異世界での異生活

なにがし

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9.女装

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 シンシアの表情が変わった。

「ダメよ。兄さんは知らないだろうけど、この男は女物の服を着る変態よ。そんなところに住まわしたら必ずアリ姉さんの下着を嗅ぐわ。かぶるわ。」

 シンシアの奇襲攻撃にうろたえた。このままでは、変態にされてしまうと危機感を覚え、慌てて迎撃をした。

「嗅がないし、かぶりません。それに、あれは濡れ衣だと認めてくれたじゃないですか。」

 セルジュは両肘をテーブルの上に乗せ、両手を顔の前で絡ませた姿勢をとった。
そして、ヤスオを見つめる眼が光る。

「ほぅ。濡れ衣とはいえ、女物の服を着たのは事実ですか?」

 身体全体から汗が溢れ出る。

「そ、それは、事実だけど。しかたないだろ、転移したら着ていたのだから。決して俺の意思で着たわけじゃない。」

 止まらない汗を拭いながら、立ち上がり反撃する。
セルジュも立ち上がり両手を後ろにして、ヤスオを背に歩きだす。

「結果的に変態ですね。しかし、困りました。アリ姉さんの服や下着を、着ない、嗅がない、かぶらないと約束できないのなら、どうしたらいいか?」
「結果的ってなんだよ。それに何で、約束できない前提で話している。できるよ。約束。」

 ヤスオの懸命な迎撃を、二人は少し笑っているような気がする。

「なら良いです。このまま家を放置していたら定期的に清掃しに行かなければなりませんので、ヤスオさんが住んでくれば手間が省けます。どうでしょうシンシア。認めてくれませんか。」

 セルジュは振り返りシンシアに語る。その時の顔が少し、にやけていた。

「そうねぇ…。」

 シンシアも半笑いで悩む。
どうやら、からかわれたようだ。しかし、打ち合わせもなくここまでやるとは。
この二人は本当に長い時間を過ごした兄妹なのだと思い知らされた。

「ちょっと待ってくれ。俺にとってはありがたい話だが、アリアドネ様はどうだ?男が住みつくのは嫌だろう。」

『それは、問題ない。』 シンシアとセルジュが同時に話す。

「は?」

 訳が分からない。
シンシアが溜息をつき、どこか遠くを見ながら話す。

「あのね、アリ姉さんは元々どこかの国の王女様だったの。子供の頃からどこに行くにしろ執事と女中頭がついてきて、着替えとかお風呂とか、すべて周りの人がしてくれたみたい。だから、肌を他人にさらすとか、身につけていた物を誰かに触られるとかは、抵抗ないのよ。」

 セルジュもどこか遠くを見る。

「ましてや齢300歳をはるかに超えているから、そういう事も久しいようだ。元々、アリ姉さんの衣服や下着の洗濯は私達がやっていますから。」
「わたしが、やろうとすると“女は触るなー”って怒られる始末だし。」
「もし、ヤスオ様が家に住んで下着を嗅いだり、かぶったりしたのをアリ姉さんが知ったら…。」

『喜ぶ』「わね。」「なぁ。」
 兄妹はそろってどこか、遠くを見つめていた。

「だったら、初めから何も問題ないじゃないですか。」

 なぜヤスオだけが変態扱いされているか疑問に思い、この兄妹に突っ込みを入れたい。
だが、この二人に勝てる気がしないのでやめた。

「じつはそうなのだけど、ごめんなさい。わたしが、なんとなく嫌なの。」

 なんとなく嫌。理由にはならないのだが、気持ちが分かってしまった。

「あー。それはそうかもなぁ。」
 
 気落ちして、椅子に座る。

「でも、しかたないわね。我慢してあげる。」

 やはり、この人達は優しい。さすがアリアドネの子供達だ。

「ありがとう。」

 寝床の心配がなくなり安心した。嬉しさで、ヤスオの目が少し潤う。

「それで明日からですが、スペランザ教会に通ってもらいます。そこで、常識や文字などを学んでもらいます。」

 セルジュはヤスオに何かが書かれた紙を渡した。紙に描かれていたのは、教会までの地図だった。

「無難ね。冒険者になっても依頼書が読めなきゃ仕事にならないでしょうから。」
(と言っても、字の読めない冒険者って結構いるのよね。)

 学校ではなく、教会。どういうことか分からない。

「教会で勉強が、できるのですか?」

 セルジュとシンシアは顔を見合わせて、微笑む。

「そこは、身寄りのない子供達の面倒をみている孤児院でもあります。何を隠そう、私達が幼少の頃に過ごした教会でもあります。」
「つまり子供達と一緒に学ぶと。」

 不満そうな顔になった。子供には好かれた経験がなく、いやな予感しかしない。

「そういう事です。」

──ハー。溜息をつく。

「なによぉ。何か不満でも?」
「子供は、苦手です。」
「あぁ。嫌われそうな顔しているから?」

 だんだんヤスオの、いじられキャラが定着してきた?

「いや。顔の話じゃなくて。まぁ、仕方ないです。頑張ります。」
「話はここまでですが、他に何かありますか?」

「あっ。兄さんこれを。」

 シンシアは荷物から、巾着袋を取り出しセルジュに渡した。

「これは?」
「アリ姉さんの収納袋の中身を換金しておいたの。」
 もちろん、前日の宿代は引いていた。

「おお、ありがたい。では、これをそのままヤスオ様にお渡しします。これが、なくなったら、またここにきて私に相談してください。」
「それだけあるのだから、1カ月はもたせてよね。」
「では、ヤスオ様。これから末永くお付き合いできることを願っております。」
「はい。色々と ありがとうございました。」

 ヤスオはセルジュに、深々と頭を下げた。


「それで、次はどこに行くのですか。」

 シンシアの案内で、街を歩いていた。

「買い物よ。あなたの衣服。こまめに着替えたとして、最低でも一週間分が必要でしょう。あと食器、寝具かしら。」
「あぁ、確かにそれらは、必要ですね。」
「あと、あなたが着ている服は、冒険者組合の制服で、関係者ではないあなたには早く脱いで欲しいのよ。」
「それは、そうですね。」

「まずは、ここ。」

 大きな建物で、入口が向かって左端にあり、入口右側には大きな窓がある。窓の中には、複数の衣服が展示されていた。

「これは、服屋さんですか?」
「そう。あれらの看板を見て。」

 入口上に取り付けられた看板と窓の中に横に置かれた大きな看板が二枚ある。

「俺、字を読めませんけど。」
「上の看板は、“衣服専門店 福屋”。横置きの看板は、“癒しの魔女 アリアドネ様御用達店”と書いてあるの。」
「“ふくや”直球ですね。それと、“いやしの‥まじょ”?アリアドネ様は癒しの魔女と呼ばれているのですか。」
「そう。この街の人達は、アリ姉さんの作った薬で、病気や傷の治療をしているの。そんな、姉さんに敬意を込めて”癒しの魔女“って呼んでいるわ。」

 敬意を込めて魔女?神ではなく魔女なのが、少し気になった。
アリアドネが神なのは、あまり知られていないのか。

「皆さん、アリアドネ様の薬に癒されているのですね。」

 なんとなく触れてはいけないことと思えたので、スルーした。

「そういうこと。そしてこの看板が、アントの夢の収入源になっているの。」
「あー。名前を貸して、お店からお金をもらっているのですね。」
「さぁ。入りましょう。」

──カランカランカラーン。

 入口を開けると、扉に取り付けられた鈴が鳴った。

「あら、シンシア、いらっしゃい。」

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