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第3話 家族の反応
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重い足取りで侯爵邸の玄関ホールに入ると、そこには厳しい表情をした父――ベルンシュタイン侯爵と、今にも泣き出しそうな顔の母が待ち構えていた。その周りには、遠巻きに使用人たちが並び、心配そうな、あるいは好奇の目を私に向けている。
(……ああ、やはり、こうなりますよね)
覚悟はしていた。けれど、実際に両親の前に立つと、心臓が嫌な音を立てて縮こまるのを感じた。
「アリアナ! 一体どういうことだ! 王太子殿下から婚約を破棄されるなど、ベルンシュタイン家の歴史始まって以来の恥辱だぞ!」
父の怒声が、大理石のホールに響き渡った。普段は冷静沈着な父が、これほど感情を露わにするのは珍しい。それだけ、今回の事態が我が家にとって一大事だということなのだろう。
「申し訳……ございません、お父様」
力なく頭を下げる私に、父はさらに言葉を重ねた。
「申し訳ない、で済む問題ではない! 我が家がどれほどの時間と労力をかけて、この婚約を維持してきたと思っている! それを、お前の不手際で……! 王家に対して、何と申し開きをすればいいのだ!」
(私の、不手際……?)
父の言葉に、私は顔を上げた。確かに、婚約を破棄されたのは私だ。けれど、その理由は『地味で華がない』という、あまりにも理不尽なものだったはず。私が何か、決定的な落ち度を犯したわけではない。むしろ、私は……。
「お父様、私は――」
「言い訳は聞きたくない!」
父は私の言葉を遮った。「理由はどうあれ、殿下のご機嫌を損ねたお前に非があるに決まっている! もっと上手く立ち回れなかったのか!?」
(上手く、立ち回る……?)
それはつまり、もっと殿下に媚びへつらい、気に入られるように振る舞えということなのだろうか。自分を殺して、影に徹してきた私に、これ以上何をしろというのだろう。
隣で、母が扇で口元を隠しながら、すすり泣くような声を出した。
「まあ、アリアナ……これからどうするの……? これでは、もうどこの夜会にも顔を出せませんわ……。社交界で、みっともなくて生きていけません……」
母が心配しているのは、私の将来ではなく、あくまでも侯爵家としての体面と、自身の社交界での立場だけ。それは、痛いほど分かっていた。
(誰も、私の気持ちなんて考えてくれないのね……)
一番の味方であるはずの家族にすら、理解してもらえない。擁護どころか、一方的に責め立てられる。その事実が、私の心をさらに冷たく、固くさせていった。
「……しばらく、部屋で休ませていただきます」
もう、この場にいるのが耐えられなかった。感情のない声でそう告げると、私は両親に背を向け、自室へと続く階段を上り始めた。背後から父の怒鳴り声や母の嘆きが聞こえてきたが、もう私の耳には届かなかった。
階段を上る途中、ふと、妹――次女のセレスティアが侍女たちと楽しげに談笑しているのが見えた。彼女は私とは対照的に、明るく華やかで、社交界でも人気の花だ。彼女の耳にも、すでに私の婚約破棄の話は届いているだろう。けれど、彼女は私に気づくと、一瞬気まずそうな顔をしただけで、すぐに侍女たちとの会話に戻ってしまった。憐れむような、あるいは、厄介者を見るような視線だけを残して。
そうだった。この家で、私の味方など、元々いなかったのかもしれない。
自室の扉を閉め、鍵をかける。どっと疲れが押し寄せてきて、私はベッドに倒れ込んだ。
ふと、数日前に侍女が話していた噂を思い出した。
『レオンハルト殿下、最近はイザベラ・フォン・ローゼンベルク伯爵令嬢と親しくなさっているそうよ。あの方は本当に華やかで、ダンスもお上手で……殿下のお隣に立つにふさわしい方ですわ』
イザベラ嬢。確かに、彼女は最新の流行を取り入れたドレスを身にまとい、いつも多くの取り巻きに囲まれている、社交界の華だ。私とは、何もかもが正反対。
(結局、殿下はああいう方がお好みだったということね……)
私のこれまでの努力も、控えめな態度も、すべて無意味だったのだ。いや、むしろ、マイナスにしかならなかったのかもしれない。
自嘲の笑みが、乾いた唇から漏れた。この家にも、王城にも、私の居場所はもうない。これから私は、どうやって生きていけばいいのだろうか。答えの見えない問いに、ただただ胸が締め付けられるだけだった。
(……ああ、やはり、こうなりますよね)
覚悟はしていた。けれど、実際に両親の前に立つと、心臓が嫌な音を立てて縮こまるのを感じた。
「アリアナ! 一体どういうことだ! 王太子殿下から婚約を破棄されるなど、ベルンシュタイン家の歴史始まって以来の恥辱だぞ!」
父の怒声が、大理石のホールに響き渡った。普段は冷静沈着な父が、これほど感情を露わにするのは珍しい。それだけ、今回の事態が我が家にとって一大事だということなのだろう。
「申し訳……ございません、お父様」
力なく頭を下げる私に、父はさらに言葉を重ねた。
「申し訳ない、で済む問題ではない! 我が家がどれほどの時間と労力をかけて、この婚約を維持してきたと思っている! それを、お前の不手際で……! 王家に対して、何と申し開きをすればいいのだ!」
(私の、不手際……?)
父の言葉に、私は顔を上げた。確かに、婚約を破棄されたのは私だ。けれど、その理由は『地味で華がない』という、あまりにも理不尽なものだったはず。私が何か、決定的な落ち度を犯したわけではない。むしろ、私は……。
「お父様、私は――」
「言い訳は聞きたくない!」
父は私の言葉を遮った。「理由はどうあれ、殿下のご機嫌を損ねたお前に非があるに決まっている! もっと上手く立ち回れなかったのか!?」
(上手く、立ち回る……?)
それはつまり、もっと殿下に媚びへつらい、気に入られるように振る舞えということなのだろうか。自分を殺して、影に徹してきた私に、これ以上何をしろというのだろう。
隣で、母が扇で口元を隠しながら、すすり泣くような声を出した。
「まあ、アリアナ……これからどうするの……? これでは、もうどこの夜会にも顔を出せませんわ……。社交界で、みっともなくて生きていけません……」
母が心配しているのは、私の将来ではなく、あくまでも侯爵家としての体面と、自身の社交界での立場だけ。それは、痛いほど分かっていた。
(誰も、私の気持ちなんて考えてくれないのね……)
一番の味方であるはずの家族にすら、理解してもらえない。擁護どころか、一方的に責め立てられる。その事実が、私の心をさらに冷たく、固くさせていった。
「……しばらく、部屋で休ませていただきます」
もう、この場にいるのが耐えられなかった。感情のない声でそう告げると、私は両親に背を向け、自室へと続く階段を上り始めた。背後から父の怒鳴り声や母の嘆きが聞こえてきたが、もう私の耳には届かなかった。
階段を上る途中、ふと、妹――次女のセレスティアが侍女たちと楽しげに談笑しているのが見えた。彼女は私とは対照的に、明るく華やかで、社交界でも人気の花だ。彼女の耳にも、すでに私の婚約破棄の話は届いているだろう。けれど、彼女は私に気づくと、一瞬気まずそうな顔をしただけで、すぐに侍女たちとの会話に戻ってしまった。憐れむような、あるいは、厄介者を見るような視線だけを残して。
そうだった。この家で、私の味方など、元々いなかったのかもしれない。
自室の扉を閉め、鍵をかける。どっと疲れが押し寄せてきて、私はベッドに倒れ込んだ。
ふと、数日前に侍女が話していた噂を思い出した。
『レオンハルト殿下、最近はイザベラ・フォン・ローゼンベルク伯爵令嬢と親しくなさっているそうよ。あの方は本当に華やかで、ダンスもお上手で……殿下のお隣に立つにふさわしい方ですわ』
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(結局、殿下はああいう方がお好みだったということね……)
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自嘲の笑みが、乾いた唇から漏れた。この家にも、王城にも、私の居場所はもうない。これから私は、どうやって生きていけばいいのだろうか。答えの見えない問いに、ただただ胸が締め付けられるだけだった。
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