破滅確定の悪役貴族、【絶対快眠】スキルで最強魔法使いになったので、学園スローライフを満喫する

1章

第30話 エリシア視点・ウェントワースの憂鬱

　一方その頃。
　
　王都の宮廷区域から少し離れた場所に建つ、ある公務用の離宮――そこに、青髪の美貌を持つ宮廷魔術師、エリシア・ウェントワースがいた。
　
　急用で呼び出されたのは、王城内での魔力障壁の調整や、他国要人が滞在するときの結界構築など。

　若き天才として名高いエリシアは、短期での大仕事を任されていたのである。

「はぁ……。これで一通り終わったかしら。……もう、急ぎの要件って言うから何かと思ったら、半分は書類仕事じゃないの」

　エリシアは伸びをしながら、軽く溜息をつく。

　通常なら数日以上かかる大規模な結界作業や調整も、彼女の的確な魔力制御と頭脳明晰さですんなり片付いた。
　
　上司の高級魔術師たちからは「さすがエリシア様」と賞賛されたものの、あまりに押し付けがましい仕事量にストレスが溜まってしまったのは事実だ。

「それにしても、レオン様、大丈夫かしら。私がいない間にまた何か無茶なことをしてなければいいのだけど」

　エリシアがグランフィード家に派遣されてから、レオンは毎日のように魔法訓練に打ち込み、見違えるほど成長を見せている。
　
　しかし、彼は危なっかしい面もある。

　学園に入る前に、彼がトラブルを起こしてしまうのではないかと、エリシアは心配しているのだ。

「けれど、彼の魔法の才能は侮れないわね。火属性だけでなく、多少は土や風も扱えるようになっていたし。“絶対快眠”のスキルがあれば、長時間の訓練にも耐えられる……。まさかあれほど相性がいいとは」

　そう思い返すと、不思議な感覚になる。
　
　最初は“外れスキルの愚弟”と周囲に噂されていたが、実際に教えてみれば熱心に学び、驚くほどの集中力で魔力を練る。

　それも、仮眠による回復が大きなアドバンテージとなっているのだろう。
　
　今頃、彼はどこに行ったのか。

　グランフィード家の人々によれば、数日ほど馬車で出かけてしまったという話。

「ふぅ……。一人でキャンプですって？　大丈夫かしらね。危険な魔物に襲われたりしてないか……」

　実際、レオンが危険に遭遇している可能性はある。

　しかし、エリシアは彼を信じることにした。

　彼は既に魔法をそこそこ扱えるレベルまで来ているし、何より自分の意志で何かを成し遂げようとしている。

　その矜持を尊重したいのだ。

「まあ、私が帰邸すれば、いずれ彼も戻ってくるでしょう。あの子がどんな顔をして帰ってくるのか、楽しみでもあるわ」

　エリシアはそう呟きながら、荷物をまとめ、馬車を手配してグランフィード家に戻ることにする。

　急用はすべて片付けたし、あとはレオンとの再会を待つばかりだ。

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