24 / 63
序章
第24話 小さな指先が描く軌跡
しおりを挟む
翌朝。
空は突き抜けるような青さに包まれ、絶好の「演習日和」となっていた。
私は朝食を早々に済ませると、父ローウェンとの約束通り、屋敷の裏手にある練兵場――普段は騎士たちが訓練を行う広場へと向かった。
足取りは重くない。むしろ、これからのことを思うと高揚感すらある。
「おねえちゃん、まってー!」
「ミャウ!」
私の後ろから、元気な足音と軽い鳴き声がついてくる。
弟のデイルと、黒猫のクロだ。
クロは翼もないのに、ふわりふわりと重力を無視して宙を泳ぎ、デイルの頭の上に着地したり、私の肩に飛び乗ったりと自由気ままに振る舞っている。
「こらデイル、走ると転ぶわよ」
「だいじょうぶ! クロちゃんがいるもん!」
デイルは満面の笑みだ。
昨日の今日で、すっかりクロと仲良くなっている。
どうやらクロの方も、無邪気なデイルのことが気に入ったらしい。
この平和な光景を守るためにも、今日のプレゼンテーションは絶対に失敗できない。
練兵場に到着すると、そこにはすでに観客たちが勢揃いしていた。
腕を組み、仁王立ちで待ち構える父、ローウェン。
不安そうに両手を握りしめている母、ヘルミナ。
そして、私の背後に音もなく控えるメイド長のアミナをはじめ、屋敷中のメイドや使用人たちが、興味津々といった様子で遠巻きに見守っている。
まるで公開処刑か、あるいはサーカスの開演前のような緊張感だ。
「……待っていたぞ、エルシア」
父の重厚な声が響く。
その表情は、昨晩の優しい父親の顔ではなく、領地を守る騎士団長の顔だった。
「約束通り、お前の『力』を見せてもらう。だが、言っておくが私は甘くないぞ。少しでも危険だと判断すれば、即座に中止させる」
「はい、望むところです」
私はスカートの裾を摘んで一礼し、広場の中央へと進み出た。
父の懸念はもっともだ。
魔力欠乏の六歳児が、魔法を使う。
それだけで自殺行為に見えるだろう。
だからこそ、私は技術で証明しなければならない。
「アミナ、あれを」
「はい」
父が合図すると、アミナが用意していた的を並べた。
厚さ五センチほどの木の板を三枚。
それぞれ十メートルほど離れた位置に設置されている。
普通のファイアボールなら、表面を焦がすのが精一杯の距離と厚みだ。
戦熊のような上位魔物は、鋼鉄のような毛皮を持っている。
木の板を焦がす程度の火力では、くすぐったくもないだろう。
「見ていてください」
私は右手を前に突き出した。
深呼吸を一つ。
クロが心配そうに「ミャ?」と鳴いて、私の足元に寄り添う。
大丈夫。今の私は、昨日の私よりも上手くやれる。
「酸素よ集え、一点に宿れ――《ヒート・バレット》」
短く、鋭く詠唱する。
私の指先に、ルビーのように赤く輝く光球が生成された。
「小さい……」
メイドたちのひそひそ話が聞こえる。
父も失望の色を隠そうとしていない。
だが、真価はここからだ。
シュッ!
私が指を振ると同時に、熱弾が射出された。
その速度は、弓矢を遥かに凌駕する。
一枚目の板に直撃――するかと思われた瞬間。
「曲がれ!」
クッ!
熱弾は直前で直角に軌道を変え、板を回避した。
そしてその背後にある二枚目の板へ向かい、さらにS字を描いて回避。 まるで意思を持った生き物のように空を舞う。
「なっ……なんだあれは!?」
父の目が大きく見開かれた。
単純な射出魔法ではない。発射後の遠隔制御《リモート・コントロール》。
宮廷魔導師でも扱える者は少ない高等技術。
でも、私にはできる。
魔女として積み上げた経験と技術があるから。
魔力量なんて関係ない。
私は熱弾を再び操り、一枚目の板の前へと誘導した。
「――貫け!」
一枚目、二枚目と一直線に貫通し、最後の三枚目へ。
私はその中心に描かれた小さな黒点を指差す。
熱弾が一気に加速した。
空気を裂き、ただ一点へ。
ジュッ!
乾いた音と共に、板の中心に小さな穴が空いた。
爆発も、炎上もしない。
ただ、板の裏側まで綺麗に貫通し、その先の地面に突き刺さってジュウと白煙を上げた。
静寂。
誰も言葉を発しない。
板が燃えていないからではない。
その穴の断面が、まるで高熱の針でくり抜いたように、炭化して焼き固められていたからだ。
「……貫通力、そして精密誘導」
父が呻くように呟いた。
「すごい! おねえちゃん、かっこいいー!」
空は突き抜けるような青さに包まれ、絶好の「演習日和」となっていた。
私は朝食を早々に済ませると、父ローウェンとの約束通り、屋敷の裏手にある練兵場――普段は騎士たちが訓練を行う広場へと向かった。
足取りは重くない。むしろ、これからのことを思うと高揚感すらある。
「おねえちゃん、まってー!」
「ミャウ!」
私の後ろから、元気な足音と軽い鳴き声がついてくる。
弟のデイルと、黒猫のクロだ。
クロは翼もないのに、ふわりふわりと重力を無視して宙を泳ぎ、デイルの頭の上に着地したり、私の肩に飛び乗ったりと自由気ままに振る舞っている。
「こらデイル、走ると転ぶわよ」
「だいじょうぶ! クロちゃんがいるもん!」
デイルは満面の笑みだ。
昨日の今日で、すっかりクロと仲良くなっている。
どうやらクロの方も、無邪気なデイルのことが気に入ったらしい。
この平和な光景を守るためにも、今日のプレゼンテーションは絶対に失敗できない。
練兵場に到着すると、そこにはすでに観客たちが勢揃いしていた。
腕を組み、仁王立ちで待ち構える父、ローウェン。
不安そうに両手を握りしめている母、ヘルミナ。
そして、私の背後に音もなく控えるメイド長のアミナをはじめ、屋敷中のメイドや使用人たちが、興味津々といった様子で遠巻きに見守っている。
まるで公開処刑か、あるいはサーカスの開演前のような緊張感だ。
「……待っていたぞ、エルシア」
父の重厚な声が響く。
その表情は、昨晩の優しい父親の顔ではなく、領地を守る騎士団長の顔だった。
「約束通り、お前の『力』を見せてもらう。だが、言っておくが私は甘くないぞ。少しでも危険だと判断すれば、即座に中止させる」
「はい、望むところです」
私はスカートの裾を摘んで一礼し、広場の中央へと進み出た。
父の懸念はもっともだ。
魔力欠乏の六歳児が、魔法を使う。
それだけで自殺行為に見えるだろう。
だからこそ、私は技術で証明しなければならない。
「アミナ、あれを」
「はい」
父が合図すると、アミナが用意していた的を並べた。
厚さ五センチほどの木の板を三枚。
それぞれ十メートルほど離れた位置に設置されている。
普通のファイアボールなら、表面を焦がすのが精一杯の距離と厚みだ。
戦熊のような上位魔物は、鋼鉄のような毛皮を持っている。
木の板を焦がす程度の火力では、くすぐったくもないだろう。
「見ていてください」
私は右手を前に突き出した。
深呼吸を一つ。
クロが心配そうに「ミャ?」と鳴いて、私の足元に寄り添う。
大丈夫。今の私は、昨日の私よりも上手くやれる。
「酸素よ集え、一点に宿れ――《ヒート・バレット》」
短く、鋭く詠唱する。
私の指先に、ルビーのように赤く輝く光球が生成された。
「小さい……」
メイドたちのひそひそ話が聞こえる。
父も失望の色を隠そうとしていない。
だが、真価はここからだ。
シュッ!
私が指を振ると同時に、熱弾が射出された。
その速度は、弓矢を遥かに凌駕する。
一枚目の板に直撃――するかと思われた瞬間。
「曲がれ!」
クッ!
熱弾は直前で直角に軌道を変え、板を回避した。
そしてその背後にある二枚目の板へ向かい、さらにS字を描いて回避。 まるで意思を持った生き物のように空を舞う。
「なっ……なんだあれは!?」
父の目が大きく見開かれた。
単純な射出魔法ではない。発射後の遠隔制御《リモート・コントロール》。
宮廷魔導師でも扱える者は少ない高等技術。
でも、私にはできる。
魔女として積み上げた経験と技術があるから。
魔力量なんて関係ない。
私は熱弾を再び操り、一枚目の板の前へと誘導した。
「――貫け!」
一枚目、二枚目と一直線に貫通し、最後の三枚目へ。
私はその中心に描かれた小さな黒点を指差す。
熱弾が一気に加速した。
空気を裂き、ただ一点へ。
ジュッ!
乾いた音と共に、板の中心に小さな穴が空いた。
爆発も、炎上もしない。
ただ、板の裏側まで綺麗に貫通し、その先の地面に突き刺さってジュウと白煙を上げた。
静寂。
誰も言葉を発しない。
板が燃えていないからではない。
その穴の断面が、まるで高熱の針でくり抜いたように、炭化して焼き固められていたからだ。
「……貫通力、そして精密誘導」
父が呻くように呟いた。
「すごい! おねえちゃん、かっこいいー!」
248
あなたにおすすめの小説
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
150年のりんご採取で異世界最強の大魔導士になった私は、林檎の聖女と讃えられ可愛い弟子たちと平和なスローライフを満喫します!
風戸輝斗
ファンタジー
「誰かのためにがんばれる子になりなさい」という母からの教えを忠実に守り過労死した降幡理央は、プリオリという若々しい少女となって魔法やモンスターが存在する異世界に転生する。
彼女が転移した地は「林檎の森」と呼ばれる(結界が張られているために世界からは隔絶されている)場所だった。
どれだけ採取しても底尽きることのないりんごであふれるその森で、プリオリはりんご採取の日々に明け暮れる。その間、彼女のスキルである【採取】が機能し、それによりりんごを採取するだけで経験値が入る。
そんな日々を150年繰り返し、プリオリは異世界最強の魔導士となる。
結界の存在を知らず異世界に存在する人間は自分ひとりだけだと思っていたプリオリだが、意図せず結界を壊したことで世界が拓け、人間と交流を育むようになる。
林檎の森が突如現れた謎の地であるため、そこに住んでいたプリオリは魔女だと恐れられ皇女から処刑宣告までされてしまうが、人間と魔族の争いに終止符を打つことで不信感は払拭される。そして、世界を救った林檎の聖女だと人間と魔族双方から讃えられるようになる。林檎の森の聖女様だから、林檎の聖女である。
こうしてはじまる林檎の聖女となったプリオリの新たなスローライフ。
ダンジョンの奥底で助けた謎の金色もふもふペットメープルとふたりで過ごす日常に、盗みたくないけど盗みを繰り返していた13歳の少女モカモカが弟子として加わり、魔族王妃の娘であり人類滅亡を悲願とする13歳の少女ギルティアも弟子として加わって……。
これは、異世界最強の魔導士である林檎の聖女様がスローライフを満喫しようとする物語。
あるいは、お師匠様として、お母さんとして、ふたりの少女を幸せに導こうと奮闘する物語。
※「小説家になろう」「カクヨム」様にもマルチ投稿しています。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる