異世界での異生活

なにがし

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11話 数字を覚える

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「そうね。アリ姉さんは冒険者の仕事で家を空けることが多かったし、大抵の用事はアントの夢で対応できたから、人が訪れることはなかったかな」
「では、身内の方もいなかったのですか」
「詳しく知らないのだけど、元々別の世界で生まれ、神になって天界にいき、神の仕事でこの世界にきた、みたいな。だから身内は私達くらいだと思うわ」

 神の仕事とは何なのだろう?とは思ったが、今は聞いても仕方ないことなので、聞き流すことにする。

「皆さんが集まって食事会をするようなことは、なかったのですか?」
「まぁ、たまにだけど、あったわ。アリ姉さんの号令で、みんな集まれーって感じだった」
「その時、何らかの理由で、泊まる人がいなかったですか」
「もう、何が言いたいの?そんなのわたしが、ほぼ毎回泊っていた。…!」

 シンシアが立ち止まり、考え込んだ。相手に気づかせようと、まわりくどい言い方をしてしまう。ヤスオの面倒なところだ。

「そうか。お客様用の食器や寝具があった」
「とりあえずそれを使わして頂けたら節約になるのですが」

 申し訳なさそうに言ってはみたが、シンシアの真っ赤な顔をして頬を膨らまし、頭から大量の湯気が湧き出ていた。

「もう、それならそうとはっきり言ってよ」

 シンシアは機関車なみに頭から蒸気を出しながら、ドスドスと音を立てて歩いていく。やっちまったと、それからはシンシアのご機嫌をうかがい気遣う。そんなわけで、寝具と食器の購入は中止された。

「次は、ここで─す」

 シンシアは両手を広げ、ポーズをとった。ご機嫌うかがいの努力が実を結び、斜めだったご機嫌は元に戻っていた。
 その場所は、多くの屋台が並び、たくさんの人で賑わっていた。主に食材が多く、調理された物も売られていた。

「じゃぁ、一刻いっときぐらいしたらここに集合ね。また、あとで」

 そう言い残して、シンシアは足早に屋台の方へ向かって行った。一人取り残されたヤスオの前に風が吹く。

「先ほど同様、買い物するのは俺だけじゃないというわけか」

 仕方なく近くの屋台を覗いて見た。その屋台は野菜を扱っており、いわゆる八百屋だ。商品は、キュウリ・大根・人参・ピーマンなど馴染み深い品が、それぞれ箱に入れて販売されている。あらゆる種類の野菜があり、季節感は感じなかったが、ほとんどが知っている物だったので安心した。
 そして、それぞれの商品の棚に板が置いてありすべてに文字が2行書いてあった。これは、普通に考えれば1行目が商品名で2行目が金額であろう。
 その店は、絶えず人が訪れ、とても繁盛していた。一歩下がったところで客のフリをしながら、しばらく様子を眺めた。客は欲しい品と数量を伝え、店主が袋に入れ料金を伝える。客は支払いをして袋を貰う。そういうやり取りが何度も繰り返される。

「はい。600ドラク。白銅貨1枚と銅貨1枚だよ」

 トラブル防止なのか、店主は必ず支払い金額と硬貨の種類を口にしていた。おかげで、それぞれの硬貨の価値が分かってきた。
 客のほとんどが、店主が言った硬貨と違う硬貨で支払っていた。しかし店主は文句を言わず受け取ったり、おつりだろうか、代わりの硬貨を渡したりしていた。
 さらに店主が数量を確認する際、指でも数量を表している様なのだが、時折変な指の形をする。見ていたらだんだんその理由が分かってきた。

「6がこうで、7がこう。8がこうで、9はこうか?」

 店主は1から10までを片手で表現していた。5まではそのままなので分かりやすいが、6以降がとても面白くて、ヤスオは何度も何度も真似をした。
 そうして真似をしていると、あることに気がついた。各商品に置かれている板の2行目の文字が、手の形に似ていたのだ。
 ひょっとして、この手の形がそのまま数字なのか。だとしたら、このリンゴは1個100ドラクということになる。
 そう思うと、試したくなる。硬貨を用意して店主に声をかける。

「店主。リンゴを3個ください」

 店主は店の中に入ると、手際よくリンゴを3個袋に入れ、戻ってきた。

「はいよ。300ドラク。銅貨3枚だよ」

 銅貨2枚と黄銅貨2枚を渡した。店主は受け取り確認する。

「まいどあり」

──やったー。

 初めて買い物をノーミスで成功したことに歓喜した。さらに銅貨1枚と黄銅貨2枚が同じだと確認できた。

「次は、なに買おうかな。さっきは実験的にリンゴを買っちゃったから、次は本当に欲しい物を買いたいな」

 嬉しくて色々な店を見てまわったが、欲しい物が見つからない。

「そういえば、夕飯の心配をしなくてはいけないな」

 さらに先に進んだ方からいい匂いがしてくるので、先に進むことにした。先に進むと、シンシアが惣菜屋の前で自分の世界に入り込んでいた。

「シンシアさん、夕飯の食材ですか?」

 声をかけられ、シンシアは我に返る。

「あらヤスオさん。いえ、夕飯の買い出しは済んでいますけど、その前に小腹が空いたので、何かつまもうかと。ですが、どれも重そうで。どうしようかと悩んでいたのです」

 確かにその店は揚げ物が多く腹に溜まりそう。

「だったら、リンゴなんかどうです」

 袋からリンゴを一つ、出して見せた。

「あら、気がきくわね。おいしそう、頂くわ」

 ヤスオからリンゴを奪い、一かじり。

──シャリッ。

「うーん、あまーい」
「さーて、俺の夕飯は何にしようかな」

 ヤスオは、惣菜を見渡した。魚や肉と思われる揚げ物や材料不明の炒め物。他に、何かを煮込んだ煮物や、手でちぎっただけのサラダ?があった。

「あっ。今日の夕飯は気にしなくていいわよ」

 リンゴを頬張るシンシアが不思議なことを言う。

「どうしてですか」
「散々殴っちゃったからね。お詫びに手料理を振る舞ってあげる」

 体中に激震が走る。ヤスオの人生において、母親以外の女性の手料理を食したことがあっただろうか。必死に思い出そうとしたが、思い出すまでもなく、あるはずがなかった。
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