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第36話 卑劣な揺さぶり
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エスタードからの使節団が失意のうちに帰国してから、しばらくの間は比較的平穏な日々が続いていた。ライオネル公爵との関係も、あの領地視察や公式な外交の場を共にしたことで、より深く、確かなものへと変わってきている実感があった。私たちは、公私にわたる最高のパートナーとして、互いを尊重し、支え合っている。そう思っていた。
けれど、嵐の前の静けさとは、まさにこのことだったのかもしれない。レオンハルト殿下の歪んだ執着は、私たちが想像していた以上に根深く、そして卑劣な形で、再び私たちの前に現れようとしていたのだ。
最初に異変を感じたのは、首都ヴァルテンシュタットの社交界だった。私が「賢女」としてある程度の評価を得ていたはずのその場所で、突如として、私に関する悪意に満ちた噂が囁かれ始めたのだ。
「ベルンシュタイン嬢は、エスタードの重要情報を手土産に、ヴァルテンベルク公爵に取り入ったらしいわよ」
「公爵閣下を誑かして、ガルディアの実権を裏で操ろうとしている野心家の女だという話も……」
「なんでも、エスタードでは素行が悪くて婚約破棄されたとか。そんな女性を公爵夫人に迎えるなんて、ヴァルテンベルク家も地に落ちたものですわね」
そういった根も葉もない噂話が、まるで計画されたかのように、一斉に広まり始めた。最初は、また保守派貴族の嫌がらせかと思った。けれど、噂の広まり方があまりにも組織的で、悪質だったのだ。その内容は、私の過去を歪め、私のガルディアへの貢献を貶め、そして何よりも、ライオネル公爵の私への信頼を揺るがそうとする、明確な意図が感じられた。
(これは……エスタードからの……レオンハルト殿下の仕業……?)
直感的にそう感じ、私の背筋を冷たいものが走り抜けた。外交的な手段で私を取り戻せないと悟った彼が、今度はもっと陰湿な方法で、私を精神的に追い詰めようとしているのかもしれない。
噂は、社交界だけに留まらなかった。一部の扇動的な新聞が、匿名を盾に私を中傷する記事を掲載し始め、それはやがて、一部の民衆の間にも広まっていった。私が街を歩くと、以前のような温かい視線だけでなく、好奇や不信の目を向けられることも増えてきた。
「アリアナ様……大丈夫でございますか?」
供の侍女が、心配そうに私の顔を覗き込む。私は、必死に平静を装って微笑んでみせた。
「ええ、ありがとう。私は大丈夫よ。……真実は、いつか必ず明らかになるものですから」
そうは言ったものの、謂れのない中傷の言葉は、確実に私の心を蝕んでいった。眠れない夜も増え、食欲も落ちていく。ライオネル公爵や側近の方々は、私を気遣い、変わらぬ信頼を示してくれたけれど、私がいることで彼らに迷惑をかけているのではないかという罪悪感も、私を苦しめた。
特に、保守派の貴族たちは、この噂に待ってましたとばかりに便乗し、公の場で私を遠回しに批判したり、ライオネル公爵の私への「寵愛」が国益を損ねているかのような発言をしたりするようになった。
(私は……どうすればいいの……?)
エスタードでの婚約破棄の時とは違う。あの時は、ただ耐え、受け入れるしかなかった。けれど、今は違う。私には守りたいものがある。ライオネル公爵の信頼、ガルディアの人々の期待、そして、ここで見つけた私の居場所。
けれど、相手は目に見えない「噂」という怪物だ。どう戦えばいいのか、皆目見当もつかなかった。卑劣な揺さぶりに、私の心は少しずつ、確実に疲弊していっているのを感じていた。レオンハルト殿下の狙いは、まさにそこにあるのかもしれない、と思いながら。
けれど、嵐の前の静けさとは、まさにこのことだったのかもしれない。レオンハルト殿下の歪んだ執着は、私たちが想像していた以上に根深く、そして卑劣な形で、再び私たちの前に現れようとしていたのだ。
最初に異変を感じたのは、首都ヴァルテンシュタットの社交界だった。私が「賢女」としてある程度の評価を得ていたはずのその場所で、突如として、私に関する悪意に満ちた噂が囁かれ始めたのだ。
「ベルンシュタイン嬢は、エスタードの重要情報を手土産に、ヴァルテンベルク公爵に取り入ったらしいわよ」
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そういった根も葉もない噂話が、まるで計画されたかのように、一斉に広まり始めた。最初は、また保守派貴族の嫌がらせかと思った。けれど、噂の広まり方があまりにも組織的で、悪質だったのだ。その内容は、私の過去を歪め、私のガルディアへの貢献を貶め、そして何よりも、ライオネル公爵の私への信頼を揺るがそうとする、明確な意図が感じられた。
(これは……エスタードからの……レオンハルト殿下の仕業……?)
直感的にそう感じ、私の背筋を冷たいものが走り抜けた。外交的な手段で私を取り戻せないと悟った彼が、今度はもっと陰湿な方法で、私を精神的に追い詰めようとしているのかもしれない。
噂は、社交界だけに留まらなかった。一部の扇動的な新聞が、匿名を盾に私を中傷する記事を掲載し始め、それはやがて、一部の民衆の間にも広まっていった。私が街を歩くと、以前のような温かい視線だけでなく、好奇や不信の目を向けられることも増えてきた。
「アリアナ様……大丈夫でございますか?」
供の侍女が、心配そうに私の顔を覗き込む。私は、必死に平静を装って微笑んでみせた。
「ええ、ありがとう。私は大丈夫よ。……真実は、いつか必ず明らかになるものですから」
そうは言ったものの、謂れのない中傷の言葉は、確実に私の心を蝕んでいった。眠れない夜も増え、食欲も落ちていく。ライオネル公爵や側近の方々は、私を気遣い、変わらぬ信頼を示してくれたけれど、私がいることで彼らに迷惑をかけているのではないかという罪悪感も、私を苦しめた。
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