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第7話 厄介払い
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私がライオネル公爵からの縁談を受け入れたという知らせは、瞬く間に王城にも伝わったらしい。数日後、父と共に王城へ呼び出された私は、宰相閣下から直々に言葉を賜ることとなった。謁見の間ではなく、もっと私的な、小さな応接室で。婚約破棄の時とは打って変わって、ひっそりとした扱いだった。
「ベルンシュタイン侯爵令嬢。ガルディアのヴァルテンベルク公爵からの縁談、受けることにしたそうだな。……賢明な判断だ」
宰相閣下は、感情の読めない表情でそう言った。その言葉には、私個人の幸せを願う響きなど微塵も含まれていない。ただ、厄介な問題が一つ片付いた、という安堵感が滲み出ているだけ。
「ヴァルテンベルク公爵家は、ガルディア王国の中でも特別な力を持つ家門。今回の縁組が、両国の友好に資することを期待している」
表向きは、そう言うしかないのだろう。けれど、本心では、婚約破棄された問題児(私)を、体よく隣国に押し付けることができて良かった、と思っているに違いない。ライオネル公爵ほどの人物からの縁談を、エスタード王国側から断る理由など、どこにもないのだから。
(友好に資する……? 私のような者が嫁いで、本当にそうなるのかしら……)
疑問は尽きない。けれど、もう後戻りはできない。私はただ、「は、承知いたしました」と力なく答えるしかなかった。
この縁談について、レオンハルト殿下がどう思っていらっしゃるのか、少し気になった。まさかとは思うけれど、私が本当に隣国へ行くことになって、少しは何か思うところがあるのだろうか……なんて、そんな淡い期待を抱いてしまう自分が、少しだけ嫌になる。
その答えは、王城からの帰り道、偶然耳にした貴族たちの会話で知ることになった。
『聞いたか? ベルンシュタインのあのアリアナ嬢、本当にガルディアの冷徹公爵に嫁ぐそうだぞ』
『ほう、それは……殿下のあの冗談のような言葉が、現実になったというわけか! まったく、似合いの組み合わせではないか!』
『殿下も、さぞお喜びだろうな。厄介払いができて』
『ああ、先日も「やはり私の目に狂いはなかった。彼女にはあの鉄面皮公爵こそがふさわしい」と笑っておられたそうだ』
……そう。殿下は、喜んでいらっしゃるのだ。私が隣国へ行くことを。厄介払いができたと。そして、私があの冷徹公爵と「お似合い」だと、心からそう思っていらっしゃるのだ。
胸が、きゅうっと締め付けられる。最後の最後まで、私は殿下にとって、その程度の存在でしかなかったのだ。ほんの僅かに残っていた未練のような感情が、粉々に砕け散っていくのを感じた。
侯爵邸に戻ると、私の出発に向けた準備が、驚くほどの速さで進められていた。母は「公爵家に対して失礼があってはなりませんから」と言いながら、侍女たちに次々と指示を出している。けれど、その言葉とは裏腹に、準備されている私の荷物は、必要最低限のものばかり。まるで、一刻も早く私をこの家から追い出したい、と言っているかのようだった。
父も母も、私の体調や気持ちを気遣う言葉など、一言もかけてはくれない。ただ、形式的に「ガルディアへ行っても、ベルンシュタイン家の名を汚すようなことだけはするな」と釘を刺されただけ。
妹のセレスティアに至っては、私と顔を合わせることすら避け、自分の部屋にこもっているらしい。私が隣国の、しかも悪評高い公爵に嫁ぐことが、彼女にとっても不名誉だと感じているのだろう。
(本当に……私は、誰からも望まれていないのね……)
この家で、この国で、私を必要としてくれる人なんて、もう誰もいないのだ。その事実が、冷たい現実として、私の心に深く突き刺さる。
孤独だった。心の底から震えるほどの、深い孤独感。けれど、不思議と涙は出なかった。もう、泣く気力すら残っていないのかもしれない。
ただ、早くここから立ち去りたい。それだけを願っていた。たとえ行き先が、どんな場所であろうとも。
「ベルンシュタイン侯爵令嬢。ガルディアのヴァルテンベルク公爵からの縁談、受けることにしたそうだな。……賢明な判断だ」
宰相閣下は、感情の読めない表情でそう言った。その言葉には、私個人の幸せを願う響きなど微塵も含まれていない。ただ、厄介な問題が一つ片付いた、という安堵感が滲み出ているだけ。
「ヴァルテンベルク公爵家は、ガルディア王国の中でも特別な力を持つ家門。今回の縁組が、両国の友好に資することを期待している」
表向きは、そう言うしかないのだろう。けれど、本心では、婚約破棄された問題児(私)を、体よく隣国に押し付けることができて良かった、と思っているに違いない。ライオネル公爵ほどの人物からの縁談を、エスタード王国側から断る理由など、どこにもないのだから。
(友好に資する……? 私のような者が嫁いで、本当にそうなるのかしら……)
疑問は尽きない。けれど、もう後戻りはできない。私はただ、「は、承知いたしました」と力なく答えるしかなかった。
この縁談について、レオンハルト殿下がどう思っていらっしゃるのか、少し気になった。まさかとは思うけれど、私が本当に隣国へ行くことになって、少しは何か思うところがあるのだろうか……なんて、そんな淡い期待を抱いてしまう自分が、少しだけ嫌になる。
その答えは、王城からの帰り道、偶然耳にした貴族たちの会話で知ることになった。
『聞いたか? ベルンシュタインのあのアリアナ嬢、本当にガルディアの冷徹公爵に嫁ぐそうだぞ』
『ほう、それは……殿下のあの冗談のような言葉が、現実になったというわけか! まったく、似合いの組み合わせではないか!』
『殿下も、さぞお喜びだろうな。厄介払いができて』
『ああ、先日も「やはり私の目に狂いはなかった。彼女にはあの鉄面皮公爵こそがふさわしい」と笑っておられたそうだ』
……そう。殿下は、喜んでいらっしゃるのだ。私が隣国へ行くことを。厄介払いができたと。そして、私があの冷徹公爵と「お似合い」だと、心からそう思っていらっしゃるのだ。
胸が、きゅうっと締め付けられる。最後の最後まで、私は殿下にとって、その程度の存在でしかなかったのだ。ほんの僅かに残っていた未練のような感情が、粉々に砕け散っていくのを感じた。
侯爵邸に戻ると、私の出発に向けた準備が、驚くほどの速さで進められていた。母は「公爵家に対して失礼があってはなりませんから」と言いながら、侍女たちに次々と指示を出している。けれど、その言葉とは裏腹に、準備されている私の荷物は、必要最低限のものばかり。まるで、一刻も早く私をこの家から追い出したい、と言っているかのようだった。
父も母も、私の体調や気持ちを気遣う言葉など、一言もかけてはくれない。ただ、形式的に「ガルディアへ行っても、ベルンシュタイン家の名を汚すようなことだけはするな」と釘を刺されただけ。
妹のセレスティアに至っては、私と顔を合わせることすら避け、自分の部屋にこもっているらしい。私が隣国の、しかも悪評高い公爵に嫁ぐことが、彼女にとっても不名誉だと感じているのだろう。
(本当に……私は、誰からも望まれていないのね……)
この家で、この国で、私を必要としてくれる人なんて、もう誰もいないのだ。その事実が、冷たい現実として、私の心に深く突き刺さる。
孤独だった。心の底から震えるほどの、深い孤独感。けれど、不思議と涙は出なかった。もう、泣く気力すら残っていないのかもしれない。
ただ、早くここから立ち去りたい。それだけを願っていた。たとえ行き先が、どんな場所であろうとも。
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