異世界での異生活

なにがし

文字の大きさ
11 / 117

11.買物

しおりを挟む
 先に歩いていたシンシアは振り返る。

「そうね。アリ姉さんは冒険者の仕事で家を空けることが多かったし、大抵の用事はアントの夢で対応できたから、人が訪れることはなかったかな。」
「では、身内の方もいなかったのですか。」
「詳しく知らないのだけど、元々別の世界で生まれ、神になって天界にいき、神の仕事でこの世界にきた。みたいな。だから身内は私達くらいだと思うわ。」

 神の仕事とは何なのだろう?とは思ったが、今は聞いても仕方ないことなので、スルーすることにする。

「皆さんが集まって食事会をするようなことは、なかったのですか?」
「まぁ、たまにだけど、あったわ。アリ姉さんの号令で、みんな集まれーって感じだった。」
「その時、何らかの理由で、泊まる人がいなかったですか。」
「もう、何が言いたいの?そんなのわたしが、ほぼ毎回泊っていた。…!」

 シンシアが立ち止まり、考え込んだ。
相手に気づかせようと、まわりくどい言い方をしてしまう。ヤスオの面倒なところだ。

「そうか。お客様用の食器や寝具があった。」
「とりあえずそれを使わして頂けたら節約になるのですが。」

 申し訳なさそうに言ってはみたが、シンシアの頭にはヤカンが沸いていた。

「もう。それならそうとはっきり言ってよ。」

 シンシアは機関車なみに頭から蒸気を出しながら歩いていく。
やっちまったと、それからはシンシアのご機嫌をうかがい、気遣う。
そんなわけで、寝具と食器の購入は中止された。

「次は、ここで─す。」

 シンシアは、両手をひろげたポーズをとった。
ご機嫌うかがいの努力が実を結び、斜めだったご機嫌は元に戻っていた。
その場所は、多くの屋台が並び、たくさんの人で賑わっていた。主に食材が多く、調理された物も売られていた。

「じゃぁ、一刻いっときぐらいしたらここに集合ね。また、あとで。」

 そう言い残して、シンシアは足早に屋台の方へ向かって行った。
一人取り残されたヤスオの前に風が吹く。

「先程同様、買い物するのは俺だけじゃないという訳か。」

 仕方なく近くの屋台を覗いて見た。その屋台は野菜を扱っており、いわゆる八百屋だ。
商品は、キュウリ・大根・人参・ピーマンなど馴染み深い品が、それぞれ箱に入れて販売されている。
あらゆる種類の野菜があり、季節感は感じなかったが、ほとんどが知っている物だったので安心した。
そして、それぞれの商品の棚に板が置いてありすべてに文字が2行書いてあった。
これは、普通に考えれば1行目が商品名で2行目が金額であろう。
 その店は、絶えず人が訪れ、とても繁盛していた。
一歩下がったところで客のフリをしながら、しばらく様子を見た。
客は欲しい品と数量を伝え、店主が袋に入れ料金を伝える。
客は支払いをして袋を貰う。そういうサイクルが何度も繰り返される。

「はい。600ドラク。白銅貨1枚と銅貨1枚だよ。」

 トラブル防止なのか、店主は必ず支払い金額と硬貨の種類を口にしていた。おかげで、それぞれの硬貨の価値が分かってきた。
客のほとんどが、店主が言った硬貨と違う硬貨で支払っていた。
しかし店主は文句を言わず、受け取ったり、おつりだろうか、代わりの硬貨を渡したりしていた。
さらに店主が数量を確認する際、指でも数量を表している様なのだが、時折変な指の形をする。
見ていたらだんだんその理由が分かってきた。

「6がこうで、7がこう。8がこうで、9はこうか?」

 店主は1から10までを片手で表現していたのである。
5まではそのままなので分かりやすいが、6以降がとても面白くて、ヤスオは何度も何度も真似をした。
そうして真似をしていると、あることに気がついた。各商品に置かれている板の2行目の文字が、手の形に似ていたのだ。
ひょっとして、この手の形がそのまま数字なのか。だとしたら、このリンゴは1個100ドラクということになる。
そう思うと、試したくなる。硬貨を用意して店主に声をかける。

「店主。リンゴを3個ください。」

 店主は手際よくリンゴを3個袋に入れた。

「はいよ。300ドラク。銅貨3枚だよ。」

 銅貨2枚と黄銅貨2枚を渡した。店主は受け取り確認する。

「まいどあり。」

──やったー。

 初めて買い物をノーミスで成功したことに歓喜した。
さらに銅貨1枚と黄銅貨2枚が同じだと確認できた。

「次は、なに買おうかな。さっきは実験的にリンゴを買っちゃったから、次は本当に欲しい物を買いたいな。」

 嬉しくて色々な店を見てまわったが、欲しい物が見つからない。

「そういえば、夕飯の心配をしなくてはいけないな。」

 さらに先に進んだ方からいい匂いがしてくるので、先に進むことにした。
先に進むと、シンシアが惣菜屋の前で自分の世界に入り込んでいた。

「シンシアさん、夕飯の食材ですか?」

 声をかけられ、シンシアは我に返る。

「あらヤスオさん。いえ、夕飯の買い出しは済んでいますけど、その前に小腹が空いたので、何かつまもうかと。ですが、どれも重そうで。どうしようかと悩んでいたのです。」

 確かにその店は揚げ物が多く腹に溜まりそう。

「だったら、リンゴなんかどうです。」

 袋からリンゴを一つ、出して見せた。

「あら、気がきくわね。おいしそう。頂くわ。」

 ヤスオからリンゴを奪い、ひとかじり。

──シャリッ。

「うーん。あまーい。」
「さーて、俺の夕飯は何にしようかな。」

 ヤスオは、惣菜を見渡した。魚や肉と思われる揚げ物や材料不明の炒め物。
他に、何かを煮込んだ煮物や、手でちぎっただけのサラダ?があった。

「あっ。今日の夕飯は気にしなくていいわよ。」

 リンゴを頬張るシンシアが不思議なことを言う。

「どうしてですか」
「散々殴っちゃったからね。お詫びに手料理を振る舞ってあげる。」

 体中に激震が走る。ヤスオの人生において、母親以外の女性の手料理を食したことがあっただろうか。
必死に思い起こそうとしたが、思い起こすまでもなく、ある訳がなかった。
 
「神様。いえ、アリアドネ様、ありがとう。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

処理中です...