悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう

1章

第54話 『黒神』の会議 セフィリア視点

「レードが死んだようだ」

　そう、私は言う。

　私の名はセフィリア、『黒神』のリーダーであり、この組織をまとめる人間だ。

　身長は高く、しなやかな体躯を持ち、漆黒の長髪は背中にまで達し、まるで暗闇そのものを纏っているかのようだ。

　私の瞳は深い藍色で、まるで無限の闇を覗き込んでいるかのように冷徹であり、感情を読み取ることは難しい。

　肌は蒼白で、いつも冷たい空気をまとっているような印象を与える。

　冷たく響く声が、地下に広がる静寂を切り裂く。

　周囲に座る幹部たちは、一瞬驚いたように目を見開くが、すぐに沈黙のうちに状況を受け入れた。

　この深き地下にて、まるで会議のような形で席に人が座っている。

　無数の蝋燭が辺りを薄暗く照らし、その灯火は壁にうねるような影を描いている。

　冷気が肌を刺し、石造りの床は音もなく沈黙を飲み込む。

　だが、この場の空気をさらに重くしたのは、私が告げた言葉だ。

「貴重な駒だったが、残念じゃのう」

　向かい側に座る老人、グレン爺が重々しい声を漏らした。

　グレン爺の眉間には深い皺が刻まれ、その目は遠い記憶を見つめるように虚ろだ。

　グレン爺は、身長こそ低いが、背中は曲がり、手足には年齢の影響を感じさせるものの、全体的には鋭い眼差しを持つ人物。

　何より、その目はただの老人のそれではなく、幾多の戦闘と魔術の歴史を見てきた者のものだ。

　三属性までの魔法を自在に操り、第五級から第四級魔法までを行使できる稀代の魔術師。

　その存在感だけで、この場の雰囲気を異様なものにしている。

　身につけている魔術師のローブも、いささか年季が入っており、魔法の気配を帯びた深緑色をしている。

　白髪交じりの頭を軽く振り、残念そうにため息をつく。

「確かにそうですな。奴は性格に難はありましたが、戦闘に関しては天才だった」

　別の幹部が同調するように呟く。

　皆の表情は険しく、どこか悔しさをにじませている。

　レードは元暗殺者であり、戦闘員として活動していた。

　性格は尖っていたが、その実力は誰もが認めるところだった。

　それだけに、この損失は大きい。

　私も無言で頷いた。

　レードの戦闘センスには私も一目を置いていたのだ。

　それを思うと、胸の奥が鈍い痛みを訴える。

　だが、それを表に出すことは許されない。

　リーダーとして、感情を隠し通すのが私の役目だ。

「レードが死んだのは『魔法の森』だ。一体誰がやったのやら」

　私は言葉を続ける。

　その声には冷静さを装っているものの、隠しきれない苛立ちが滲んでいた。

　今回の任務でレードに課したのは、魔物が大量発生している『魔法の森』への潜入と、レッドストーンの回収だった。

　この石があれば、あの伝説の魔物を召喚するための最後のピースが揃う。

　ここまでの道のりは長かったが、悲願達成まであと一歩というところで、まさかこんな事態になるとは。

「情報によると、どうやら魔法の形跡があったらしいんじゃが……第三級魔法だとのう」

　グロン爺が肩を落としながら続ける。

　その声には憤りと虚しさが交じり合っていた。

　第三級魔法、この世界でそれを行使できる者は、ごく僅かだ。

　伝説的とも言えるその魔法を使えるのは、現在確認されているだけでフィオガルラ王国の二名。

　その一人が公爵家のデリック。

　魔術を極めた天才であり、その名は誰もが知る。

　もう一人は、冒険者ランキング3位のパーティー『白い翼』に所属するミリア。

　第二王女のラール陣営に属する彼女とは、我々『黒神』にとって敵対者だ。

「第三級魔法が使える人物、デリックとミリアは『魔法の森』には行っていないとの情報が入っている。つまり、それ以外に第三級魔法を使える者がいるということだが……」

　私は言葉を切った。

　自分の声がわずかに震えたことに気付く。

　未知の脅威、それがどれほどの不安を呼び起こすかを嫌というほど理解していた。

「検討もつかんのう」

　グロン爺の言葉が、幹部たちの間に沈黙を広げる。

　この地下空間には、冷たい空気が支配していた。

　デリックやミリア以外に第三級魔法を使う人物は王国内に存在しない。

　少なくとも、今まではそう考えられていたのだ。

「冒険者の可能性が高いのではないのか？」

　ふと、グロン爺の近くに座る一人が提案した。

　その言葉は私の脳裏に微かな閃きを生む。

　確かに、冒険者は未知の領域に足を踏み入れ、新たな力を発見することがある。

　しかし、第三級魔法のような高度な技術を、単なる冒険者が習得するなど、本当にあり得るのだろうか？

「冒険者の中でも、特に異端と呼ばれる者たちか……」

　私は独り言のように呟いた。

　だが、その可能性を完全に否定することはできなかった。

　彼らはしばしば常識を超えた力を持ち、時には歴史そのものを動かしてきたのだ。

「ひとまず、情報網を展開し、情報を収集しなくてはな」

　私は全員に向けて断言する。

　このような事態を防ぐために、私たちはもっと徹底的に情報を集めるべきだったのだ。

　この失敗を繰り返さないためにも、まずは敵の正体を暴き、次なる手を打たなければならない。

　だが、心の奥底で何かがざわついている。

　この未知の存在、ただの敵対者では済まない予感がするのだ。

　レードを葬った者。

　その力の正体を知るとき、私たちは想像を超える脅威に直面するのかもしれない。

　その思いが胸に影を落としていたが、私は次に切り替えて話を変える。

　「それでは次の話に移るが、『暗闇の洞窟』での魔法書売買は順調に行っているか？」