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第44話 完全なる敗北
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レオンハルト殿下のガルディア滞在中、私は常にライオネル様の傍を離れなかった。それは、彼が私を守ろうとしてくれていると同時に、私自身も、レオンハルト殿下と二人きりになることを避けたかったからだ。彼のあの、粘つくような視線と、独りよがりな言葉を聞いているだけで、気分が悪くなりそうだった。
公式な会談の場や、歓迎の宴席。そういった場所で、レオンハルト殿下は何度も私に接触しようと試みてきた。時には甘い言葉で、時には脅迫めいた口調で、私をエスタードへ連れ戻そうとする。けれど、その度に、ライオネル様が間に立ち、彼の試みを冷静に、しかし断固としてはねつけてくれた。
「レオンハルト王子。アリアナは、私の婚約者であり、間もなくヴァルテンベルク公爵夫人となる女性だ。彼女の意思を無視した言動は、慎んでいただきたい」
ライオネル様のその言葉は、常に有無を言わせぬ迫力があった。レオンハルト殿下も、さすがにガルディアの最高権力者の一人であるライオネル様を前にしては、あからさまな強硬手段に出ることはできないようだった。
そして、レオンハルト殿下は、このガルディアで、嫌というほど思い知らされることになるのだ。自分が手放したものが、どれほど大きな価値を持っていたのかを。
ある夜、公爵邸で盛大な夜会が開かれた。それは、レオンハルト殿下を歓迎するという名目ではあったが、同時に、間近に迫った私とライオネル様の結婚を、内外に披露するという意味合いも込められていた。
その夜の私は、ライオネル様が特別に誂えてくれた、月光のように輝くシルクのドレスを身にまとっていた。髪には、彼から贈られたダイヤモンドのティアラが輝いている。エスタードにいた頃の、地味で自信なさげな私とは、まるで別人のようだ、と自分でも思う。
私は、ライオネル様のエスコートで、会場の注目を一身に浴びながら、堂々と歩を進めた。そして、集まった貴族たちや各国の使節たちと、笑顔で言葉を交わした。ガルディアの現状について、近隣諸国との関係について、時には専門的な知識を交えながら、自分の意見をはっきりと述べる。その姿は、多くの人々から称賛と敬意の目で見られているのが分かった。
レオンハルト殿下は、そんな私の姿を、会場の隅から、まるで信じられないものでも見るかのように、呆然と見つめていた。
彼は見たのだろう。私が、ただ美しいドレスを着飾っているだけではないことを。私が、ライオネル様に深く愛され、心からの信頼を寄せられていることを。そして何よりも、私が、自分の意思でこの場所に立ち、自分の言葉で語り、自分の力で輝いていることを。
かつて彼が「地味で華がない」と蔑んだ令嬢は、今や、誰よりも眩い光を放つ存在へと変わっていたのだ。そして、その変化をもたらしたのは、他の誰でもない、彼が最も見下していた「才能」と、そしてライオネル様という、真に彼女の価値を理解する人の愛だった。
夜会の途中、レオンハルト殿下は、ふらふらとした足取りで私の元へ近づいてきた。その顔は青ざめ、瞳には深い絶望の色が浮かんでいる。
「アリアナ……君は……本当に、変わってしまったのだな……」
その声は、か細く、力なく震えていた。
「はい、殿下。私は変わりました。……いいえ、あるいは、これが本来の私だったのかもしれません。それを、見出す機会を与えてくださったのが、ライオネル様なのです」
私は、穏やかに、しかしはっきりとそう答えた。彼の目を見つめ返す私の瞳には、もう一片の迷いもなかった。
レオンハルト殿下は、私のその言葉に、そして私の隣で誇らしげに微笑むライオネル様の姿に、完全に打ちのめされたようだった。彼がどれだけ足掻こうとも、もう、私を取り戻すことなど不可能だと、ようやく悟ったのだろう。
それは、彼の完全なる敗北の瞬間だった。彼が自ら手放した幸せが、今、彼の目の前で、手の届かない場所で、美しく花開いている。その現実に、彼はただ立ち尽くすしかなかったのだ。
公式な会談の場や、歓迎の宴席。そういった場所で、レオンハルト殿下は何度も私に接触しようと試みてきた。時には甘い言葉で、時には脅迫めいた口調で、私をエスタードへ連れ戻そうとする。けれど、その度に、ライオネル様が間に立ち、彼の試みを冷静に、しかし断固としてはねつけてくれた。
「レオンハルト王子。アリアナは、私の婚約者であり、間もなくヴァルテンベルク公爵夫人となる女性だ。彼女の意思を無視した言動は、慎んでいただきたい」
ライオネル様のその言葉は、常に有無を言わせぬ迫力があった。レオンハルト殿下も、さすがにガルディアの最高権力者の一人であるライオネル様を前にしては、あからさまな強硬手段に出ることはできないようだった。
そして、レオンハルト殿下は、このガルディアで、嫌というほど思い知らされることになるのだ。自分が手放したものが、どれほど大きな価値を持っていたのかを。
ある夜、公爵邸で盛大な夜会が開かれた。それは、レオンハルト殿下を歓迎するという名目ではあったが、同時に、間近に迫った私とライオネル様の結婚を、内外に披露するという意味合いも込められていた。
その夜の私は、ライオネル様が特別に誂えてくれた、月光のように輝くシルクのドレスを身にまとっていた。髪には、彼から贈られたダイヤモンドのティアラが輝いている。エスタードにいた頃の、地味で自信なさげな私とは、まるで別人のようだ、と自分でも思う。
私は、ライオネル様のエスコートで、会場の注目を一身に浴びながら、堂々と歩を進めた。そして、集まった貴族たちや各国の使節たちと、笑顔で言葉を交わした。ガルディアの現状について、近隣諸国との関係について、時には専門的な知識を交えながら、自分の意見をはっきりと述べる。その姿は、多くの人々から称賛と敬意の目で見られているのが分かった。
レオンハルト殿下は、そんな私の姿を、会場の隅から、まるで信じられないものでも見るかのように、呆然と見つめていた。
彼は見たのだろう。私が、ただ美しいドレスを着飾っているだけではないことを。私が、ライオネル様に深く愛され、心からの信頼を寄せられていることを。そして何よりも、私が、自分の意思でこの場所に立ち、自分の言葉で語り、自分の力で輝いていることを。
かつて彼が「地味で華がない」と蔑んだ令嬢は、今や、誰よりも眩い光を放つ存在へと変わっていたのだ。そして、その変化をもたらしたのは、他の誰でもない、彼が最も見下していた「才能」と、そしてライオネル様という、真に彼女の価値を理解する人の愛だった。
夜会の途中、レオンハルト殿下は、ふらふらとした足取りで私の元へ近づいてきた。その顔は青ざめ、瞳には深い絶望の色が浮かんでいる。
「アリアナ……君は……本当に、変わってしまったのだな……」
その声は、か細く、力なく震えていた。
「はい、殿下。私は変わりました。……いいえ、あるいは、これが本来の私だったのかもしれません。それを、見出す機会を与えてくださったのが、ライオネル様なのです」
私は、穏やかに、しかしはっきりとそう答えた。彼の目を見つめ返す私の瞳には、もう一片の迷いもなかった。
レオンハルト殿下は、私のその言葉に、そして私の隣で誇らしげに微笑むライオネル様の姿に、完全に打ちのめされたようだった。彼がどれだけ足掻こうとも、もう、私を取り戻すことなど不可能だと、ようやく悟ったのだろう。
それは、彼の完全なる敗北の瞬間だった。彼が自ら手放した幸せが、今、彼の目の前で、手の届かない場所で、美しく花開いている。その現実に、彼はただ立ち尽くすしかなかったのだ。
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