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序章
第17話 森に潜む悪意と黒き子猫
いや、ただの猫ではない。
闇夜を切り取ったような漆黒の毛並み、そして、尋常ではない魔力を宿している。
そして、その瞳は宝石のアメジストのように透き通った紫色をしていた。
高位の魔物、あるいは精霊の幼体か。
子猫は傷つき、泥まみれになりながらも、決して目を逸らさずに戦熊を睨み返している。
「てめぇ、魔力をかなり溜め込んでやがるなぁ。美味そうな匂いがプンプンするぜ」
巨熊は舌なめずりをし、斧を子猫の鼻先に突きつけた。
「俺たちはなぁ、もうすぐ村を攻めるんだよ。人間どもを皆殺しにして、肉も食料も奪い尽くす!」
私は思わず息を殺した。
村を、攻める?
聞き捨てならない情報だ。
この熊は、その先兵、あるいは指揮官クラスなのかもしれない。
「だが、あのお方を満足させるには魔力が足りねぇ。そこで、てめぇの出番だ」
戦熊は醜悪な笑みを浮かべ、巨大な足で地面を踏み鳴らした。
「俺の食料になってもらうぞ! 生きたまま魔力を啜り尽くしてやる! ありがたく思え、俺様の一部になれるんだからなぁ!」
「ミャ……ッ!」
子猫が悲鳴を上げ、後ずさる。
その小さな体は恐怖で震えているが、逃げ場はない。
なるほど。
弱い者をいたぶり、搾取し、自らの糧とする。
典型的な、そして最も唾棄すべき弱肉強食の理屈だ。
力を持つ者が持たざる者を蹂躙する。
それが森の掟であり、魔物の本能なのかもしれない。
けれど、気に食わないわね。
私の胸の奥で、静かな怒りの炎が灯った。
前世の私も、魔女として恐れられ、迫害された。
力のない者は奪われるだけの世界を見てきた。
だからこそ、こういう理不尽な暴力を目の当たりにすると、虫唾が走るのだ。
それに、あの子猫。
ふと、過去のデイルの言葉が脳裏をよぎった。
『どうぶつさん、かいたいな』
あの子猫……泥を落として怪我が治れば、きっと愛らしい姿になるだろう。
子猫なんて、デイルが見たら大喜びするに違いない。
戦う理由は、十分すぎるほど揃った。
相手は上位種。今の私の魔力じゃ、真っ向勝負は分が悪いか。
私は冷静に戦力分析をする。
一撃でも喰らえば即死。
持久戦になれば魔力切れで負け。
勝機があるとすれば、相手の油断を突いた速攻と、弱点への一点突破のみ。
心臓の鼓動が早くなる。
恐怖?
いや、武者震いだ。
クライブとの訓練はもう終わり。
ここからは、命を懸けた実戦だ。
私は深呼吸を一つ。
肺の中の空気をすべて入れ替え、私は隠れていた岩陰から、堂々と一歩を踏み出した。
乾いた枯れ枝を踏む音が、静寂な森に響き渡る。
「――あぁ?」
戦熊が動きを止め、ゆっくりと首を巡らせる。
その凶悪な双眸が、小さな私を捉えた。
「そこまでよ、デカブツ」
私の声は、六歳の少女にしては不自然なほど静かで、冷徹に響いた。
私はドレスの裾を翻し、仁王立ちで巨獣を見据える。
「その子は私が貰うわ。文句があるなら――かかってきなさい」
朝日が木々の隙間から差し込み、私と巨獣の間に細い光の境界線を引いた。
開戦の合図だ。
闇夜を切り取ったような漆黒の毛並み、そして、尋常ではない魔力を宿している。
そして、その瞳は宝石のアメジストのように透き通った紫色をしていた。
高位の魔物、あるいは精霊の幼体か。
子猫は傷つき、泥まみれになりながらも、決して目を逸らさずに戦熊を睨み返している。
「てめぇ、魔力をかなり溜め込んでやがるなぁ。美味そうな匂いがプンプンするぜ」
巨熊は舌なめずりをし、斧を子猫の鼻先に突きつけた。
「俺たちはなぁ、もうすぐ村を攻めるんだよ。人間どもを皆殺しにして、肉も食料も奪い尽くす!」
私は思わず息を殺した。
村を、攻める?
聞き捨てならない情報だ。
この熊は、その先兵、あるいは指揮官クラスなのかもしれない。
「だが、あのお方を満足させるには魔力が足りねぇ。そこで、てめぇの出番だ」
戦熊は醜悪な笑みを浮かべ、巨大な足で地面を踏み鳴らした。
「俺の食料になってもらうぞ! 生きたまま魔力を啜り尽くしてやる! ありがたく思え、俺様の一部になれるんだからなぁ!」
「ミャ……ッ!」
子猫が悲鳴を上げ、後ずさる。
その小さな体は恐怖で震えているが、逃げ場はない。
なるほど。
弱い者をいたぶり、搾取し、自らの糧とする。
典型的な、そして最も唾棄すべき弱肉強食の理屈だ。
力を持つ者が持たざる者を蹂躙する。
それが森の掟であり、魔物の本能なのかもしれない。
けれど、気に食わないわね。
私の胸の奥で、静かな怒りの炎が灯った。
前世の私も、魔女として恐れられ、迫害された。
力のない者は奪われるだけの世界を見てきた。
だからこそ、こういう理不尽な暴力を目の当たりにすると、虫唾が走るのだ。
それに、あの子猫。
ふと、過去のデイルの言葉が脳裏をよぎった。
『どうぶつさん、かいたいな』
あの子猫……泥を落として怪我が治れば、きっと愛らしい姿になるだろう。
子猫なんて、デイルが見たら大喜びするに違いない。
戦う理由は、十分すぎるほど揃った。
相手は上位種。今の私の魔力じゃ、真っ向勝負は分が悪いか。
私は冷静に戦力分析をする。
一撃でも喰らえば即死。
持久戦になれば魔力切れで負け。
勝機があるとすれば、相手の油断を突いた速攻と、弱点への一点突破のみ。
心臓の鼓動が早くなる。
恐怖?
いや、武者震いだ。
クライブとの訓練はもう終わり。
ここからは、命を懸けた実戦だ。
私は深呼吸を一つ。
肺の中の空気をすべて入れ替え、私は隠れていた岩陰から、堂々と一歩を踏み出した。
乾いた枯れ枝を踏む音が、静寂な森に響き渡る。
「――あぁ?」
戦熊が動きを止め、ゆっくりと首を巡らせる。
その凶悪な双眸が、小さな私を捉えた。
「そこまでよ、デカブツ」
私の声は、六歳の少女にしては不自然なほど静かで、冷徹に響いた。
私はドレスの裾を翻し、仁王立ちで巨獣を見据える。
「その子は私が貰うわ。文句があるなら――かかってきなさい」
朝日が木々の隙間から差し込み、私と巨獣の間に細い光の境界線を引いた。
開戦の合図だ。
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