異世界での異生活

なにがし

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10話 硬貨の種類を覚える

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「あら、シンシア、いらっしゃい」

 鈴の音を聞きつけ、奥から恰幅のいい女性が出てきた。おそらく店主だろう。

「こんにちは、おばさん。服を見せてくださいな」
「ああ、好きなだけ見ていきな」

 女性はシンシアを店の奥に誘導した。ヤスオもシンシアの後に続くが、シンシアは立ち止まって振り返り、ヤスオの前を遮った。

「この先の服に興味があるのでしょうけど、男物はあっち」

 そう言うと、男物売り場を指差しヤスオを追い払おうとした。

「こ、これは失礼」

 買い物するのは、自分だけじゃないと理解し慌てて、指差した方へ歩いていく。

「見ない顔だね、新しい従業員かい?」

 女性は腕組みをして、ヤスオに見つめながら珍しそうな表情で、シンシアに尋ねた。

「違います。あの服は貸しているだけです」

 女性は首を傾げた。

「貸す?制服をかい?じゃぁ、貸す前はどんな格好をしていたの?まさか、裸でうろついていたとか」
「いいえ、裸では‥なかったです」

シンシアは、ヤスオの女装というおぞましい姿を思い出し、気分が悪くなってくる。女将は顔色が悪くなるシンシアを見て、これ以上は触れまいと気遣った。
 一方ヤスオは、置いてあった買い物カゴを持って、店内の5分の1ほどの空間しかない男物売り場に寄った。衣服はもちろん靴もあったが、種類が少ない。選択肢がないので、あっさり買う物が決まり、次から次へと買い物カゴに商品を入れていく。
 各商品には値札がついていたが読めない。いったい、いくらになるのだろうと不安になる。

「これ、ください」

 女性に声をかけ、カゴを渡した。

「おや。随分たくさん買うのだね。今、計算するよ」

 そういうと、女性は店の奥のカウンターへ行き、服を一枚一枚たたみながら、そろばんのようなものをはじいていた。ヤスオも女性の後を追って奥のカウンターに進み様子を見る。女性は、すべての商品をたたみ終えて袋に入れる。同時に計算も終わる。

「初めてのお客さんだから、挨拶がわりに細かいのは負けてやるよ。金貨3枚と白銀貨1枚の35,000ドラクでいいよ」

 巾着袋を開き、中身を見ると色んな種類の硬貨が入っていて金貨がどれか分からない。金貨と言うからには金色をしているのだろうと、それなりのものを取り出した。

「えーと、金貨というのはこれですか?」

 自信がないからか、差し出した手が少し震えた。

「そうだけど。何だいあんた。お金を知らないのかい。ひょっとしてバルト大陸の外から来たのかい」

 バルト大陸というのが、よく分からないが外から来たことには違いがないから、おおむね当たっている。

「まぁ、そんなところです」
「あぁ、それで冒険者組合から服を借りているのか。大陸外の服ってどんなものなんだい?服屋としては、気になるね」

 答えに困る。裸できたようなものだから、返事のしようがない。

「この街ではかなりの歪な格好らしくて、とても参考にはなりませんよ。事実、シンシアさんが俺を見た瞬間すぐに…」

 その先はどう表現したらよいか分からず、言葉を失った。女性は、腕組をして目を閉じたまま、うんうんとうなずき「保護したのね」と割って入った。

 このまま黙って、そうですと言ってもよかったのだが、勘違いされたままが、なんか悔しくて腹が立つので、正直に言うことにした。

「いえ、ボコボコにされました」
「はぁ?アハハハハハ。そりゃ相当変だったのだろうね。はぁそれで、組合長に怒られて案内役をやらされているのかい。ざまーないね、シンシア」

 女性はお腹を抱えて笑った。

「もう、おばさん」

 シンシアは、服を数枚広げてどれにするか悩んでいた。女性の呼びかけに気にした様子もなく一言返して、再び悩み始める。
 そんなシンシアに時間がかかると判断して、女性はヤスオの巾着袋と硬貨を取り上げて、袋を覗き込んだ。

「これが金貨。1,2,3枚と。これが白銀貨。1枚と。これは料金としていただくよ」

 ヤスオが、うなずいたのを視認すると、女性は引き出しを開きその中に硬貨を入れ、引き出しを閉じた。さらに巾着袋から硬貨を出す。

「これが銀貨。白銅貨、銅貨、黄銅貨、軽銀貨。あと、この中にはないけど、白金貨があり全部で8種類だよ」

 女性は、出した硬貨を巾着袋に戻し、袋をヤスオに返した。巾着袋には、たくさんの硬貨が残っていたので安心した。

「ありがとう。えーと店主さん?」
「あーそうだよ。あたしはこの店の店主ダナエっていう。今後とも贔屓にしておくれ」

 ダナエは、服の入った袋をヤスオに渡す。

「ヤスオです。また、来ます」

 一礼し、そのまま店を出ようと思ったが、シンシアはまだ悩んでいた。以前知人から女性と買物に行くときは、服と革には気をつけろと教えられたことがある。その知人が言うには、どれほど疲れていてもそれを見ると誘引され、どこに行ったか分からなくなるらしい。それを思い出し、これは長くなるパターンではと心配になってきた。
 ヤスオの心配を察したか、ダナエがせかしてくれた。

「シンシアいつまでも迷っていないで、さっさと決めちまいな。ヤスオさんの買い物は終わったよ」
「ヤスオさん、これとこれどっちがいいと思いますか?」

 シンシアは焦って、そう聞いてきた。そんなのファッション音痴のヤスオには紺色の服と白色の服としか区別できない。どうしていいか分からないが、ヤスオなりに真剣に考えてみた。

「俺の印象では、その紺色の服が似合っていると思いますが、今日は白色の服を選んでいただけませんか?俺が稼げるようになったら、その紺色の服をプレゼントさせてください」

──ヒュゥゥ。

 それを聞いたダナエは口笛を吹いた。

「じゃあ、その服はしばらく保管しておいてやるよ」
「おばさん。これを買います」

 シンシアは、頬を赤くして白色の服を買った。
 福屋で買ったヤスオとシンシアの荷物は、シンシアが何やら呪文を唱えると消えてしまった。収納魔法を使ったらしく、どこかに収納されたのだろう。
 福屋を出て、次の店に向かうのだが、食器と寝具については気になる事があったので、先を歩くシンシアを引き止めた。

「気になったのですが、アリアドネ様の家に人が訪れることはなかったのですか?」

 先に歩いていたシンシアは振り返る。
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