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第27話 公爵の盾
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私が保守派貴族たちから陰湿な嫌がらせを受けているらしい、ということは、どうやらライオネル公爵の耳にも届いていたようだ。彼は普段、あまり感情を表に出さないけれど、その観察眼は非常に鋭い。私がどれだけ平静を装っていても、私の僅かな変化や、周囲の不穏な空気を見逃すはずがなかった。
ある日のこと。公爵主催の夜会が開かれ、私もその末席に連なっていた。その席で、例の侯爵夫人が、またしても私に絡んできたのだ。
「ベルンシュタイン様は、本当にご熱心に公爵閣下のお仕事を手伝っていらっしゃるそうですわね。わたくしどもには到底理解できないような、難しいお話ばかりなのでしょうけれど。……異国の方が、そこまでガルディアのことにお詳しいというのも、少々不思議な気がいたしますわ。何か、特別な情報源でもお持ちなのかしら?」
その言葉は、遠回しに私が他国の間諜であるかのような疑いをかけており、悪意に満ちていた。周囲にいた他の貴族たちも、興味津々といった様子で私たちの会話に聞き耳を立てている。私は、顔が青ざめるのを感じながらも、何とか反論しようと口を開きかけた。
その瞬間だった。
「――奥方。私の婚約者に対して、何かご不満でもおありかな?」
凛とした、氷のように冷たい声が、侯爵夫人の言葉を遮った。声の主は、いつの間にか私たちのすぐそばに立っていた、ライオネル公爵だった。彼の黒い瞳は、絶対零度の光を宿し、真っ直ぐに侯爵夫人を射抜いている。その場の空気が、一瞬で凍り付いたのが分かった。
「こ、公爵閣下……! い、いえ、そのようなことは、決して……! ただ、ベルンシュタイン様と、少しお話を……」
侯爵夫人は、狼狽した様子でしどろもどろに言い訳を始める。その顔は、先程までの傲慢な態度はどこへやら、恐怖で引きつっていた。
「アリアナは、私の要請で、ガルディアのためにその類稀なる才能を発揮してくれている。彼女の献策は、すでに多くの成果を上げており、この国にとって不可欠なものだ。その彼女の出自や性別を理由に、根も葉もない疑いをかけたり、その働きを妨害しようとしたりする者がいるとすれば……それは、この私、ライオネル・フォン・ヴァルテンベルクへの明確な敵対行為と見なす」
公爵の言葉は、静かでありながら、有無を言わせぬ凄みがあった。それは、その場にいた全ての貴族たちに向けられた、明確な警告だった。アリアナを守る、という彼の断固たる意志が、ひしひしと伝わってくる。
侯爵夫人は、もはや言葉も出ないといった様子で、顔面蒼白のまま震えている。周囲の貴族たちも、息を殺してこの状況を見守るしかなかった。
「ご理解いただけたかな、奥方?」
公爵が、念を押すように低い声で問いかけると、侯爵夫人はかろうじて「は、はい……も、申し訳ございませんでした……」と絞り出すのがやっとだった。
その後、公爵は何事もなかったかのように、私の手を優しく取り、こう言った。
「アリアナ、少し疲れただろう。あちらで休憩しよう」
そして、私を促してその場を離れた。彼の大きな背中が、まるで私を全ての悪意から守ってくれる、頼もしい盾のように感じられた。
バルコニーで二人きりになると、私は彼に深く頭を下げた。
「公爵様……ありがとうございました。私のために、あのような……」
「気にするな」と、公爵は短く言った。「君が不当な扱いを受けることを、私は決して許さない。……それに、私はただ、事実を述べたまでだ」
その言葉は、ぶっきらぼうではあったけれど、彼の深い愛情と信頼が込められているのが分かった。私は、胸がいっぱいになり、何も言えなくなってしまった。
ただ、この人の隣にいられるのなら、どんな困難も乗り越えていける。そう強く感じた。
しかし、同時に、小さな不安も胸をよぎる。私がいることで、彼が敵を作ってしまうのではないか。彼の足手まといになってしまうのではないか、と。
「……私は、公爵様にご迷惑をおかけしてばかりですわね……」
思わず、そんな弱音が口をついて出た。すると、公爵は私の顔をじっと見つめ、そして、不意に私の頬にそっと手を伸ばした。その指先は、少しだけ冷たかったけれど、とても優しかった。
「君は、決して迷惑などではない。……むしろ、君がいてくれるからこそ、私は……」
彼は、そこで言葉を切った。その黒い瞳が、何かを言いたそうに揺れている。けれど、結局彼は、それ以上何も言わずに、そっと手を離した。
その時、彼が何を言おうとしたのか、私には分からなかった。けれど、彼の温かい眼差しと、頬に残る指先の感触が、私に大きな勇気と安らぎを与えてくれたことだけは、確かだった。
ライオネル公爵という、絶対的な盾を得た私は、もう何も恐れることはない。そう信じて、前を向いて歩いていこうと、改めて心に誓ったのだった。
ある日のこと。公爵主催の夜会が開かれ、私もその末席に連なっていた。その席で、例の侯爵夫人が、またしても私に絡んできたのだ。
「ベルンシュタイン様は、本当にご熱心に公爵閣下のお仕事を手伝っていらっしゃるそうですわね。わたくしどもには到底理解できないような、難しいお話ばかりなのでしょうけれど。……異国の方が、そこまでガルディアのことにお詳しいというのも、少々不思議な気がいたしますわ。何か、特別な情報源でもお持ちなのかしら?」
その言葉は、遠回しに私が他国の間諜であるかのような疑いをかけており、悪意に満ちていた。周囲にいた他の貴族たちも、興味津々といった様子で私たちの会話に聞き耳を立てている。私は、顔が青ざめるのを感じながらも、何とか反論しようと口を開きかけた。
その瞬間だった。
「――奥方。私の婚約者に対して、何かご不満でもおありかな?」
凛とした、氷のように冷たい声が、侯爵夫人の言葉を遮った。声の主は、いつの間にか私たちのすぐそばに立っていた、ライオネル公爵だった。彼の黒い瞳は、絶対零度の光を宿し、真っ直ぐに侯爵夫人を射抜いている。その場の空気が、一瞬で凍り付いたのが分かった。
「こ、公爵閣下……! い、いえ、そのようなことは、決して……! ただ、ベルンシュタイン様と、少しお話を……」
侯爵夫人は、狼狽した様子でしどろもどろに言い訳を始める。その顔は、先程までの傲慢な態度はどこへやら、恐怖で引きつっていた。
「アリアナは、私の要請で、ガルディアのためにその類稀なる才能を発揮してくれている。彼女の献策は、すでに多くの成果を上げており、この国にとって不可欠なものだ。その彼女の出自や性別を理由に、根も葉もない疑いをかけたり、その働きを妨害しようとしたりする者がいるとすれば……それは、この私、ライオネル・フォン・ヴァルテンベルクへの明確な敵対行為と見なす」
公爵の言葉は、静かでありながら、有無を言わせぬ凄みがあった。それは、その場にいた全ての貴族たちに向けられた、明確な警告だった。アリアナを守る、という彼の断固たる意志が、ひしひしと伝わってくる。
侯爵夫人は、もはや言葉も出ないといった様子で、顔面蒼白のまま震えている。周囲の貴族たちも、息を殺してこの状況を見守るしかなかった。
「ご理解いただけたかな、奥方?」
公爵が、念を押すように低い声で問いかけると、侯爵夫人はかろうじて「は、はい……も、申し訳ございませんでした……」と絞り出すのがやっとだった。
その後、公爵は何事もなかったかのように、私の手を優しく取り、こう言った。
「アリアナ、少し疲れただろう。あちらで休憩しよう」
そして、私を促してその場を離れた。彼の大きな背中が、まるで私を全ての悪意から守ってくれる、頼もしい盾のように感じられた。
バルコニーで二人きりになると、私は彼に深く頭を下げた。
「公爵様……ありがとうございました。私のために、あのような……」
「気にするな」と、公爵は短く言った。「君が不当な扱いを受けることを、私は決して許さない。……それに、私はただ、事実を述べたまでだ」
その言葉は、ぶっきらぼうではあったけれど、彼の深い愛情と信頼が込められているのが分かった。私は、胸がいっぱいになり、何も言えなくなってしまった。
ただ、この人の隣にいられるのなら、どんな困難も乗り越えていける。そう強く感じた。
しかし、同時に、小さな不安も胸をよぎる。私がいることで、彼が敵を作ってしまうのではないか。彼の足手まといになってしまうのではないか、と。
「……私は、公爵様にご迷惑をおかけしてばかりですわね……」
思わず、そんな弱音が口をついて出た。すると、公爵は私の顔をじっと見つめ、そして、不意に私の頬にそっと手を伸ばした。その指先は、少しだけ冷たかったけれど、とても優しかった。
「君は、決して迷惑などではない。……むしろ、君がいてくれるからこそ、私は……」
彼は、そこで言葉を切った。その黒い瞳が、何かを言いたそうに揺れている。けれど、結局彼は、それ以上何も言わずに、そっと手を離した。
その時、彼が何を言おうとしたのか、私には分からなかった。けれど、彼の温かい眼差しと、頬に残る指先の感触が、私に大きな勇気と安らぎを与えてくれたことだけは、確かだった。
ライオネル公爵という、絶対的な盾を得た私は、もう何も恐れることはない。そう信じて、前を向いて歩いていこうと、改めて心に誓ったのだった。
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