異世界での異生活

なにがし

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46.少女

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「何だと、すぐに出発の準備だ。」

 メンガンダルは勢いよく立ち上がり、自らの頬を2度叩き、気合を入れた。
離れた場所で話を聞いていたトイ爺が、立ち上がり慌てて近づいてきた。

「ヤスオ今の話、まことか?」
「はい。ですが、出かける必要はありません。アイルは救い出しました。」
『え?』

 メンガンダルとトイ爺は驚き、お互いの顔を見つめ合った。
メンガンダルは顔を小さく左右に振り、それを確認するとトイ爺は顔をしかめ、疑いの眼でヤスオを見る。

「して、アイルは何処にいる?」

 トイ爺の問いかけに、メンガンダルはゆっくりと首を縦に振り、ヤスオを睨みつけた。

「組合長。トイ爺さん。俺、補助魔法が使えるようになりました。」

 ヤスオは、焦点の合ってない視線を地面に向け、唇を震わせていた。
2人は再び見つめ合い、首をかしげた。
メンガンダルに至っては、両手の平を空に向け肩をすくめた。
2人はヤスオが、何が言いたいのか分からず、トイ爺は聞き直す。

「おぬしそれは、どういう意味!・・まさか・・。な、何という事じゃ。」

 トイ爺は問いかけ中に、涙を流すヤスオを見て、言いたい事を理解した。
メンガンダルも理解し、ヤスオの胸元をつかんで、殴りかかる。

「ふざけるな。このような時にくだらん冗談を。許される事ではないぞ。」
「俺が許されない事で、冗談になるのなら、アイルが戻るなら、一生許さないでくれ。」

 ヤスオは顔を上げ、唾を飛ばしながら大声を張り上げた。
目から鼻から大量の水分がこぼれ落ち、耐えがたい顔になっていた。

「ほ、本当・・なのか。」

 メンガンダルは手を放し、空を見上げ、放心していた。
ヤスオは足元から崩れ、地面に額をこすりつけ号泣した。
トイ爺は尻もちをつき、空を見上げる。

 ヤスオを注視していたセメレが、ただならぬ状況を察して、お玉をもったまま走ってきた。
 
「ヤスオさん。まさか、アイルは間に合わなかったのですか?」
「すいません。助け出した時はまだ意識があったのですが、帰る途中で息を引き取りました。ごめんなさい。ごめんなさい。」

 ヤスオは土下座して詫びた。
セメレはお玉を地面に落とし、その場で両膝を地面につけ、両手で顔を覆い隠し涙した。

その日の朝、教会に多くの人のすすり泣く声が聞こえた。


 朝食を済ますとアイル探索に協力した冒険者達は帰宅した。
残った近親者5人で棺が用意された。
その場にいた全員が見守るなか、ヤスオはアイルを棺に入れた。

──おおぉ。

 全員がまるで生きているような、アイルの美しい姿に驚愕した。
皆が言葉を失っている中、セメレが手を合わせながら口を開いた。

「昨日、アイルを探しにいくヤスオさんが、アリアドネ様に見えました。アリアドネ様は、ヤスオさんの中にいらっしゃるのですね。」

 メンガンダルとトイ爺は、あっけにとられ、セメレに戸惑いの視線を送る。

「でないと、アイルのこの姿の説明がつきませんからね。」

 マイヤも手を合わせ、涙を流しながらヤスオを見つめた。
その視線は、いつものヤスオを見る目とは違って、敬意に満ちたものだ。

「マイヤさん。これをアイルにつけてあげてくれませんか?」

 ヤスオはリボンを差し出した。マイヤは両手を震えさせながら受け取り、それを額に当て何度も礼を言う。
そして、棺に近寄りアイルを抱き起こした。

「アイル、良かったね。こんな可愛い服を買ってもらって。靴も靴下も可愛い。なにより、アイル自身が可愛いよ。」

 そう声をかけながらマイヤは手慣れた手つきで、アイルにリボンをつける。
そして、寝かしつけると両手を合わし祈った。

「何かあったのですか?」

 一旦、帰宅していたシンシアとイーシアが礼拝堂に入ってきた。
2人は、棺を囲っている人々を見つけると、そこに近づく。
近づくにつれ棺の中が見えてくる。

──アイル。

 2人は急ぎ棺に近づき何度も中を確認した。

「どうしてアイルがこんなところで寝ているのです。部屋で休ませればいいでしょう。」
「シンシア、アイルはもう目を覚ますことがないのですよ。」
「どうして?こんなに綺麗なのに。」

 シンシアは、床を見つめ、棺に両手をかけ、足元が崩れないように、耐えていた。
足元の床には、多くの水滴が落ちている。
イーシアは壁に寄りかかり、天を仰ぎ、目頭を押さえた。

「アイルは連れ去られた後、先に捕まっていた女性にナイフを渡され逃げるよう言われたそうです。その女性は、身を挺して小鬼共の足止めをしてくれた。でも、アイルはその女性を見捨てて逃げることができなかった。」

ヤスオは足元を見つめ、両手を握りしめて、肩を上下に揺らしながら、なんとか口を開いた。
目からは流れ落ちるものがあり、あごの付近で水滴となって床に落ちていた。

「俺が駆けつけた時には、アイルだけが、かろうじて息をしていました。すぐに治癒魔法をかけたのですが、回復する前に息を引き取りました。その姿は、俺が再生魔法をかけたからです。」

──再生魔法。

 神のみが使える、伝説級の魔法。それをヤスオが?
全員が言葉を失い、しばらく沈黙が続いた。そんな中、トイ爺がヤスオに厳しい視線を送り、口を開いた。

「それで、小鬼共はどうした?」
「皆殺しにしました。」
「魔石は回収したのかの?」
「全部で72個。一つはアイルが仕留めました。」

「見事じゃ。アイルも一矢、報いておったか。よく頑張ったの。じゃが、この年寄りより先に逝くのは感心できん。じきそっちに逝くのでその時は説教じゃ。覚悟しておけよ。」

 優しい目をして、アイルの頭をさすりながら、トイ爺は最後の別れを告げた。
次に腕組みをしたメンガンダルが、ヤスオに厳しい視線を送る。

「それで、そのアイルをかばった女性はどうした?」
「連れてきています。商人登録されている方で、名はイリス。」
「ほう、そこまで調べていたか。シンシア、捜索の発注はないか?」

「昨日からここで待機していましたので、わかりません。イーシアはどう?昨夜、帰る前に組合に寄ったのでしょ?」
「あったよ。母親が発注していた。確か、名はソフィア。住所はイエーナ通り。」
「わかりました。俺は今から届けに行きます。別れは済ませていますから、皆さんでアイルをお願いします。」

 そう言い残し、礼拝堂を出ようとした。

「待て。ヤスオ。」

 メンガンダルが、ヤスオの肩を握り引き止めた。


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