異世界での異生活

なにがし

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6話 この世界での仕事は選択肢がない

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「神々が住む世界を我々は天界と呼んでいます。アリアドネ様はその天界から来られた神様です。神様は不死なので、死ぬことはありません。ですが、この世界に存在する肉体がある以上、肉体の限界があります」
「その限界とは、どういう状態なのですか」
「怪我や病気などの肉体異常なら魔法や薬で治せますし、高齢で代謝が落ちることもないので、時間的限界はないです。首を切られたり、心臓を潰されたりする、いわゆる即死の状態になれば、限界になるでしょう。また、対処の分からない毒や病気に侵されたりしても同様でしょう」
「では、限界がきたら、どうなるのですか?」
「肉体を残して、天界に帰る」

 それまで、黙って聞いていたシンシアが口を挟んだ。

「まさかアリ姉さんは、天界に帰った?昨夜、調子悪そうにしていたけど‥死んだの?」

 シンシアの瞳から大粒の涙がこぼれる。ヤスオは、その考えには懐疑的だ。そうだとしたら、自分がここに来た理由がないように思えるからだ。

「そう結論を急ぐな。“神が天界に帰る時、空に向かって光の柱が立つ”と言う伝承がある。昨夜、そのようなものが現れれば大騒ぎになっていただろう。それが、なかったということは…な」

 シンシアは顔を上げ、組合長につかみかかる。

「アリ姉さんは、まだこの世界にいる?どこ、どこにいるの?」

 組合長は、それを私に聞くなと言いたげな表情をし、シンシアを突き放す。

「それは分からん。だが、アリアドネ様の肉体は昨夜、限界を迎えた。そのため、ヤスオさんを転生させることにより、アリアドネ様の精神はこの世界に留まることができた。そういう事なのだろう」

 シンシアは、納得いかない様子でヤスオを睨みつける。

「なんで、こんなボンクラそうな奴を転生させる必要があったの?」

ボンクラ、その言葉を久しぶりに聞き懐かしくも思った。ただ、堂々と愚弄され対応に困る。何か言い返そうかと思ったが、そのような雰囲気ではなかった。

「それも分からん。今持っている情報だけでは、これ以上は何も分からん。ただ、アリアドネ様がこの世界にいるのなら、何らかの方法で我々に連絡してくるだろう。それを待つしかない」
「…そう、ですね」

 シンシアは肩を落とし、両手で顔を覆い隠し泣き崩れた。
結局、神は寿命がないだけで、人と同じ条件で死ぬ。死後、帰る場所が違うだけで、2度と会えなくなるのは一緒だ。
 この世界の神とはどんな存在なのか?ヤスオの疑問は、増えるばかりだった。


「さてヤスオさん。これからなのですが、まずはこの水晶に手をかざしてください」

 そう言うと、組合長は紙とインクと羽ペンをテーブルの隅に追いやり、シンシアが持ってきた水晶をヤスオの前に置いた。これはおそらく魔力測定器とかじゃないだろうか。だとしたら、この世界には魔法があるのか。
そんなことを思いながら言われた通り、水晶に手をかざした。

「ん?うぅぅん」

 組合長は水晶を覗き込み、首を傾げた。そして、頭を掻きながら、報告書に目をやる。

「はぁ?」

 泣いていたシンシアも水晶をチラ見すると、二度見をして目を見開いた。あり得ない光景に、声を張り上げ泣くのを忘れた。

「これは、魔力を測定する水晶なのですが…」

 組合長は困った顔をして、とても言いづらそう。シンシアの反応を見る限り、とんでもない数字が出たのは分かる。自身にチート能力が身についたと期待に満ちる。

「”0”ですね。こんなことあるのかな?」

 報告書をさらに読み進める。ページをめくったり、戻したりして何度も読み返す。せっかくの異世界なのに、魔法が使えない。理不尽に思えて、泣きたい気分になった。だが、それ以上に大きな問題があった。

「ねぇ。あなたはなぜ、生きているの?」

 シンシアは、真剣な表情で話す。それは、悪意でも敵意でもなく単純な疑問だった。

「ど、どういうことでしょう」

 質問の意味が分からない。どう答えていいかわからず、まばたきの回数だけが増えた。

「あのね、魔力って生きる為に必要なエネルギーそのものなの。だから、体を動かすのはもちろん、息をするだけでも魔力が必要なの。魔力”0”というのは死を意味することなのよ」

 あーそういうことか。納得したら血の気が引いた。じゃあ俺、死んでいるのか?自分はひょっとしたら、ゾンビなのかと自分自身に疑いをかけた。でも、ゾンビは魔力が”0”なのか。動いている以上、ゾンビにも魔力があるのでは?だとしたら、俺は何。

──バン。

 組合長が報告書を読み終え、報告書を閉じた。

「いや、理由は分からんが転移直後は、正確に測定ができず著しく低い数字が出るようだ。まぁ、”0”は歴代最低のようだが」

 どうやら報告書にそのような記述があったようだ。報告書をシンシアに渡し、改めてヤスオの顔をみた。

「報告書を全部読んだが、転移者が元の世界に戻った例はない。ヤスオさんはこの世界で生きていくしかないようだ。だとしたら、稼がねばならない。この世界で身寄りのない人ができる仕事は、冒険者しかない。ここまでは、いいですか?」
「はい」

 選択の余地がないのは理解した。だが、魔法も使えず恵まれた体格もない貧相な自分が、冒険者なんてできるのかと不安を感じる。

「だが、魔力”0”のヤスオさんが冒険者として自立するには相当な時間がかかりそうだ。そこでヤスオさんが自立するまで、アントの夢で面倒を見てやったらどうだろうか?」

 その言葉にシンシアは、立ち上がり反発した。

「えぇぇ。なんでこんなボンクラそうな奴をアントの夢が援助しなければならないのよ」

──はい、きました。本日2度目のボンクラ。

 どうして、こう堂々と愚弄するのか、分からず対応に困る。言い返したいが、今回もそんな雰囲気ではないな。

「ヤスオさんが転生したことで、アリアドネ様がこの世界に留まれたとしたら、ヤスオさんはアリアドネ様の恩人かも知れない。そんな人を見捨てたら、あとでアリアドネ様に怒られないか?」

 立ち上がり腕組みをし、意地の悪い顔をしてシンシアを見つめる。シンシアは、意地の悪い視線と言葉に反論できず、大きな溜息をつくと肩を落として腰を下ろす。

「うっ。そ、それは…確かに」
「よし、決まりだ。ヤスオさんの冒険者証明証は今すぐ作る。冒険者証ができ次第アントの夢へ連れて行って今後の話をしてくれ」
「うぅぅぅぅ。分かりました」

 シンシアはうつむき、納得のいかない表情をして口を尖らせた。組合長は腰を曲げ姿勢を低くしてシンシアに向けて、手を合わす。

「早出の夜勤明けに、すまんな」
「今日は、休みですから夜まで起きているつもりだったので、それはいいですけど」

 納得はいかないが、仕方ないと諦めた。ハーともう一つ溜め息をついて開き直る。

「それではヤスオさん。次に会える時を楽しみにしているよ」

 組合長は握手をしようと手をヤスオの前に差し出す。だが、ヤスオには、握手の前にどうしても聞きたいことがあった。

「待って下さい。最後に一つ、質問してもいいですか?」
「何かね?」

「組合長は、何の組合の長なのですか?」
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