異世界での異生活

なにがし

文字の大きさ
39 / 117

39話 甘蕉がそんなバナナになる

しおりを挟む
「ビファイオン」

ヤスオは熟成した黄色い甘蕉かんしょうをテーブルの上に出して見せた。

「セルジュさん、これを見てください」
「これは、甘蕉かんしょうですか。でも色が、黄色?」

セルジュはこの腐った甘蕉かんしょうをどうしたいのか想像がつかない。

(ヤスオ、これ食べたい)
「これは、バナナと言う食べ物です」

 1本ちぎり、皮をめくり中身をセルジュに見せた。

──腐っていない?

 その中身が白くとても傷んでいるようには見えない。ヤスオはそれを口の中に入れ、頬張って見せた。

(美味しいー。怒った後は甘い物に限るわね)

──食べられるのか?

 ヤスオはおいしそうに食べ続け、あっという間に1本食べ終えてしまった。

「セルジュさんも食後のデザートにどうぞ」

 セルジュにも1本ちぎって、皮をめくって手渡した。セルジュは、疑り深く手に取り、ビクビクしながら口に入れてみる。

──うまい。

 硬いはずの甘蕉かんしょうが、歯がなくても食べられるような柔らかさに仰天した。それが顔に出ていたか、ヤスオはセルジュに微笑みかけていた。

「これは、すごく美味しいです」
「これをアントの夢で売れませんか?」

 売るのはいいが、量が少ない。一口サイズに切って売れば、それなりの量になるが、切るのが面倒だ。などとセルジュは考えた。

「これを小さく刻んで売るのですか?」
「いえ、この束があと29房あります。1房ごと売ります」
「ビファイオン」

 テーブルの上がバナナだらけになった。

──いける。

 完全に眼が白金貨に変化へんげしたセルジュは、一瞬で1房の価格設定を済ませた。

「分かりました。では、1房600ドラクで買い取ります」
「この半端は、試食用に置いていきます」
(えぇ。まだ食べたぁい)
「では、この半端は300ドラクで買い取ります。それで、次はいつ納品できますか」
「バナナの生産については、見通しがついていません。次は、当分ないです」

 バナナの保管場所と生産者の確保。ヤスオの次の課題になった。

「そうですか、残念です。他に用件はありますか?」
「いえ。終わりです」
「それでは、下に降りて2人を手伝ってきます。計算が終わり次第、料金を持ってきますので、しばらくお待ちください」

 セルジュは頭を下げた後、階段を降りていった。

(ヤスオォ。バナナまだ食べたかった)
「また、作ればいいじゃないですか。今回はアイルのために、辛抱してください」
(わかったわよ。ところでなんで、甘蕉かんしょうじゃなくてバナナなの?)
甘蕉かんしょうは食べられない印象が強いかなと思って。バナナと言い換えれば、受け入れやすくないですか」

(なるほどね。ところで、バナナってどういう意味?)
「知りません。前世でそう呼んでいましたから。ただ人に聞かれたら、食べたらそんなバナナって言ってしまうからバナナでいきますか」
(ヤスオの話が、そんなバナナね。なんか、疲れたわ)

 計算を終え、セルジュ達三人が2階に上ってきた。

「では、魔力回復薬が24本で14400、治癒薬が96本86400、バナナが29房で17400と300。合計118500ドラク。白金貨2枚と金貨1枚、白銀貨1枚と銀貨3枚そして、白銅貨1枚です。ご確認ください」

 それらを1枚1枚、確認し自身の巾着袋に入れた。1週間でこれだけの稼ぎ。十分自立したといえるだろう。

「先ほどから何やら独り言を話していたようですが、もしかしてアリ姉さんと話していたのですか」
「そうです。面倒な事に口に出さないと、伝わらないので」
「それで、俺達のこと何か言っていませんか」

 マルとカミルが目を輝かせて詰め寄ってきた。

──お前らなぁ。

 ヤスオの疑いは晴れていないのに、何もなかったかのように接してきてイラつく。そんなヤスオの気持ちをアリアドネが代弁した。

「(マル、カミル、ヤスオが女物の服を着ていたことを言いふらしたのは、あなた達ですね)だそうだ」
『あ、はい。ごめんなさい』
「(それに、先ほどのヤスオに対する態度も頂けませんよ)だって」
「ひっ。ごめんなさい。本当にアリ姉さんがいる」

 マルとカミルは、怒られたのになぜか、嬉しそうだ。

「この後なのですが、冒険者組合に行くつもりだったのですが、用事ができて行けなくなりました。そこで、マルかカミルに伝言を頼みたいのですが」
「もちろん、構いませんよ」
「それでは、東の森で小鬼との遭遇多数あり。近くに巣があるかも、と伝えてもらいますか」
「承知しました。カミルよろしいですね」
「はい」
「セルジュ兄さん。僕も行こうか?ヤスオさんのおかげで午後は外出しなくて良くなったのでしょ」
「ええ。品切れ中だった治癒小薬が大量に入荷しましたから、調達の必要はなくなりました。ですが、午後から忙しくなりますよ。では、カミルが残ってマルが行って下さい」
『はい』

 アントの夢に活気が戻った。どこか、ふてくされて面倒くさそうにしていた3人が、イキイキとしてきた。アリアドネの生存は、3人に希望を与えたようだ。

「では、そろそろ帰ります。休憩中に尋ねて申し訳ないです」
「とんでもない。それ以上に嬉しい事がありましたから。…アリ姉さん、また会えて嬉しかったです。また、道を外れるような事をしたら叱って下さい」
『よろしくお願いします』

 三人は深々と頭を下げた。

「(拳骨が落とせなくて残念だわ)だって」
「あぁ、最後にヤスオ様。バナナとはどういう意味ですか?」
「え?それはそのぉ、食べるとそのぉなんだ。そんなバナナって言っちゃうような。
ヘヘ」

『なるほど』
「さすがヤスオさんだ。すごい発想です」
「その考えはなかったぁ。すごいですね」

 三人はヤスオのダジャレに、そういうものだと納得し感服していた。

「くだらない事を言って肯定されると、こんなにも辛いのですね。誰か突っ込んでよ」
(くだらない事の自覚はあったのね)


(さて、軍資金は調達できたのでいよいよ買物ね。アイルはもちろんだけど以前、保管してもらったシンシアの服も買ったら?あとついでに、私のも)
「シンシアさんはいいですけど、アリ姉様は買っても着る体がないですよね。まさか、俺に着させようと思っていませんよね」

アリアドネはヤスオの女装を思い出し、ヤスオも同様のことを思い出した。

──おえぇぇ。

 吐きそうになる。

(もう、やめてよ、気持ちの悪い。誰がそんなこと考えるのよ。気持ちの問題よ。アイルとシンシアだけ買ってもらえるのが悔しいのよ)
「何ですかそれ。諦めてください」
(いやよ、絶対、買ってもらうから)

 そんなやり取りをしていたら、衣服専門店の福屋に到着した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

エクセプション

黒蓮
ファンタジー
 血筋と才能に縛られた世界で【速度】という、それ単体では役に立たないと言われている〈その他〉に分類される才能を授かったダリア。その才能を伯爵位の貴族である両親は恥ずべき事とし、ダリアの弟が才能を授かったと同時に彼を捨てた。それはダリアが11歳の事だった。  雨の中打ちひしがれて佇んでいたダリアはある師に拾われる。自分を拾った師の最初の言葉は『生きたいか、死にたいか選べ』という言葉だった。それまでの人生を振り返ったダリアの選択肢は生きて復讐したいということだった。彼の選択を受け入れた師は彼にあらゆることを教えていく。  やがて師の元を離れる際にダリアはある紙を受け取り、それと同時に再度の選択肢を投げ掛けられる。彼が選ぶ復讐とは・・・彼が世界に及ぼす影響とは・・・

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...