異世界での異生活

なにがし

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52.演技

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 すると、口元に笑みが浮かぶ。

「ヘーカー、会いたかったよぉ。」

 振り返り両手を広げ、満面の笑みを浮かべて見せた。
そこには3人の男が立っていた。男達はヤスオの顔を見て、亡霊でも見たかのように驚いていた。

「てめえは、G級ヤスオ。生きていたのか。」
「おかげさまで、元気にしているさ。へーカーも元気そうだね。それに、ナナシくんに権兵衛くんも元気そうだ。」
「誰がナナシだ。ガラだ。」
「権兵衛じゃねえ。ダンだ、」
「それで、シンシアさんとは仲良くできたのかい?」

 へーカーの胸をポンポンと2回叩き、肩に手をかけ、馴れ馴れしい態度を取った。

「うるせい。次の日になったら、てめえが犯人じゃねぇって広がっていて、言えなくなったのよ。」
「そうだろう。だから言ったじゃないか。まったくドジで、早とちりで、大馬鹿野郎だなぁぁ。」

 へーカーの耳の近くで、大馬鹿野郎を大声で放った。
ヘーカーは耳をふさいで後ずさりした。

「てめえ、今度こそ、殺してやろうか。」

ヘーカーは剣を抜こうとする。だが、ガラがヘーカーの前に立ち、それを防いだ。

「よせ、へーカー。こんなところで剣を抜いたら、資格を失うぞ。」
「お友達の方が賢いようだな。それに俺が生きていたことで、お前達の罪が軽くなったのだろう。感謝こそされても、剣を抜かれる筋合いはないよな。」

 ヤスオが死ねば殺人だったが、生きていたので暴行へ格下げになったのだから、確かに感謝されてもいいかもしれない。だが、今のヘーカーにそれを理解する冷静さはなかった。顔は、真っ赤になり血管が浮き彫りになり、歯を食いしばり過ぎて口から血が流れ出ていた。

「ヘーカー、奴の言うとおりだ。ここは引いた方がいい。」

 だが、ヘーカーの怒りは収まらずガラを払いのけ、ついに剣を抜いた。そして、あの独特の構えをして見せる。
肩越しの構え。本来は、剣を水平に持ち相手に体の側面を見せて体で刀身を隠す構え。
だが、ヘーカーの場合は、肘を上げ、剣を肩に乗せ振り下ろす態勢で刀身を隠す変形型。
前回とは違う本気度で、じわじわと間合いを詰め、一撃を狙う。ヤスオは刀身が見えないので、相手の射程がつかめず、いつ斬りかかってくるか、予測できない。
この異様な事態に、周りの冒険者達がざわめき、息を飲む。

「死にやがれ。」

──カラン、カラン、カラン。

 ヘーカーは剣を振り下ろそうとした瞬間、右手に強烈なしびれが走る。それは剣を持っていられないほどの激痛で、思わず剣を捨て、うずくまってしまう。まだ、しびれの残る右手をおさえて、ヤスオを、睨みつける。

「てめえ、何をしやがった。」

ヤスオは腕組みをして余裕を感じさせた。そして、ヘーカーに近づき、あえて顎を少し上げて、見下げた視線を送り、にやけて見せる。

「何されたか分からないようじゃあ、勝負にならないな。」

 ヘーカーを横目に、出口に向かって歩き出し、手前で立ち止まる。そして、振り返りヘーカーとフランツを順番に指差す。

「ヘーカー、フランツも。もはやお前達に、俺を襲う理由はないはずだ。だが俺には、お前達を襲う理由がある。それを忘れるな。」

 そうして、ヤスオは冒険者組合を後にした。
この一部始終を見ていた冒険者や職員全員が息を飲んだ。
そして、ヘーカーを手玉に取った男として語り継がれることになる。
余談だが、すべてを見ていた受付のユキナは不審者がG級ヤスオだと知る。
そして、以前多大な迷惑をかけたこと、今回は不審者扱いしてしまったことを思い出す。

──わ、わたし殺される?

自分にも襲われる理由があることに気づき、血の気が引いた。

(足が震えているわよ。)
「そりゃ震えますよ。怖かったぁぁぁ。俺の一世一代の演技ハッタリ、どうでした。」
(なかなかの役者ぶりだったわ。あなたの心臓の鼓動を知っている者として、よくあそこまで頑張れたと感心したわ。)
「はいぃ。ここまで頑張れたのはアリ姉さまのおかげと感謝しております。」
(まぁ、萎縮して魔石の換金を忘れるところが、相変わらずだけど。)
「すいません。もう怖くて、あれ以上あの場にいれませんでした。」
(ヘーカーには、強電魔法を使ったの?)
「はい。まさか本当に剣を抜くバカだったとは。一か八かの無詠唱だったのですが、うまくいってよかったです。」
(まさに、絶妙なタイミングだったわね。)
「あいつ、振り下ろす前に、“死にやがれ”なんて言うから、分かりやすかったです。ほんと、バカですね。」
(そういえば、前回も“行くぜ”なんて言っていたわね。)

 ヤスオのビビリようは、尋常ではなかった。こんな小心者にこれだけの力を持たせて大丈夫なのかと、アリアドネは心配になった。
だがどうにもならないので、これ以上、考えないことにする。

(次はダナエの店だけど、換金してないよね、お金足りる?)
「はい。今回は乗り切れそうです。それで、そのぉ、アリ姉様の服がなければ大変、助かるのですが。」
(い、る、の。)   「はい。」

──カランカランカラーン。
「いらっしゃい。」

 扉の鈴の音を聞きつけ、ダナエが出てきた。

「あら、あんた、ヤスオさんだね。また来てくれたのかい。毎度ありがと。」
「こんにちは。また女物の服を買いにきました。」
「くる頃だと思っていたよ。待っていな。」

 ダナエは奥に行き、女性用の下着と服を何着か出すとカウンターに置いた。
その中の1着を持って、ヤスオに広げて見せた。

「これなんか、どうだい?」
(いい。前よりオシャレだわ。しかも素材もよくなっている。それに決めたわ。)
「はい。それをお願いします。」

 前の服と今回の服との違いが分からない。
ヤスオには色と柄が違うだけの同じワンピースにしか見えなかった。
ダナエはカウンターに戻ると、その服をたたんで下着と一緒に袋詰めする。
そして、出していたその他の服もたたんで下着と袋詰めした。
カウンターの上には紙袋が3個置いてあった。

「これが、子供用。これが、ヤスオ用。ヤスオ用はアリアドネ様に合わしたサイズだけどあの方は一般的な女性より大きいからね。一般的な女性のサイズも持っておいたほうがいいよ。で、これが大人用。」

 ダナエの言っていることが、理解できなくて、豆鉄砲を食らったような顔になった。

「あのぉ。ヤスオ用だけでいいのですが。」
「安心しな。料金はいらないよ。……イリスが世話になったね。ありがとう。」

ダナエのまぶたに涙が溜まってきていた。ついには、溢れ頬を伝っていく。

「ソフィアさんとお知り合いでしたか。」


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