悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう

空月そらら

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1章

第56話 タフな奴

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「くっ!」

 リザラが驚愕の声を上げる。

 巨大なゴーレムの攻撃が予想以上に速い。

 鈍重な見た目からは想像もつかない速度で、その腕がリザラを狙って振り下ろされる。

 リザラは辛うじて回避するものの、少しでもタイミングが遅れていたら致命傷になりかねなかっただろう。

「リザラ、油断するな!」

 俺がそう叫ぶと、リザラは小さく頷き、慎重に間合いを取る。

 しかし、その目は驚きと焦りを隠しきれていない。

 まあ、無理もない。

 洞窟の守護者であるゴーレムは、他の魔物とは一線を画す存在だ。

 圧倒的な耐久力と巨体から繰り出される攻撃は、一撃で周囲を瓦礫の山に変えるほどだ。

 だが、それでも俺の敵ではない。

《第四級魔法/エアー・ショット》

 俺は手を銃のような形にして、空気を放ち、ゴーレムの目を狙う。

 目には、赤く輝く宝石が埋め込まれている。

 あれがゴーレムの動力源であり、いわば急所だ。

 普通ならば、あの小さな目を狙うのは至難の業だが、俺にとっては違う。

「……ハッ!」

 指先から放たれた透明な魔力弾が一直線にゴーレムの目を貫く。

 その動きには一切の無駄がない。

 スキル《賢王》の恩恵による精密な魔力制御が可能にしている芸当だ。

「グエエエエエエエッ!?」

 魔力弾が命中すると、ゴーレムはけたたましい叫び声を上げた。

 両手を頭に押し当て、激しくのたうち回る。

 周囲の岩壁がその巨体の暴れによって崩れ落ち、洞窟全体が地震のように揺れる。

「効いてるな……だが、しぶとい」

 ゴーレムは最後の力を振り絞るかのように、両腕を高く振り上げた。

 そして、全身の重量を乗せて地面に叩きつける。

 その衝撃は想像以上で、洞窟全体が大きく揺れた。

「グオオオオオオ!」

 轟音と共に、天井から岩が次々と崩れ落ちる。

 このままではリザラにも被害が及ぶ。

「まずいな……これ以上はさせるか!」

 俺は即座に魔法を発動する。

《防御魔法/バリア・シールド》

 青白い光の幕が俺とリザラを覆う。

 その瞬間、崩れ落ちた岩がバリアにぶつかり、激しい音を立てて弾き飛ばされた。

 何とか防ぎ切ったものの、バリアを維持するためにかなりの魔力を消耗してしまった。

「リザラ、大丈夫か?」

「う、うん。ありがとう、アレン」

 リザラは少し震えながらも、俺に微笑みを向ける。

 その表情には安心感が漂っていた。

 俺は軽く頷き、崩落が収まるのを待つ。

 すると、ゴーレムの巨体が音を立てて崩れ落ちた。

 ついに奴は完全に沈黙したようだ。

「やれやれ、タフな奴だったな」

 俺はゴーレムの無機質な顔を見つめながら、安堵の息を漏らす。

 どんなに強敵であろうと、弱点さえ突けば倒せる。

 だが、ここまで手強い相手は久しぶりだ。

「アレン……本当にすごいわね! あの目を正確に狙えるなんて、普通じゃありえないわ!」

 リザラが駆け寄ってきて、目を輝かせながら俺を褒め称える。

 彼女の興奮ぶりに少しだけ気恥ずかしさを覚えるが、まあ悪い気はしない。

「まあ、これは俺のスキルのおかげだな」

「アレンのスキルってどんなの? ただの精度向上だけとは思えないんだけど」

 俺は少しだけ間を置いて、言葉を選んだ。

「……魔法の精度を極限まで高めるスキルさ。大したことはないよ」

 『大したこと』はない、というのはもちろん嘘だ。

 実際には、このスキル《賢王》は俺の前世のゲームで最強のスキルの一つだった。

 すべての魔法を正確無比に操ることができるこのスキルは、取得確率が数%という超レアなものだ。

 前世であれだけの時間を費やしてようやく手に入れたスキルだからこそ、その真価を十分に理解している。

「さて……これで洞窟の守護者はいなくなった。あいつらの逃げ場ももうないだろう」

「うん。早く奥に進んで、奴らを追い詰めましょう」

 リザラは再び緊張した表情を取り戻し、先を促すように手を握りしめる。

 俺たちは互いに頷き合い、ゴーレムの倒れた先に広がる暗闇へと足を踏み入れた。

 洞窟の奥からは冷たい風が吹き抜けてくる。

 視界がほとんど効かないほどの暗闇だが、俺は魔法で光源を生み出し、慎重に進んでいくのだった。
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