異世界での異生活

なにがし

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38話 神様怒る、お仕置きです

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 奥からカミルがやってきた。

「やっぱりヤスオさんだ。お久しぶりです。今も、女物の服着ているのですか?」
「着るはずないだろう。その事が街で噂になっているけど何か知らないか?」
『えっ?だって、趣味ですよね』
「そんなはずあるか。…まさか、お前らが」

 明らかに二人の様子が変わった。目が泳ぎ始め、目線をそらし気まずそうにする。

「そ、そういえば今は単独で行動されているのですよね。何か成果はありました?」
「まぁまぁかな。いや、それより」
「またまた、そんな事いっちゃってー」

 カミルは話題をそらそうとしているように思える。

「こら、カミルいい加減にしろ。こんな短時間で成果が出るはずがないだろ。ヤスオさん、失礼しました。二階でお待ち下さい。後でお茶をお持ちします」

 ヤスオは顔を引きつかせ疑いの視線を二人に送りながら、奥の階段へ向かった。

「お昼、食べます?前ほど豪華じゃありませんけど」
「食べてきたからいらない。ありがとう」

 階段を上り、二階へ着くと荷物から青玉袋を出してテーブルに置き、椅子に腰を下ろす。
 
「マル君、何気にひどいよ」
(思うのは仕方ないけど、本人の前で言うことじゃないわね。それに噂を広めたのは、あの二人ね)


[お帰りなさい。それで成果はありましたか]
[ダメだ。どこを探しても、調薬師も薬品類もない]
[そうですか。二階でヤスオさんがお待ちですよ。おそらくお金の無心かと]
[こんな時に面倒な。適当にお金を渡して、そうそうに引き上げてもらおう]

 一階から声が聞こえた。マルとセルジュが話をしているようだが、内容がすべて聞こえる。むしろ聞こえるように話している気がする。
 会話から治癒薬が不足しているのが分かる。セルジュは調薬師を探して奔走しているが、うまくいってないようだ。セルジュの、苛立ちが会話からも伝わってくる。

──トン、トン、トン。

 セルジュが二階に上がってきた。

「お待たせしました。ここのところ営業に出てる事が多くて。申し訳ないですが食事を取りながらの応対でよろしいでしょうか?」
(なんですって。来客にその対応。私は認めた覚えはありませんよ)
「えぇ。構いませんよ」

セルジュは弁当の蓋を開け食事を始めた。手作り弁当で美味しそうだ。美味しそうに食べるセルジュの食事風景を、しばらく観察させられた。

(わたし達は何を見せられているの?)
「ヤスオ様。お昼は?」
 
 半分ほど食べて、やっと声をかけてくれた。

「済ませてきました。お構いなく」
「そうですか。それで、ご用件は生活費ですよね?どのくらい必要ですか?」

 食べる事に集中しているようで、ヤスオに目を向けることなくひたすら食事をしている。

(なに?その、ものの言いように態度。バカにしているわね。マルといい、カミルといい、セルジュまで。ヤスオ、私が許す。懲らしめてやりなさい)

 ついにアリアドネの怒りが爆発した。アリアドネの言葉にヤスオは大好きな時代劇を思い出す。まるで、越後のちりめん問屋の隠居のお供になった気がした。

「いいえ、まず換金をお願いします」

 ヤスオは立ち上がりテーブルから青玉袋を右手で握り締め、人差し指をテーブルの上に向けた。

「ビファイオン」

 呪文を唱えると、テーブルの上に五つの黒い箱が重なって出現した。セルジュは突然、出現した箱に驚き、食事の手を止め、目を見開いていた。

「まずはこの箱。魔力回復薬です。24個入っています」

 ヤスオは上の箱を横に置き直して、蓋を開けて見せた。

「次にこの箱ですが、治癒小薬です。4箱分あります」

 上の箱だけ蓋を開けて見せた。

「……」

 セルジュは、目の前に起きていることが夢ではないかと疑った。これまで、喉から手が出るほど欲しかった治癒薬が目の前にある。しかも、突然目の前に現れた。間違いなく魔法なのだが、これを誰が唱えたのか。ヤスオと魔法と治癒薬。この想像不能な組み合わせに混乱しこの後の対応が分からなくなり、ひたすら考えてしまう。

「セルジュさん。まずは、昼食を済ませて下さい。話はそれからです」

 セルジュは、混乱した脳内の整理ができず、ヤスオに言われた通りの事しかできなくなっていた。

「あっ、はい。そうですね。それでは失礼して、失礼します」

 完全に上の空のセルジュ。それでも弁当を食べながら今、何が起こっているのか考え続けた。そして完食して、お茶を飲んでくつろぐ。現実逃避に走る。

(まったく、自分だけ食事して。何様なのよ)

 いくら混乱しているとはいえ、弁当を最後まで食べ進め、お茶を飲んでいることにアリアドネの怒りが収まらない。

「えーと、ヤ、ヤスオ様。これを換金という事でよろしいのですね」
「初めから、そう言っていますよ」
「たびたび、失礼しました」

 喉から手が出るほど欲しかった治癒薬が目の前にある。なぜヤスオが持っているのかは考えず、治癒薬がある、それだけを考えたらやるべきことが見えてきた。

「マル―、カミル―、緊急事態だ。食事が済んだのならすぐに上がってきておくれ」

 セルジュは立ち上がり階段に向かって大声で二人を呼ぶ。マルとカミルは慌てて二階に上がってきた。

『どうしました。セルジュ兄さん』
「この黒い箱を今すぐ鑑定して換金してくれ」
「この5つの箱ですか。時間かかりますし、今は昼休憩中ですよ」
「これは、治癒薬だ。午後一から売り出したいから、休憩中に終わらせたい。失った休憩は給金に上乗せするから、急いでくれ」
『わ、分かりました』

 マルとカミルは5つの箱すべてを一階に運んだ。

「そ、それで、ヤスオ様。なにか懐かしくそれでいて、もっとも恐怖する気配を感じるのですが、これはどういう事でしょう?」
「さぁ?これ、俺じゃなくて、俺の中からだから」

「おっしゃっている意味が分かりませんが?」
「(ひとつお客様には、満足を。ひとつお客様には、安心を。ひとつお客様には、親切を。これらを破りお客様を不快にすれば、アリアドネが許しません)」

「なぜそれを。それは、アリ姉さんが作ったこの組合での訓示」

 セルジュの瞳から涙がこぼれ落ちる。

「アリアドネ様は怒っていますよ」

 セルジュは左膝を床につけ、胸に手を据え、頭を下げる。

──印籠を見せるとこんな気分になるのか。

 ヤスオは満足したが、セルジュの様子を見るとやり過ぎたかなと思ってしまう。

「愚かな私ですが、やっと分かりました。ヤスオ様の中に存在されているのですね。アリ姉さん。申し訳ありません。私はヤスオ様に対して、教えを破りました」
(よろしい。次から気をつけてよね)
「安心して下さい。アリ姉様の怒りは収まりましたよ」

 セルジュは床に泣き崩れ、良かった良かったと何度も叫び、アリアドネの生存を喜んだ。ヤスオはセルジュが落ち着くのを待ったが、なかなか泣き止まない。話に続きがあるのを告げ、気持ちを落ち着かせるよう求めた。
 ヤスオの言葉に落ち着いたセルジュは、お茶を入れ直し席に着いた。
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