれないと、反省しているのだ。彼女には、改めて謝罪し、そして……」
エリオットは、さも反省しているかのような演技で言葉を濁した。
「もしかして、殿下……アリアとの復縁を……?」
侯爵の目が、欲にぎらついた。もしそうなれば、ローゼンベルク家は再び王家との繋がりを取り戻せるのだ。
「まあ、それは追々な。まずは、彼女を王都に連れ戻すのが先決だ。侯爵、君の力で、アリアを辺境から呼び戻してはくれぬか? 親としての命令ならば、彼女も逆らえまい」
「ははっ! お安い御用でございます、殿下! このローゼンベルク、殿下のお役に立てるのであれば、喜んで!」
侯爵は、二つ返事で承諾した。娘の気持ちなど、彼にはどうでもよかった。王太子の歓心を得て、家の利益を取り戻せるのなら、どんなことでもするつもりだった。
「うむ、頼んだぞ、侯爵。これは、くれぐれも内密にな」
「はっ! お任せください!」
侯爵は、意気揚々と執務室を後にした。エリオットは、その後ろ姿を見送りながら、ほくそ笑んでいた。
(これで、第一段階は完了だ。あとは、アリアが王都に戻ってくるのを待つだけ……)
彼は、アリアがレオルドの元でどれだけ変わったか、そしてレオルドがアリアをどれだけ大切に思っているか、全く理解していなかった。彼の浅はかな計画は、やがて予想もしない形で、彼自身に跳ね返ってくることになる。
王都では、アリアを取り戻そうとする歪んだ陰謀が、静かに動き始めていた。
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