破滅確定の悪役貴族、【絶対快眠】スキルで最強魔法使いになったので、学園スローライフを満喫する

空月そらら

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1章

第18話 謎の剣士少女と、キャンプ料理

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 俺は少女を自分のキャンプ地へ案内した。

 ちょうど昼前だし、釣ったばかりの魚を塩焼きにしてもいい。
 
「えっと、食べやすいように下処理を……」
 
 魚の鱗や内臓を取る作業は初めてだけど、魔法で少し水を呼び出しながら慎重に進める。

 幸いそんなに難しくはない。
 
 そして、その魚に軽く塩を振って、焚き火の上に金串代わりの棒を渡し、じっくり炙る。

 隣では少し野菜を煮込み、簡単なスープも用意する。
 
 少女は少し離れたところで腕組みして見ている。

 警戒はまだ解いてないようだ。

 でも、お腹が空いているせいか、魚の匂いが漂うたびにチラチラこっちを見てくるのがおかしい。

「……ほんとに、私にくれるわけ?」
 
「もちろん。ほら、ちょうど焼けてきたよ」

 俺は慎重に串を取り、皿代わりの木の板に乗せる。

 ジュウジュウと音を立てる焼き魚は、香ばしくて食欲をそそる。
 
「熱いから気をつけて。んじゃ、いただきます」

 俺も一口かぶりつく。

 魚の旨味が口いっぱいに広がり、川魚特有の淡白な味わいが塩加減と合わさってちょうどいい。
 
「どう? 君も食べてごらん」

 少女は警戒気味に串を手に取り、恐る恐るかじる。

 すると、その瞳が一瞬驚きに見開かれる。
 
「……おいしい……。こんなの久しぶり」
 
「そうか、よかった」

 ホッと胸をなで下ろす。

 うまく焼けてなかったらどうしようかと不安だったんだ。
 
 しばらく無言でかぶりついていた少女は、やがてスープにも口をつけ、「はぁ……」と微かな安堵の吐息を漏らした。

「その、ありがとう。助かったわ。まさかこんな場所で、こんなにちゃんとした食事ができるなんて思わなかった」
 
「いやいや、俺も釣り初心者だけど、なんとかなるもんだな。そういえば、まだ名前聞いてないよね? 俺はレオン。レオン・ラーザル・グランフィードだ」

 そう名乗ると、少女は少し目を丸くした。
 
「グランフィード……? 貴族の家じゃない。そんな人が、一人でこんな場所まで来るなんて珍しいわね」
 
「ちょっとした気まぐれでね。君は?」

 少女は一瞬迷ったようだけど、やがて木刀を置いて背筋を伸ばした。
 
「私はフローラ・ライド・レイフォード。王城近くで生まれ育ったけど、今は少し家を出て修行している身……ってとこかしら。あんまり深くは聞かないで」
 
「そっか、フローラか。いい名前だね」

 フローラ……やっぱり。原作の記憶では、ピンク髪の女剣士ヒロインの名前がそんな感じだった気がする。

 将来は王城で騎士として才能を認められ、最終的には王宮No.2にまでなる――そういうサクセスストーリーがあったような。
 
 でも、今はまだ何か理由があって放浪中なんだろう。

「ねえ、レオンは何でこんな所にキャンプしに来てるの? グランフィード家の人なら、使用人がずらりと付き従うはずでしょ」
 
「それが、まあ……一人で自由にやりたくてさ。前世……じゃない、前からあんまり自由がなかったんだ。だからこの機会に、自然を満喫しようと思ってね」

 半分は本当のことだ。

 俺はただ、前世で叶えられなかった外の世界を味わっているだけ。
 
 フローラは木刀を見やりながら、ぽつりと呟く。
 
「私は、強くなりたいだけ。この国には凄い剣士や魔法使いが山ほどいる。でも、家にいても誰も私を真剣に見てくれない。だから、自分で修行して実力を示すしかないって思ったの」
 
「へぇ……それで、こんな野外で修行してたのか」

 確かに、あの木刀の振りには素人以上の鋭さが感じられた。

 けれど、効率的かというと疑問が残る。

 たぶん誰か師匠がいればもっと伸びるんだろうが……もしかして家と折り合いが悪いのか?

「ねえ、よかったら、ちょっとだけお互いの“力”を確かめ合わない? 貴族なら剣術と魔法もそれなりに習うはずだし」
 
「えっ、勝負するってこと? でも、俺はまだ修行中で……」

 俺のスキルは“絶対快眠”。疲労回復には向いているけど、直接の戦闘力じゃない。

 魔法も習得したばかりで、超がつくほど弱いはず。
 
 フローラはやや期待するような顔で言う。
 
「実戦じゃなくていいの。模擬戦……手合わせ程度で。私も人と剣を交える機会がほとんどなくてね。ちょっとだけ、頼めない?」

 その瞳は真摯だった。

 強さを求める者のまなざし。

 俺も、レオンとしての修行の成果を誰かに試してみたい気持ちはある。

 ただ、一つ気がかりなのが。
 
「も、模擬戦は良いんだけどさ……俺、剣は全然扱えないよ?」
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