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序章
第10話 私の練習相手
ここからが本題だ。
この男に見られたことは計算外だったが、ピンチはチャンスでもある。
この男、使えるかもしれない。
「クライブ。あなた、今休憩と言ったわよね?」
「え? あ、はい。少々小腹が空きましたので」
「今の時間は、騎士団の全体巡回演習の時間じゃないかしら? 父様が張り切って指揮を執っているはずの」
私の言葉に、クライブの顔色がサッと青ざめた。
礼儀正しい敬語が、一瞬崩れそうになる。
「げっ。な、なぜお嬢様がスケジュールを……」
「それくらい、把握してるわよ」
クライブは脂汗をかき始めた。
図星だ。この男、演習をサボってここでリンゴを齧っていたのだ。
「ふふふ。これは由々しき事態ね。父が知ったらどうなるかしら? 『私の精鋭部隊に、たるんでいる奴がいるとは!』って、雷が落ちるんじゃない?」
「お、お待ちください! お嬢様、それはご勘弁を! 先週も酷く叱責を受けたばかりなのです!」
クライブが慌てて手を合わせた。
しめた。弱みを握った。
「なら、取引をしましょう」
私は悪役のような笑みを浮かべて、彼を見上げた。
「私の魔法の件、父やアミナ、他の誰にも言わないで。これが第一の条件」
「もちろんです! 私も無用なトラブルは避けたいですし!」
「そして、第二の条件」
私はクライブの深緑色の騎士服を指差した。
「あなた、私の練習相手になりなさい」
「……はい?」
「だから、魔法の実験台兼、スパーリングパートナーよ。壁に向かって撃つだけじゃ、実戦感覚が掴めないもの。動く標的が欲しかったのよ」
クライブは絶句した。
六歳の幼女に、動く標的になれと言われて、即答できる大人はいないだろう。
「いやいや! 無理です! 万が一お嬢様に怪我でもさせたら、私は旦那様に首を刎ねられてしまいます!」
「大丈夫よ。あなたは避けるだけでいいの。それに、私の魔法は制御完璧だから、あなたを黒焦げにはしないわ。……たぶん」
「たぶんと仰いましたか!? 今、たぶんと!」
「とにかく! 私の魔法を見逃す代わりに、あなたもサボっていたことを見逃してあげる。ウィンウィンの関係でしょ?」
私は強引に畳み掛けた。
クライブは苦虫を噛み潰したような顔で、天を仰いだ。
そして、諦めたように肩を落とした。
「……はぁ。わかりました。付き合えばいいのでしょう、付き合えば」
「交渉成立ね! あ、それとクライブ」
「はい? まだ何が?」
「その堅苦しい喋り方、やめてくれない? 二人だけの秘密の共犯者なんだから、もっと楽にしていいわよ」
「きょ、共犯者……」
私がそう言うと、クライブは少し驚いた顔をして、それから急に力が抜けたように笑った。
それは、先ほどまでの騎士然とした表情とは違う、年相応の青年の顔だった。
「……マジかよ。お嬢様、変わってるって言われません?」
「昔から、よく言われるわ」
「わかったっすよ。じゃあ、お言葉に甘えて。……よろしく頼みますよ」
クライブはニカっと笑い、私の小さな手を握り返した。
「ただし、条件があるっす」
「なに?」
「絶対に無理はしないこと。顔色が少しでも悪くなったら即中止。あと、旦那様たちにバレそうになったら……」
「私が全力で庇ってあげるわ」
「言質取りましたよ。頼みますよ、マジで」
こうして、屋敷の裏庭にて、奇妙な関係――もとい、共犯関係が結ばれたのだった。
この男に見られたことは計算外だったが、ピンチはチャンスでもある。
この男、使えるかもしれない。
「クライブ。あなた、今休憩と言ったわよね?」
「え? あ、はい。少々小腹が空きましたので」
「今の時間は、騎士団の全体巡回演習の時間じゃないかしら? 父様が張り切って指揮を執っているはずの」
私の言葉に、クライブの顔色がサッと青ざめた。
礼儀正しい敬語が、一瞬崩れそうになる。
「げっ。な、なぜお嬢様がスケジュールを……」
「それくらい、把握してるわよ」
クライブは脂汗をかき始めた。
図星だ。この男、演習をサボってここでリンゴを齧っていたのだ。
「ふふふ。これは由々しき事態ね。父が知ったらどうなるかしら? 『私の精鋭部隊に、たるんでいる奴がいるとは!』って、雷が落ちるんじゃない?」
「お、お待ちください! お嬢様、それはご勘弁を! 先週も酷く叱責を受けたばかりなのです!」
クライブが慌てて手を合わせた。
しめた。弱みを握った。
「なら、取引をしましょう」
私は悪役のような笑みを浮かべて、彼を見上げた。
「私の魔法の件、父やアミナ、他の誰にも言わないで。これが第一の条件」
「もちろんです! 私も無用なトラブルは避けたいですし!」
「そして、第二の条件」
私はクライブの深緑色の騎士服を指差した。
「あなた、私の練習相手になりなさい」
「……はい?」
「だから、魔法の実験台兼、スパーリングパートナーよ。壁に向かって撃つだけじゃ、実戦感覚が掴めないもの。動く標的が欲しかったのよ」
クライブは絶句した。
六歳の幼女に、動く標的になれと言われて、即答できる大人はいないだろう。
「いやいや! 無理です! 万が一お嬢様に怪我でもさせたら、私は旦那様に首を刎ねられてしまいます!」
「大丈夫よ。あなたは避けるだけでいいの。それに、私の魔法は制御完璧だから、あなたを黒焦げにはしないわ。……たぶん」
「たぶんと仰いましたか!? 今、たぶんと!」
「とにかく! 私の魔法を見逃す代わりに、あなたもサボっていたことを見逃してあげる。ウィンウィンの関係でしょ?」
私は強引に畳み掛けた。
クライブは苦虫を噛み潰したような顔で、天を仰いだ。
そして、諦めたように肩を落とした。
「……はぁ。わかりました。付き合えばいいのでしょう、付き合えば」
「交渉成立ね! あ、それとクライブ」
「はい? まだ何が?」
「その堅苦しい喋り方、やめてくれない? 二人だけの秘密の共犯者なんだから、もっと楽にしていいわよ」
「きょ、共犯者……」
私がそう言うと、クライブは少し驚いた顔をして、それから急に力が抜けたように笑った。
それは、先ほどまでの騎士然とした表情とは違う、年相応の青年の顔だった。
「……マジかよ。お嬢様、変わってるって言われません?」
「昔から、よく言われるわ」
「わかったっすよ。じゃあ、お言葉に甘えて。……よろしく頼みますよ」
クライブはニカっと笑い、私の小さな手を握り返した。
「ただし、条件があるっす」
「なに?」
「絶対に無理はしないこと。顔色が少しでも悪くなったら即中止。あと、旦那様たちにバレそうになったら……」
「私が全力で庇ってあげるわ」
「言質取りましたよ。頼みますよ、マジで」
こうして、屋敷の裏庭にて、奇妙な関係――もとい、共犯関係が結ばれたのだった。
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